極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「笑うな! てめえだって似たようなもんだろうが」
「ふ――俺は紳士だからな。てめえと一緒にするな。しかしてめえもいい歳こいて張り切るなぁ。一之宮がよく野獣だなんだと騒いでるが、まさにその通りってか」
「いい歳とはご挨拶だな! 俺はまだまだ若いっての! それに――野獣ってのはある意味褒め言葉だろうが」
 いつまで経っても嫁にぞっこんというのは誇れることだと、鐘崎は鐘崎で鼻息を荒くしている。旦那たちのくだらない会話の側で、冰は頬を染めて恥ずかしそうにモジモジと視線を泳がせるばかりだ。
「ふむ、カネ! 今夜の寝る場所だが――」
 突如真顔になったかと思うと、周は広大なベッドを指差しながら、『ふふん!』と堂々胸を張ってみせた。
「いいか、こっちから冰、俺、おめえ、一之宮の順だからな!」
 つまり冰には触れさせんぞとばかりの勢いで、お返しとばかり鼻息を荒くして見せているのだ。
「おいおい……俺が冰に手を出すとでも思ってんのか?」
「なんせ野獣だからな。油断はできん」
「バカぬかせ! 俺ァそんな……」
 まさにくだらない言い合いに、紫月と冰は大爆笑させられてしまった。
 皆でワイワイ、たわいのないひと時が冰の心を癒す。こうして騒いでいる間は例の不安もすっかり忘れてしまうほどだった。

 次の日、四人でブランチを摂りながら周が言った。
「冰、そろそろ清明節も近い。黄のじいさんの墓参りがてら一度香港に帰るか」
「……え? でも……」
 清明節というのは日本でのお盆のようなものだ。先祖を思い、お参りして過ごす、香港に住む者にとっての大切な日である。墓参りに行こうと言ってくれる周の気持ちは有難いことこの上ないのだが、ただその頃はちょうど入社式の直後で、それなりに忙しいはずだ。そんな時期に社を空けてしまっていいのかと戸惑うような表情を見せた冰に、周はやわらかに微笑んだ。
「まあ確かにな。社の方もそう長く空けるわけにはいかんから、週末の連休を利用してほんの三日程度になると思うが――」
 とんぼ帰りで慌ただしいかも知れないがと言う周に、冰は嬉しそうに頬を染めては小さくうなずいた。
「ありがと、白龍。会社の方が大丈夫なら俺はすごく嬉しいよ」
「実はな、前々からいつかお前にプレゼントしたいと思っていたものがあってな」
「プレゼント……? 俺に?」
「そうだ。清明節はちょうど良い機会だ。香港に行ったら渡したい」
 それを聞いた鐘崎と紫月も、それだったら自分たちも是非同行したいと言い出した。
「じゃあ四人で行くか! 今回は仕事絡みじゃねえし、特にこれをしなきゃいけねえってな予定もない。ゆっくりできるだろう。時間的には忙しねえかも知れんが、水入らずで週末を過ごすのもたまにはいいじゃねえか」
「うん。鐘崎さんと紫月さんも一緒なら楽しいね!」
 冰は嬉しそうだ。
「よし、決まりだ!」
 こうして四人は急遽香港への小旅行に出掛けることとなったのだった。



◇    ◇    ◇


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