極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「うむ……アジア人の女に香港から来た男か。ひとつ心当たりがあるが……まさかまたあの楚優秦が絡んでいるんじゃあるまいな……」
 楚優秦――、その名前には紫月も聞き覚えがあった。
「優秦って……確か風兄ちゃんの結婚が決まった時に美紅姉ちゃんを拉致して手篭めにしようとしたあの女ですか?」
 その事件の時は紫月も周や鐘崎と共に香港を訪れていて、美紅の救出に一躍買ったのでよく覚えていた。
「あの時は世話になったな。ちょうど紫月君たちを空港へ迎えに行った帰り道だった。運良く救出が間に合ったから良かったものの、少し遅れていたら大惨事になるところだった」
 曹は礼を述べると、その後の経緯をザッと説明した。
「彼女の一家はあの事件の後、周直下を抜けてヨーロッパに移り住んでいる。俺が聞いた移住先は確かフランスだったはずだが、その後にまた引っ越したか、それともわざわざこの計画の為にウィーンまで出向いて来たのかも知れんな」
 優秦の起こした事件のことは鄧も概要だけは聞いていた。
「かれこれもう二年以上になるな。では今回、風老板がこのウィーンに来ることをどこかで聞きかじって、それでこの計画を思いついたと?」
「かも知れん。本当に優秦が犯人ならば目的は風の奥方だろう」
 曹は優秦が未だに風への想いを諦め切れていないのかと驚いているようだ。
「とにかく奥方の無事を確かめないと!」
「おそらくは香港から来た男というのが、我々とは別の場所で美紅さんを見張っていると推察できます」
「仮に優秦が黒幕だとすれば、その男ってのは以前楚の組織にいた者かも知れんな。もしかしたらあの事件の時、奥方の手篭めに加わっていた内の一人とも考えられる」
 そうであれば事は一刻を争う。皆はすぐに彼女を捜し出す手順を考えることにした。
 一番最初に案を口にしたのは冰だ。
「こういうのはどうでしょう。この中で一番弱そうに見えるのは俺です。見張りの人たちが帰ってきたら、俺がトイレに行かせて欲しいと言うんです。その間、皆さんはまだ眠ったふりをしていていただいて、俺だけがトイレに連れて行ってもらい、隙を見て相手の鳩尾にでも肘を入れれば……」
 冰自身がきっかけを作ると言う。見た目がやわに見える自分なら、相手も警戒しないだろうと言うのだ。
「名案かもな。だったら俺が密かに冰君たちの後をつけて、まずは一人を沈めよう」
 紫月がその役を引き受け、残るもう一人は曹と鄧で押さえてもらうという作戦だ。
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