極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお探しですか?」
 一方、鞠愛たちの方では若い女性店員がにこやかに話し掛けていた。彼女もまた、イイ男を連れて羨ましいといった顔つきでいるのに、当の鞠愛はまるで『この人はアタシのものよ! 取らないでちょうだいね』とでも言いたげに、自慢げな上から目線で顎をしゃくってみせた。そんな様子に、
「ブライダルの物をお探しですか?」
 さすがは有名店の店員だ。客の機嫌を損ねないようにとの思いからか、鞠愛にとっては嬉しいであろう言葉を掛けてきた。
「うーん、そういうわけでもないんだけど……今日はただ……将来の下見的な」
 恋人面をしたいのは山々だが、鐘崎がはたして話を合わせてくれるかどうかまでは自信がない。話が食い違って店員の前で恥をかくのはプライドが許さないところだ。曖昧な返事しかできずに苦笑いが隠せない。
「左様でございますか。お気に召した物がございましたらご遠慮なくお申し付けくださいませ」
 お出ししますのでどうぞお手に取られてご覧くださいと微笑まれて、鞠愛は半ばタジタジながらもうなずいてみせた。
「そ、そうね……。じゃ、じゃあ……これと、そっちの奥のと……」
 半歩後ろにいる鐘崎の腕に抱きついては、「あなたはどれがいいと思う?」などと訊いてみせた。
 鐘崎にしても彼女の気持ちなど聞かずとも何となくは理解できていた。おそらくはデートのような気分でいるのだろう。彼女が自分に対してどの程度どう思っているのかは別として、疑似恋愛的なひと時を楽しみたいのだろうことはこれまでの彼女の言動からして明らかだろうと感じる。誤解を招くのは不本意だが、かといってここで恥をかかせるのもまずい。鞠愛が今現在辰冨から託された正式なクライアントであるからという以前に、彼女が自分の命の恩人であるのは事実だからだ。
「気になったのがあれば、着けてみたらいかがです?」
 当たり障りのなくそう言うと、案の定ホッとしたように鞠愛は肩を落としたようだった。少々堅苦しいと思える丁寧な言いっぷりだが、育ちのいい御曹司ならこのような口調で話す男もいるだろう。とにかくは嘘がバレずに助かったと言いたげに、そわそわながらも、
「そ、そうね。じゃあちょっとだけ……」
 二つ三つ手に取って、すぐに店を後にした。
「はあ、ビックリした! いきなりブライダルですかなんて言うんだもの、あの店員!」
 まるで店員のせいだと言わんばかりに言い訳する。
「まあ年頃の男女ですからそのように思われたんでしょう」
 鐘崎が当たり障りのなく擁護すると、「そうね」と言ってそそくさと歩き出す。
「そろそろお昼にしましょうか。遼二さんも一緒に行ってくれるんでしょう?」
「ええ、もちろんです。橘と運転手は別のテーブルで摂らせていただきますがよろしいでしょうか」
「え、ええ……構わないわよ」
 同じ店でも別のテーブルならまあいいだろうといったふうにうなずいてみせた。
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