876 / 1,212
紅椿白椿
38
しおりを挟む
邸の最奥にある応接室では鐘崎と紫月、周に冰といったお馴染みの面々が顔を突き合わせていた。
「は、なるほどな。そいつぁカネにとっても痛えところを突かれたな」
鐘崎があらかた経緯を話して聞かせた後で、周がやれやれと肩をすくめては微苦笑していた。鐘崎にしてみても、こんなことを包み隠さず話せる相手は周や冰しかいない。当の紫月もまた、亭主を思いやる言葉をかけた。
「そっかぁ、駈飛ちゃんがそんなことをな。まあ俺もあのお嬢さんが遼に気があるんじゃねえかってのは薄々感じてたけどな」
それは河川敷での一件でも明らかだ。紫月にはあれが鞠愛の仮病だったのだろうことが分かっていたからだ。
「顔色も悪くねえし脈拍も正常だった。俺に対する態度もよそよそしかったからさ。きっとこの子は遼に惚れちまってるんだろうなって思ったよ」
それでもあの場で仮病と言わずに自律神経が弱っているんだろうと伝えたのは、彼女に恥をかかせない為の紫月なりの優しさだったのだ。
「まあ親父さんの休暇が明ければ、またすぐに海外へ戻ると思ってたから」
彼女が鐘崎の命の恩人だというのは事実であるし、休暇中のひと時の思い出になってくれればと思い、あまり抵触せずにいたのだそうだ。
「しかしカネにとっちゃ災難というか、一之宮にしても毎度苦労続きだな。こうも次から次へと女にちょっかいを掛けられたんじゃ堪ったもんじゃねえのは確かだ。いくら二人の気持ちがしっかり揺るがねえといっても、おめえらにとっては少なからず気持ちのいいもんじゃねえだろうしな。カネにも一之宮にも気の毒なのは事実だろう」
周が同情を口にする。
「でも……実際大変ですよね。誰かが鐘崎さんを好きになるのは……まあ、こればかりはどうにもならないというか仕方ないとしても、お二人がご夫婦って分かった時点でお相手の方が察してくれたらというか……諦めてくれるのが一番いいんですけどね」
冰も何とかいい方法はないかと、我が事のように真剣だ。
「ねえ、白龍だったらそういう時どうする?」
ふとそんなことを訊いた冰だったが、鐘崎自身はたいそう興味を引かれたのだろう。真顔で周の答えを待っているといった表情をしてみせた。
「そうだな。俺はカネよりも人間がやさしく出来てねえからな。ありのままを告げるのみだ」
「ありのままって?」
「てめえのココにある素直な気持ちを、まんま言葉に出して伝えるってことだ」
心臓の位置を指でトンと指しながら周は続けた。
「は、なるほどな。そいつぁカネにとっても痛えところを突かれたな」
鐘崎があらかた経緯を話して聞かせた後で、周がやれやれと肩をすくめては微苦笑していた。鐘崎にしてみても、こんなことを包み隠さず話せる相手は周や冰しかいない。当の紫月もまた、亭主を思いやる言葉をかけた。
「そっかぁ、駈飛ちゃんがそんなことをな。まあ俺もあのお嬢さんが遼に気があるんじゃねえかってのは薄々感じてたけどな」
それは河川敷での一件でも明らかだ。紫月にはあれが鞠愛の仮病だったのだろうことが分かっていたからだ。
「顔色も悪くねえし脈拍も正常だった。俺に対する態度もよそよそしかったからさ。きっとこの子は遼に惚れちまってるんだろうなって思ったよ」
それでもあの場で仮病と言わずに自律神経が弱っているんだろうと伝えたのは、彼女に恥をかかせない為の紫月なりの優しさだったのだ。
「まあ親父さんの休暇が明ければ、またすぐに海外へ戻ると思ってたから」
彼女が鐘崎の命の恩人だというのは事実であるし、休暇中のひと時の思い出になってくれればと思い、あまり抵触せずにいたのだそうだ。
「しかしカネにとっちゃ災難というか、一之宮にしても毎度苦労続きだな。こうも次から次へと女にちょっかいを掛けられたんじゃ堪ったもんじゃねえのは確かだ。いくら二人の気持ちがしっかり揺るがねえといっても、おめえらにとっては少なからず気持ちのいいもんじゃねえだろうしな。カネにも一之宮にも気の毒なのは事実だろう」
周が同情を口にする。
「でも……実際大変ですよね。誰かが鐘崎さんを好きになるのは……まあ、こればかりはどうにもならないというか仕方ないとしても、お二人がご夫婦って分かった時点でお相手の方が察してくれたらというか……諦めてくれるのが一番いいんですけどね」
冰も何とかいい方法はないかと、我が事のように真剣だ。
「ねえ、白龍だったらそういう時どうする?」
ふとそんなことを訊いた冰だったが、鐘崎自身はたいそう興味を引かれたのだろう。真顔で周の答えを待っているといった表情をしてみせた。
「そうだな。俺はカネよりも人間がやさしく出来てねえからな。ありのままを告げるのみだ」
「ありのままって?」
「てめえのココにある素直な気持ちを、まんま言葉に出して伝えるってことだ」
心臓の位置を指でトンと指しながら周は続けた。
21
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる