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紅椿白椿
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「お父上から行き先は銀座とうかがっておりますが、それでよろしいでしょうか」
助手席から振り返りながら鐘崎が問う。
「ええ、そう。行きたいお店は目星をつけてあるの。ランチはホテルのレストランでどうかしら?」
「承知しました。ではとりあえず四丁目の交差点付近で車を停めましょう。そこからは歩きで構いませんか?」
「ええ、もちろん! 遼二さんも一緒に来てくれるんでしょ?」
「はい、お任せください」
鞠愛は行程自体には満足のようだったが、鐘崎の態度の方に関しては少々納得がいかない様子だ。
(何よ、遼二さんったら。さっきっからまるでお客に対するみたいな話し方! つまらないわね。もしかしたらあの紫月っていう人に気を遣ってるのかしら? 運転手もいることだし、後でアタシとどんな様子だったかっていうのがバレるとでも思ってるのね。きっとヤキモチ焼きなんだわ、あの人! 男のくせに女々しいったら!)
だが、今日一日鐘崎は自分だけのものだ。せいぜいその間にアタシの方を振り向かせてみせるわとばかりに唇を噛み締める鞠愛であった。
(そうよ、遼二さんは女の魅力を知らないだけ! きっとあの紫月っていうのがいるせいで、これまで女友達と遊ぶこともできなかったんじゃないかしら? まあそのお陰でヘンな虫がつかなかったっていう点では良しとするわ。見てなさい、今日帰る頃までには遼二さんの心を掴んでやるんだから!)
銀座に到着して車を降りると鞠愛のご機嫌はすっかり上昇したようだ。それというのも運転手は車を駐車場に入れる為、別行動。お付きの橘は数歩遅れてついてくるといった体制に満足したからだ。事実上鐘崎と二人きりのデートさながらである。できることなら人混みにまぎれて後方の橘を撒いてしまいたいと思うくらいだった。
「まずはどちらのお店をご覧になりますか?」
今日は大型連休の中日、銀座の街は歩行者天国で人が溢れて賑やかだ。パラソルの立ち並ぶ車道が解放されているせいでメイン通りの歩道は普段よりも十分余裕があるものの、それでも鐘崎が常に車道側を歩きながら前からやって来る通行人とぶつからないように気を遣ってくれている。それだけでも鞠愛にとっては大満足といったところだった。
(うふふ、やっぱりいいわねぇ。他人行儀な言葉使いがちょっと気に入らないけど、まあ仕方ないっか……。遼二さんって気遣いも完璧だし、こうして並んで歩いててもめちゃくちゃカッコいいし! 思っていた通りだわ! それに周りの人たちが皆んなアタシたちを見てる! きっと羨ましくて仕方ないんでしょ!)
事情を知らない他人から見れば自分たちは恋人同士に見えるのだろうと思うと、更に気分が上がる。鞠愛は目当てのショップを数軒覗いて回った後に有名宝石店へと向かった。
高級店なので客足はチラホラ見受けられるものの、隣接するパティスリィや百貨店と違って大混雑といったふうではない。客よりも店員の方が多いくらいかという閑静な店内では、話し声も筒抜けだ。鞠愛は迷わずといった調子で指輪のブースへと向かった。
「ねえ、遼二さん! あなたはどれがいいと思う?」
まるで当たり前のように腕に抱きついては飛び跳ねる勢いでいる。少し離れた位置にいた客や店員たちも、皆が同時に振り返るくらいのはしゃぎっぷりだ。橘もまた少し遅れて入店したものの、その様子に思わず手で額を覆いたくなる思いでいた。幹部の清水からもきちんとサポートするよう言われていたものの、これではさすがにサポートのしようが思いつかない。深い溜め息が抑えられなかった。
助手席から振り返りながら鐘崎が問う。
「ええ、そう。行きたいお店は目星をつけてあるの。ランチはホテルのレストランでどうかしら?」
「承知しました。ではとりあえず四丁目の交差点付近で車を停めましょう。そこからは歩きで構いませんか?」
「ええ、もちろん! 遼二さんも一緒に来てくれるんでしょ?」
「はい、お任せください」
鞠愛は行程自体には満足のようだったが、鐘崎の態度の方に関しては少々納得がいかない様子だ。
(何よ、遼二さんったら。さっきっからまるでお客に対するみたいな話し方! つまらないわね。もしかしたらあの紫月っていう人に気を遣ってるのかしら? 運転手もいることだし、後でアタシとどんな様子だったかっていうのがバレるとでも思ってるのね。きっとヤキモチ焼きなんだわ、あの人! 男のくせに女々しいったら!)
だが、今日一日鐘崎は自分だけのものだ。せいぜいその間にアタシの方を振り向かせてみせるわとばかりに唇を噛み締める鞠愛であった。
(そうよ、遼二さんは女の魅力を知らないだけ! きっとあの紫月っていうのがいるせいで、これまで女友達と遊ぶこともできなかったんじゃないかしら? まあそのお陰でヘンな虫がつかなかったっていう点では良しとするわ。見てなさい、今日帰る頃までには遼二さんの心を掴んでやるんだから!)
銀座に到着して車を降りると鞠愛のご機嫌はすっかり上昇したようだ。それというのも運転手は車を駐車場に入れる為、別行動。お付きの橘は数歩遅れてついてくるといった体制に満足したからだ。事実上鐘崎と二人きりのデートさながらである。できることなら人混みにまぎれて後方の橘を撒いてしまいたいと思うくらいだった。
「まずはどちらのお店をご覧になりますか?」
今日は大型連休の中日、銀座の街は歩行者天国で人が溢れて賑やかだ。パラソルの立ち並ぶ車道が解放されているせいでメイン通りの歩道は普段よりも十分余裕があるものの、それでも鐘崎が常に車道側を歩きながら前からやって来る通行人とぶつからないように気を遣ってくれている。それだけでも鞠愛にとっては大満足といったところだった。
(うふふ、やっぱりいいわねぇ。他人行儀な言葉使いがちょっと気に入らないけど、まあ仕方ないっか……。遼二さんって気遣いも完璧だし、こうして並んで歩いててもめちゃくちゃカッコいいし! 思っていた通りだわ! それに周りの人たちが皆んなアタシたちを見てる! きっと羨ましくて仕方ないんでしょ!)
事情を知らない他人から見れば自分たちは恋人同士に見えるのだろうと思うと、更に気分が上がる。鞠愛は目当てのショップを数軒覗いて回った後に有名宝石店へと向かった。
高級店なので客足はチラホラ見受けられるものの、隣接するパティスリィや百貨店と違って大混雑といったふうではない。客よりも店員の方が多いくらいかという閑静な店内では、話し声も筒抜けだ。鞠愛は迷わずといった調子で指輪のブースへと向かった。
「ねえ、遼二さん! あなたはどれがいいと思う?」
まるで当たり前のように腕に抱きついては飛び跳ねる勢いでいる。少し離れた位置にいた客や店員たちも、皆が同時に振り返るくらいのはしゃぎっぷりだ。橘もまた少し遅れて入店したものの、その様子に思わず手で額を覆いたくなる思いでいた。幹部の清水からもきちんとサポートするよう言われていたものの、これではさすがにサポートのしようが思いつかない。深い溜め息が抑えられなかった。
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