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陰謀
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「――そうか。だったら望み通りにしよう。今日から共に暮らそう」
「…………え?」
「あんたと息子は俺の家に来て一緒に住めばいい」
「……住むって……。でも……だったらあの人は? あなたが結婚してるっていうあの冰とかいう……」
「出会ったのはあんたが先だ。しかも血を分けた息子までできていたんだ。冰には悪いが出て行ってもらう」
「出……ッて、そんな……ッ! あの人を追い出すつもり……?」
「構わんだろう? それがあんたたち母子の望みだ。早速今夜から俺の家へ移ってもらう。冰には――当分ここで何不自由ない生活をしてもらい、いずれ彼の為に新しい住まいを見繕ってやればいい。何も知らなかったとはいえ俺はあいつと結婚していたんだ。そのくらいの温情は許して欲しいところだ」
話は決まった。早速家へ帰って親子三人、仲睦まじく共に暮らそうと微笑んでみせる。周は女の肩をグイと引き寄せながら言った。
「十五年ぶりの夜だ。今宵はたっぷり愛し合おうじゃねえか」
華奢な顎を持ち上げて瞳を細める。今にも口づけられそうな雰囲気に女は思わず顔を背けた。
「待って……! 待って周さん! アタシたちは……何もそこまで望んでるわけじゃないの……! あなたと冰さんの仲を裂くつもりもない……。アタシはただ……あの子を息子だと認めてもらえればそれで満足なの。一緒に暮らすとか……そんな図々しいことは言わないわ……! ただ……あなたに息子を……」
「認めて金を都合してくれればいい――そういうことか?」
見上げた周の真顔に圧倒されるように、女はガタガタと細い身体を震わせた。
「……周……さ」
「あんたは俺を好いてなどいない。本当の夫婦家族となって俺に抱かれるなど以ての外だ――そう思っている。言語が曖昧だというのも嘘だ。ただひとつ真実があるとすれば、それは是が非でも俺に息子のことを認知させたい。つまり目的は金か? 本当のことを言ってもらおうか」
格別に脅すような口ぶりではなかったものの、まるで動じない真顔――感情の見えない真顔でそう言われて、女は返す言葉さえ失ってしまったようだった。ガタガタと身を震わせて『ここまでか――』とでも言わんばかりにギュッと瞳を閉じている。
「李、俺だ。引き上げるぞ」
落ち着いた声音が耳に飛び込んできて頭上を見上げれば、スマートフォンを手にした周が隣の部屋の李にそう告げていた。
「待って……周さんッ! アタシたちは……」
「あんたらは当分ここで過ごしてくれて構わん。いずれその目的も明らかになろう」
「……そんな……」
それ以上言葉にならずに立ちすくむ女の元に、コネクティングルームからやって来た李ら三人が姿を現した。
「老板――」
「今日のところは引き上げる。行くぞ」
周はしっかりと冰の肩を抱き寄せると、李らを伴って部屋を後にしていった。
部屋に残された女は呆然――身動きさえできずに男たちの後ろ姿から視線さえ外せないままだ。
「……母さん」
息子にそう呼び掛けられてようやくと我に返る。そのまま糸に切れた人形のように彼女はソファへと崩れ落ちてしまった。
「…………え?」
「あんたと息子は俺の家に来て一緒に住めばいい」
「……住むって……。でも……だったらあの人は? あなたが結婚してるっていうあの冰とかいう……」
「出会ったのはあんたが先だ。しかも血を分けた息子までできていたんだ。冰には悪いが出て行ってもらう」
「出……ッて、そんな……ッ! あの人を追い出すつもり……?」
「構わんだろう? それがあんたたち母子の望みだ。早速今夜から俺の家へ移ってもらう。冰には――当分ここで何不自由ない生活をしてもらい、いずれ彼の為に新しい住まいを見繕ってやればいい。何も知らなかったとはいえ俺はあいつと結婚していたんだ。そのくらいの温情は許して欲しいところだ」
話は決まった。早速家へ帰って親子三人、仲睦まじく共に暮らそうと微笑んでみせる。周は女の肩をグイと引き寄せながら言った。
「十五年ぶりの夜だ。今宵はたっぷり愛し合おうじゃねえか」
華奢な顎を持ち上げて瞳を細める。今にも口づけられそうな雰囲気に女は思わず顔を背けた。
「待って……! 待って周さん! アタシたちは……何もそこまで望んでるわけじゃないの……! あなたと冰さんの仲を裂くつもりもない……。アタシはただ……あの子を息子だと認めてもらえればそれで満足なの。一緒に暮らすとか……そんな図々しいことは言わないわ……! ただ……あなたに息子を……」
「認めて金を都合してくれればいい――そういうことか?」
見上げた周の真顔に圧倒されるように、女はガタガタと細い身体を震わせた。
「……周……さ」
「あんたは俺を好いてなどいない。本当の夫婦家族となって俺に抱かれるなど以ての外だ――そう思っている。言語が曖昧だというのも嘘だ。ただひとつ真実があるとすれば、それは是が非でも俺に息子のことを認知させたい。つまり目的は金か? 本当のことを言ってもらおうか」
格別に脅すような口ぶりではなかったものの、まるで動じない真顔――感情の見えない真顔でそう言われて、女は返す言葉さえ失ってしまったようだった。ガタガタと身を震わせて『ここまでか――』とでも言わんばかりにギュッと瞳を閉じている。
「李、俺だ。引き上げるぞ」
落ち着いた声音が耳に飛び込んできて頭上を見上げれば、スマートフォンを手にした周が隣の部屋の李にそう告げていた。
「待って……周さんッ! アタシたちは……」
「あんたらは当分ここで過ごしてくれて構わん。いずれその目的も明らかになろう」
「……そんな……」
それ以上言葉にならずに立ちすくむ女の元に、コネクティングルームからやって来た李ら三人が姿を現した。
「老板――」
「今日のところは引き上げる。行くぞ」
周はしっかりと冰の肩を抱き寄せると、李らを伴って部屋を後にしていった。
部屋に残された女は呆然――身動きさえできずに男たちの後ろ姿から視線さえ外せないままだ。
「……母さん」
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