極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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 辰冨がお礼方々鐘崎組へとやって来たのは、河川敷での一件から数日後のことだった。
 この日、娘の鞠愛は一緒ではなかったのだが、鐘崎にとっては少々厄介と思える話を持ち込まれて、またもや頭を悩まされることとなった。なんと鞠愛が外出する際に、護衛として買い物などに同行して欲しいと頼まれたからだ。しかも正式な依頼という形で代金も支払うと言う。鐘崎と共に応対に出ていた幹部の清水も、さすがに眉根を寄せてしまいそうになった。
 辰冨は一生懸命な様子だ。
「ご存知の通り、鞠愛は幼い頃から外国暮らしが続いていたもので、日本の地理には慣れておりませんでね。特に都内などは広くて人も多ございますし、親としましては何かと心配なのです。それに――一人で出歩かせて、またこの前のように体調を崩したりしたらと思うと心配でしてな」
 せっかくの日本での休暇中だ。何処にも出て歩くなというのも可哀想に思えて――と、辰冨は肩を落としてみせた。
「如何でしょう、鐘崎様のところでは警護の依頼なども受けてくださるとお聞きしていますし、引き受けてはいただけないでしょうか?」
 確かに仕事の依頼としてなら受けるのもやぶさかではない。だが、先日の件から見ても鞠愛が鐘崎に気があるだろうことは明白だ。そう思った清水は一顧客としての対応で引き受けるのがいいのではと思った。
「では、我が組の中でも特に体術面や気遣いに優れた者たちを警護に当たらせるように致したいと存じますが――」
 それで如何でしょうと尋ねる。通常、こうした個人からの警護依頼の時も同様の手配であるし、それならば特に問題はなかろう。ところが当の辰冨からは案の定と思われるような答えが返ってきた。
「はぁ、有難いご提案ですが……私共としましては警護は遼二君にお願いできればと思っております」
 身を乗り出す勢いで是非にと言う。
「もちろん遼二君は若頭さんでいらっしゃるから、お忙しいことは承知ですが……ご無理を申し上げる代わりに御礼の額も見合うだけ幾らでもお支払いいたします。どうかお引き受けいただけませんか」
 さすがの清水もこう出られては即答に迷うところだ。――が、承諾を口にしたのは鐘崎本人だった。
「――分かりました。ではお嬢様がお出掛けなされる際の警護ということで、ご依頼を賜ります。極力私がつかせていただけるように致しますが、他にもう二人ほど護衛をつけさせていただければ幸いです」
 それというのは運転手と、もう一人は何かあった時の為の補佐だと説明する。
「先日のように急にご体調を崩されないとも限りません。お嬢様のお話ではたまにああなるとおっしゃっていらしたので――このような体制で臨ませていただければと思うのですが、如何でしょうか」
 辰冨は今ひとつ納得しきれないような表情を見せたが、鐘崎がついてくれるというのならそれで満足しなければと思ったようだ。その条件で正式に依頼をお願いすると言ってきた。
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