極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 そんな彼が喜び勇んで帰った後、第一応接室では清水が不安そうな顔つきでいた。
「若、申し訳ありません。何とか若のお手を煩わせずに済めばと思ったのですが――」
「いや、構わん。あの親娘には命を助けられた身だしな。しかもわざわざ仕事としての依頼とまで言ってくださっているわけだし――ご要望に応えるのは礼儀だろう。まあ別の仕事でどうしても抜けられない時はその旨説明するとして、極力俺が出られるようにする」
「はあ……ご足労をお掛けします。それで――補佐ですが、誰をおつけいたしましょう」
「そうだな、正直に言って現在あのお嬢さんが誰かに脅迫されているとか、そういった緊急の護衛ではないからな。他の依頼に支障が出ない者で構わねえ」
 例えば脅迫状が来ているとか、大金が動く商談の護衛などというならともかく、今回はただの余暇のお付きである。手の空いている者でいいと言う鐘崎の気持ちは有難いが、清水としてはある程度臨機応変に対応できる者がいいと思っていた。
「では橘あたりで如何でしょう」
 橘は組の幹部補佐であり、何かと気配りのできる男だし体術面でも安心して任せられる。それに、清水としてもいわゆる少々突っ込んだ深い事情までを気兼ねなく打ち明け合える間柄なので、やり易いのだ。特に鐘崎に対する恋情を持っている相手がクライアントという今回のような場合には、あらゆる点で上手く立ち回れる者でなければならないと思うわけだった。
 鐘崎もそんな清水の気遣いがよく分かっていて、すまないなといった顔つきでいる。こんなふうに人の気持ちを察して思い遣ってくれる若頭だからこそ、何としてでも力になりたいと思う清水以下組員たちであった。

 その夜、清水は補佐役の件について橘と打ち合わせを行なっていた。
「河川敷での件といい、あのお嬢さんが若に気があるのは確かだろう。一緒に犬の散歩について行った若い衆の話からも明らかだ。何とか若のご負担を軽くするようお前さんが目を光らせてくれ」
「了解! けどなぁ、若もお辛いところだな。命の恩人っていったところで実際に若を救ってくれたのは親父さんの方だろ?」
「だが最初に気がついたのは娘の方だったそうだ。俺もこの間あの娘が訪ねて来た際に応対に出たんだが、アタシが遼二さんを助けてあげて――ってな言葉が少なくとも三度は出たからな。恩に着せるつもりではないにしろ、見返りという大義名分で若と過ごす時間を作りたいのは見え見えだ。我々としても強くは出られんのが辛いところだ」
「姐さんはどうお考えなんだ? 警護のことも姐さんに伝えたんだろ?」
「それは若から伝えるとおっしゃってたが……」
 あの姐さんのことだ。いつものように大らかな気持ちで受け止めてくれるのだろうが、傍で見ている者たちにとってはヤキモキさせられるのも正直なところだ。
「とにかくお前さんは若たちの側についてしっかりサポートしてやってくれ。河川敷の時も娘の方から若に抱きついていたと聞くしな。あまり非常識な距離感になるようならお前さんが悪役を買って出ることも念頭に置いておいてくれ」
「オッケー! ま、何とかやるさ」
 清水も橘も何事もないよう祈るばかりだった。



◇    ◇    ◇


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