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身代わりの罠
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「ここは……? まさかあのまま寝ちまったのか」
鐘崎にしては有り得ない話だ。いくら疲れていたとしても、任務の最中に眠り込んでしまうことなどないからだ。状況が掴めずにいると、隣の寝室からメビィがやって来た。
「あら、遼二さん。お目覚めになった?」
見ればガウン姿だ。ということは彼女も今起きたところというわけか。
「俺はいったい……」
「昨夜ルームサービスを召し上がった後にそこで寝てしまわれたのよ。一応毛布だけ掛けて差し上げたんだけど、風邪を引かなかったかしら?」
「……あんたがこれを?」
毛布をじっと見やりながらも失態という表情で眉をしかめている。
「きっと疲れていらしたのね。ああ、あなたの組事務所には連絡を入れておいたからご心配なさらないで。幹部の清水さんっておっしゃる方が出られて、敵の監視係を引きつける為に今夜はここでお泊まりいただくからって説明しておいたわ。遼二さんは手が離せないからアタシが代わりに連絡を入れたとお伝えしたら納得してくださったわよ」
「……清水が。そうか……すまない。世話を掛けた」
何故、任務中に眠ってしまったのか、鐘崎は半信半疑の様子でいたが、昨夜開いたシャツの襟も元通りにしておいたことだしとメビィは何事もなかったかのように微笑を浮かべている。
「あなたが寝てしまってからもアタシのチームが敵を見張っていたけど、深夜頃には撤収したっていうことだったわ。残業の甲斐があったわね」
しれっと真っ当なような台詞を言ってのける。昨夜、対面のビルにいた人影は敵の監視役でも何でもなく、鐘崎を陥れる為のメビィの仲間だったなどとは口が裂けても言うわけがない。何も知らないのは鐘崎ばかりであった。
◇ ◇ ◇
一方、汐留の周の社長室では、出勤した李が珍しくも焦った様子で驚きの声を上げていた。
「これは……! 老板、ご覧ください。少々大変なものを発見いたしました……」
李の日課は出社後すぐに裏の世界の情勢を把握する為に独自のデータベースにあるニュース掲示板をチェックすることである。今日もいつも通りにパソコンを覗いたところ、驚愕といえる画像が視界に飛び込んできたのだ。
すぐさま主人の周に報告を入れる。すると周と冰が揃って李のかじりついているパソコンを覗き込みにやって来た。
「……!? 何だ、これは」
「わ……ッ! これ……まさか鐘崎さん!? ですよね?」
「ああ……」
「で、でも髪の色が違うし……」
映っているのは明らかに鐘崎だと思えるのだが、信じたくないという思いからか、冰は別人ではないかと不安げに周を見つめる。
「ヤツは今、身代わりの任務中だからな。その人物になりきる為に髪を染めているんだ。間違いなくカネだ……」
覗き込んだ画面には鐘崎が下着姿の女とソファの上で抱き合っている画像が数枚映し出されていたのだ。冰などは見てはいけないものを見てしまったというようにして、咄嗟に手で顔を覆ってしまったほどだ。
鐘崎にしては有り得ない話だ。いくら疲れていたとしても、任務の最中に眠り込んでしまうことなどないからだ。状況が掴めずにいると、隣の寝室からメビィがやって来た。
「あら、遼二さん。お目覚めになった?」
見ればガウン姿だ。ということは彼女も今起きたところというわけか。
「俺はいったい……」
「昨夜ルームサービスを召し上がった後にそこで寝てしまわれたのよ。一応毛布だけ掛けて差し上げたんだけど、風邪を引かなかったかしら?」
「……あんたがこれを?」
毛布をじっと見やりながらも失態という表情で眉をしかめている。
「きっと疲れていらしたのね。ああ、あなたの組事務所には連絡を入れておいたからご心配なさらないで。幹部の清水さんっておっしゃる方が出られて、敵の監視係を引きつける為に今夜はここでお泊まりいただくからって説明しておいたわ。遼二さんは手が離せないからアタシが代わりに連絡を入れたとお伝えしたら納得してくださったわよ」
「……清水が。そうか……すまない。世話を掛けた」
何故、任務中に眠ってしまったのか、鐘崎は半信半疑の様子でいたが、昨夜開いたシャツの襟も元通りにしておいたことだしとメビィは何事もなかったかのように微笑を浮かべている。
「あなたが寝てしまってからもアタシのチームが敵を見張っていたけど、深夜頃には撤収したっていうことだったわ。残業の甲斐があったわね」
しれっと真っ当なような台詞を言ってのける。昨夜、対面のビルにいた人影は敵の監視役でも何でもなく、鐘崎を陥れる為のメビィの仲間だったなどとは口が裂けても言うわけがない。何も知らないのは鐘崎ばかりであった。
◇ ◇ ◇
一方、汐留の周の社長室では、出勤した李が珍しくも焦った様子で驚きの声を上げていた。
「これは……! 老板、ご覧ください。少々大変なものを発見いたしました……」
李の日課は出社後すぐに裏の世界の情勢を把握する為に独自のデータベースにあるニュース掲示板をチェックすることである。今日もいつも通りにパソコンを覗いたところ、驚愕といえる画像が視界に飛び込んできたのだ。
すぐさま主人の周に報告を入れる。すると周と冰が揃って李のかじりついているパソコンを覗き込みにやって来た。
「……!? 何だ、これは」
「わ……ッ! これ……まさか鐘崎さん!? ですよね?」
「ああ……」
「で、でも髪の色が違うし……」
映っているのは明らかに鐘崎だと思えるのだが、信じたくないという思いからか、冰は別人ではないかと不安げに周を見つめる。
「ヤツは今、身代わりの任務中だからな。その人物になりきる為に髪を染めているんだ。間違いなくカネだ……」
覗き込んだ画面には鐘崎が下着姿の女とソファの上で抱き合っている画像が数枚映し出されていたのだ。冰などは見てはいけないものを見てしまったというようにして、咄嗟に手で顔を覆ってしまったほどだ。
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