極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「遼二さん、甘い物嫌いなの?」
「嫌いとまでは言いませんが、自分からは進んであまり食べないというところです」
 申し訳なさそうに笑う。
「ふぅん、そうなんだ。確かにスタイルいいものね。アタシも太っちゃうからあんまり食べないでおこうかなぁ」
 やわらかいスフレを潰すようにパンケーキごとフォークの先で突っつきながら唇を尖らせている。
 そんな様子を横目にしながら、ふと、脳裏に紫月のことが思い浮かんでしまう鐘崎だった。紫月ならばおそらくとびきりの笑顔で大口を開けていることだろう。

『んめえー!』
 顔の周りに音符が飛び交うような笑顔でふわふわのパンケーキもひと口でペロリとしそうだ。
『遼、どうせそれ食わねえべ? よこせよこせ』
 ニコニコと悪戯そうな笑顔を見せながらクッキーの皿を引き寄せては、それも美味しそうに平らげるだろう。その時の仕草や表情が脳裏に浮かぶ。あの細く長い綺麗な形の指先が、目の前を皿を引き寄せる幻想がテーブルの上で浮かんでは消える。

 そんな映像が脳裏を過れば、何だか泣きたいような気持ちにさせられた。
 今頃紫月はどうしているだろうか。今日も自治会に顔を出すと言っていたから、川久保老人らと楽しくやっているだろうか。そんな彼に対しても、いかに依頼とはいえ自分に気がありそうなこの鞠愛とホテルランチをしている現状に胸が痛む思いがした。
 デザートも済み、そろそろ行こうかと席を立った、その時だった。
「あらぁ、遼ちゃんじゃないの!」
 突如声を掛けられて後ろを振り返ると、そこには華やかな出立ちの美女が二人――偶然ねと親しげに手を振りながら近寄って来た。驚きつつも心なしか鐘崎の表情がホッとしたようにやわらかくゆるむ。
「アカネさん、チエさん! いつも親父が世話になって。お二人もここで昼メシっスか? 今日はまたこんな時間から――随分と早いんだな」
「ええ。実は関西からいらしてくださるお得意様が連休でこっちに出ていらしててね。昨夜はウチに寄ってくださったんだけど、帰りの新幹線までお見送りしてきたところなのよ」
「そうスか。お疲れ様です! 相変わらずご盛況のようで何よりっスね」
 鞠愛にとっては鐘崎のフランクな態度に驚いたようだが、それもそのはずだ。なんと彼女らは鐘崎組とはよくよく顔見知りのクラブ・ジュエラのホステスたちだったからだ。二人共に鐘崎よりは十ほど年上で、店ではチイママの位にある酸いも甘いも知り尽くしたベテランといえる。互いにもう十年来の付き合いもあってか少々ぞんざいと思えるような話し方だが、彼女たちに対してはこれで普通なのだ。
 ジュエラというのは鐘崎の父親・僚一の幼馴染みがオーナーママをしている田端君江の店である。今でこそ鐘崎も紫月もクラブ・フォレストの里恵子の店に通う機会が多くなったものの、以前は君江ママのところの常連だったわけだ。僚一の方は相変わらずにジュエラを贔屓にしているし、この二人の女性たちとも長く懇意の間柄だった。彼女たちからすれば鐘崎は年の離れた弟のような存在なのだ。
「遼ちゃんこそー! 今日はなぁに? 相変わらずお仕事忙しいようで何よりね」
「可愛いお嬢さんを連れちゃって! オイシイお役目だわね!」
 二人は鐘崎と紫月の仲もよく知っている。そんな鐘崎が見知らぬ女性を連れていようと、すぐに警護の仕事なのだろうと思って疑わなかったようだ。
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