極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「それにはまずこの縄をなんとかしないといけませんね」
 だがまあ、縛られているのは手だけだ。
「足は自由がきくから、最悪縛られたままでもなんとかなりそうだが……。ヤツらが武術に長けていなければの話だがな」
 曹が縄をギシギシとさせながら、どうにかして外せないものかと眉をひそめる。
「私の見たところ、見張りの二人は玄人ではなさそうでしたがね。ですが舐めて掛かるのは危険です。どこかに縄を切れるようなブツでも転がっていればいいのですが」
「そういえば鄧先生はいつも最小限の救急用具を入れた鞄を持ち歩いてたんじゃね?」
 その中には手術に使うナイフか、もしくは包帯を切るハサミなどもあるはずだ。紫月が訊くと、鄧は残念そうに肩をすくめてみせた。
「それが……どうやら手荷物はすべて取り上げられたようですよ? 鞄はもちろんのこと、身につけていた腕時計やカフスボタンなども見当たりません」
「マジッ!?」
 紫月も冰も、そして曹も慌てて自らの身体を確かめる。
「うわ、ホントですね! 俺の腕時計もありません! 紫月さんのピアスも付いていませんよ!」
 冰の腕時計と紫月のピアスには現在地の分かるGPSが組み込まれているのだが、それが外されているということは、周や鐘崎らが拉致に気付いたとしても容易にはこの場所を突き止められないということを意味する。
「くそ! 敵も素人じゃねえってことか」
 まあ本当に優秦が犯人ならば、そのくらいのことは思いついても不思議はない。彼女も一応は裏の世界でも育っただけのことはあるということだ。
「だが困ったな。この縄さえ外せればなんとかなりそうだが……」
 皆で地べたを見渡して、何か都合のいい物が落ちていないかと探す。すると見張りの二人が戻って来たようで、扉の開かれる音がした。ひとまずは全員で横たわり、眠ったふりを通すことにする。案の定、様子を見に彼らが近くまで寄って来る気配が感じられた。
「チッ! ほらな、まーだぐっすり夢の中だぜ」
「見張りなんざ必要ねえってのによ!」
 男たちはその場を通り越すと、またしても興味を引かれることを話し始めた。
「しかしこれ! 値打ちものの日本刀だって聞いたが、本当に使い物になるのか? 結構な値がつく代物だって話だが」
「こっちは骨董品の山さ。売っ払えば高額になるってホントかねぇ?」
「まあどのみちこれは俺たちのモンじゃねえし。あの香港から来たって男への報酬だってんだろ?」
「俺らにはちょっとばかりの現金と、それにコイツらから巻き上げた宝飾類をくれるとか言ってたがな」
「それにしても差があり過ぎだ! 今だったら誰も見てねえんだし、どうせならこっちをいただいてトンズラしちまおうか」
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