838 / 1,212
ダブルトロア
50(ダブルトロア 完結)
しおりを挟む
元々、椿は紫月の実家である一之宮道場に数多植っていたのだが、鐘崎がどうしても欲しいと言うのでその内の一本を分けてもらうことになった。組では専任の庭師がいるので新しく植樹してもらっても良かったのだが、どうしても一之宮道場から分けてもらいたいという鐘崎の希望で、一本譲ってもらったのだ。ついでに紫の藤棚も作りたいと、これもまた鐘崎が希望したというわけだった。
鐘崎邸の中庭は広く、季節毎に咲く多種多様の木々があったそうだが、当時は庭に植っていない種類の花だからという理由で鐘崎がせがんだのだそうだ。今となってみればその頃から紫月に対する想いをあたためていたのだろうと思えた。
「藤棚を造った頃はまだカネも中坊に上がる手前だったってんだろ?」
えらく昔から一之宮に心を寄せていたんだなと言っては周が冷やかし気味で瞳に弧を描く。まるで漫画に出てくるようなカマボコ型の瞳がフニャフニャと揺れるエフェクトを思わせるようなニヤーっとした視線を向けられて、鐘崎はガラにもなく頬を染めさせられてしまった。
「……ッ、うっせ! そーゆーてめえだってなぁ、他人のこと言えた義理か? 香港に残してきた誰かさんの為に、えらく豪勢な部屋まで作って待ってたくせに」
お返しとばかりに口をへの字にしながらジトーっと睨みを据える。
「いーだろーが、別に。俺ァなぁ、てめえと違って大人になってからのことだ。中坊の頃から色気付いてるマセガキと一緒にすんな」
「マセガキだー? そういうてめえはエロジジイじゃねえか」
「は? 俺ァまだジジィじゃねえっての! それにエロくもねえ……とは言い切れんか……」
うーむ、と気難しげに考え込む姿がコミカルだ。
「は、認めやがったな? エロ社長ぉー」
「うっせ! エロ若頭が」
「おーおー、エロってのは男にとっちゃ褒め言葉だからな」
「ほーほー、褒め言葉ね? んじゃもっと褒めてやるぞ、エロオヤジ」
「オヤジとは言い草だな。もうちょいで叔父さんになるヤツが何を言う」
「だから叔父さんと呼ぶな、叔父さんとぉー! お兄さんだ!」
額と額を突き合わせながら互いに中指を立て合う二人を横目に、嫁たちは大爆笑させられてしまった。
「あははは! 遼も氷川もまるっきしガキじゃねっか! それこそ中坊じゃねんだからよぉ」
「ホントですね。っていうか、相変わらず仲がいいんですから二人共!」
嫁たちに冷やかされて周と鐘崎はタジタジながらも頭を掻いては照れ笑いをしてみせた。
「でもそんなところが可愛い……なんて言ったら失礼ですけど、ギャップルールっていうのかな。意外な一面もまた魅力っていうか」
「おー、さすがは冰君! いつでも旦那を立てるのを忘れねえ! まさにデキた嫁さんなぁ!」
「イヤですよ、紫月さんったらー」
肩を突き合ってはしゃぐ嫁たちを横目に、周と鐘崎の旦那組も愛しげに瞳を細めては至極満足そうにして笑い合うのだった。
(おい、カネ。帰ったら早速エロオヤジと化すんだろ?)
(もちろんだ。つか、てめえもかよ)
(当然!)
(はは! やっぱエロオヤジだな)
(お互いにな)
楽しげな嫁たちを横目にヒソヒソ声で肘を突き合いながらニヤっと不敵に微笑み合う。着陸までが待ち遠しくて堪らない旦那衆だった。
日本はちょうど三寒四温の季節であろう。花々が次々と芽吹くように皆の心にもやわらかな風と暖かな陽射しが灯る、そんな春間近のことであった。
ダブルトロア - FIN -
鐘崎邸の中庭は広く、季節毎に咲く多種多様の木々があったそうだが、当時は庭に植っていない種類の花だからという理由で鐘崎がせがんだのだそうだ。今となってみればその頃から紫月に対する想いをあたためていたのだろうと思えた。
「藤棚を造った頃はまだカネも中坊に上がる手前だったってんだろ?」
えらく昔から一之宮に心を寄せていたんだなと言っては周が冷やかし気味で瞳に弧を描く。まるで漫画に出てくるようなカマボコ型の瞳がフニャフニャと揺れるエフェクトを思わせるようなニヤーっとした視線を向けられて、鐘崎はガラにもなく頬を染めさせられてしまった。
「……ッ、うっせ! そーゆーてめえだってなぁ、他人のこと言えた義理か? 香港に残してきた誰かさんの為に、えらく豪勢な部屋まで作って待ってたくせに」
お返しとばかりに口をへの字にしながらジトーっと睨みを据える。
「いーだろーが、別に。俺ァなぁ、てめえと違って大人になってからのことだ。中坊の頃から色気付いてるマセガキと一緒にすんな」
「マセガキだー? そういうてめえはエロジジイじゃねえか」
「は? 俺ァまだジジィじゃねえっての! それにエロくもねえ……とは言い切れんか……」
うーむ、と気難しげに考え込む姿がコミカルだ。
「は、認めやがったな? エロ社長ぉー」
「うっせ! エロ若頭が」
「おーおー、エロってのは男にとっちゃ褒め言葉だからな」
「ほーほー、褒め言葉ね? んじゃもっと褒めてやるぞ、エロオヤジ」
「オヤジとは言い草だな。もうちょいで叔父さんになるヤツが何を言う」
「だから叔父さんと呼ぶな、叔父さんとぉー! お兄さんだ!」
額と額を突き合わせながら互いに中指を立て合う二人を横目に、嫁たちは大爆笑させられてしまった。
「あははは! 遼も氷川もまるっきしガキじゃねっか! それこそ中坊じゃねんだからよぉ」
「ホントですね。っていうか、相変わらず仲がいいんですから二人共!」
嫁たちに冷やかされて周と鐘崎はタジタジながらも頭を掻いては照れ笑いをしてみせた。
「でもそんなところが可愛い……なんて言ったら失礼ですけど、ギャップルールっていうのかな。意外な一面もまた魅力っていうか」
「おー、さすがは冰君! いつでも旦那を立てるのを忘れねえ! まさにデキた嫁さんなぁ!」
「イヤですよ、紫月さんったらー」
肩を突き合ってはしゃぐ嫁たちを横目に、周と鐘崎の旦那組も愛しげに瞳を細めては至極満足そうにして笑い合うのだった。
(おい、カネ。帰ったら早速エロオヤジと化すんだろ?)
(もちろんだ。つか、てめえもかよ)
(当然!)
(はは! やっぱエロオヤジだな)
(お互いにな)
楽しげな嫁たちを横目にヒソヒソ声で肘を突き合いながらニヤっと不敵に微笑み合う。着陸までが待ち遠しくて堪らない旦那衆だった。
日本はちょうど三寒四温の季節であろう。花々が次々と芽吹くように皆の心にもやわらかな風と暖かな陽射しが灯る、そんな春間近のことであった。
ダブルトロア - FIN -
11
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる