857 / 1,212
紅椿白椿
19
しおりを挟む
「あ! 姐さん、お疲れ様っス!」
「今日も自治会だったんスね。このとこえらく頻繁みてえで」
「おう。今年はウチ、イベント設営の担当だからさ。夏祭りの準備で忙しいんだわ」
「そうっスか。お疲れっス!」
と、泰造と小川に気付いた紫月がにこやかな声を上げた。
「親方! 駈飛ちゃんも。今日も剪定? お疲れなぁ!」
フレンドリーに声を掛けられて小川は目を輝かせた。
「姐さん! お世話になってます!」
小川は例の不法侵入事件以降、この紫月には駈飛ちゃんと呼ばれていた。謝罪に来た時の態度が好感を持たれたようで、以来親しみを込めて接してくれるこの姐さんが小川も大好きであった。
「はぁ……相っ変わらず美人だなぁ。若頭さんは超絶男前だし、姐さんはめちゃめちゃ美人だし。マジ最高っスよね!」
奥の組事務所へと入って行く紫月と若い衆らの後ろ姿を見送りながら、小川はデレデレと頬をゆるませていた。
「おいコラ、駈飛! デレたツラしてんじゃねえ! ったく、てめえはあのご夫婦のこととなると仕事そっちのけでデレやがる……! っと、しょーもねえヤツだ」
泰造にゲキを飛ばされて、小川はタジタジと舌を出してみせた。
「すんません。けどなぁ、マジ似合いってーか……眺めてるだけで溜め息もんなんだからしょーがねえっスよ」
小川は初めてのあの日から鐘崎と紫月には尊敬というか憧れというか、ファンにでもなってしまったかのような感情を抱いていていたのだった。だからこそ今しがた若い衆らが話していた話題にも興味が尽きない。どこかの娘が若頭に気があるような話向きが気に掛かって気に掛かって仕方なかった。
「あーあ、ヘンなことにならなきゃいいけどなぁ……。どこぞの女が若さんに横恋慕とか、マジ勘弁して欲しいね」
ボケーっと立ち尽くしながらも眉根を寄せる。
「そりゃ最初はさ、野郎同士でチュウとか目の当たりにしちまって……ビックリしたし、ビビリもしたけどさぁ。けど若頭さんも姐さんもすげえあったけえ人だったし、おまけに超絶イケメンに超絶美人だろ? あの二人が仲良くやってる姿を見れんのが俺の癒しっつかさ。近頃じゃ楽しみになりつつあるんだよなぁ」
ブツブツと独りごちる様子にまたもや泰造からのゲキが飛ぶ。
「駈飛! ボサっとしてねえでこっち持ってろ! ったく、何度言わせんだ」
「あ、へーい! すいやせん。今行きやーす!」
いそいそと仕事に戻っていく小川であった。
そんな小川や若い衆らの危惧が具体的になったのは、それから数日後のことだった。
それはとある日の夕方、珍しくも邸にいた鐘崎が犬を連れて散歩に出掛けようとしていた時だった。例によって紫月は自治会の会合に出ていたので、迎えがてら若い衆と共に犬たちを散歩させようかという話向きになったのだが、門を出たところで訪ねて来た鞠愛と鉢合わせてしまったのだ。
「今日も自治会だったんスね。このとこえらく頻繁みてえで」
「おう。今年はウチ、イベント設営の担当だからさ。夏祭りの準備で忙しいんだわ」
「そうっスか。お疲れっス!」
と、泰造と小川に気付いた紫月がにこやかな声を上げた。
「親方! 駈飛ちゃんも。今日も剪定? お疲れなぁ!」
フレンドリーに声を掛けられて小川は目を輝かせた。
「姐さん! お世話になってます!」
小川は例の不法侵入事件以降、この紫月には駈飛ちゃんと呼ばれていた。謝罪に来た時の態度が好感を持たれたようで、以来親しみを込めて接してくれるこの姐さんが小川も大好きであった。
「はぁ……相っ変わらず美人だなぁ。若頭さんは超絶男前だし、姐さんはめちゃめちゃ美人だし。マジ最高っスよね!」
奥の組事務所へと入って行く紫月と若い衆らの後ろ姿を見送りながら、小川はデレデレと頬をゆるませていた。
「おいコラ、駈飛! デレたツラしてんじゃねえ! ったく、てめえはあのご夫婦のこととなると仕事そっちのけでデレやがる……! っと、しょーもねえヤツだ」
泰造にゲキを飛ばされて、小川はタジタジと舌を出してみせた。
「すんません。けどなぁ、マジ似合いってーか……眺めてるだけで溜め息もんなんだからしょーがねえっスよ」
小川は初めてのあの日から鐘崎と紫月には尊敬というか憧れというか、ファンにでもなってしまったかのような感情を抱いていていたのだった。だからこそ今しがた若い衆らが話していた話題にも興味が尽きない。どこかの娘が若頭に気があるような話向きが気に掛かって気に掛かって仕方なかった。
「あーあ、ヘンなことにならなきゃいいけどなぁ……。どこぞの女が若さんに横恋慕とか、マジ勘弁して欲しいね」
ボケーっと立ち尽くしながらも眉根を寄せる。
「そりゃ最初はさ、野郎同士でチュウとか目の当たりにしちまって……ビックリしたし、ビビリもしたけどさぁ。けど若頭さんも姐さんもすげえあったけえ人だったし、おまけに超絶イケメンに超絶美人だろ? あの二人が仲良くやってる姿を見れんのが俺の癒しっつかさ。近頃じゃ楽しみになりつつあるんだよなぁ」
ブツブツと独りごちる様子にまたもや泰造からのゲキが飛ぶ。
「駈飛! ボサっとしてねえでこっち持ってろ! ったく、何度言わせんだ」
「あ、へーい! すいやせん。今行きやーす!」
いそいそと仕事に戻っていく小川であった。
そんな小川や若い衆らの危惧が具体的になったのは、それから数日後のことだった。
それはとある日の夕方、珍しくも邸にいた鐘崎が犬を連れて散歩に出掛けようとしていた時だった。例によって紫月は自治会の会合に出ていたので、迎えがてら若い衆と共に犬たちを散歩させようかという話向きになったのだが、門を出たところで訪ねて来た鞠愛と鉢合わせてしまったのだ。
19
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる