極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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 汐留、アイス・カンパニー社長室――。

「これは――! 何とまた珍しい事案ですね」
 午後のティータイムを前に側近の李が目を丸くしながら周の元へとやって来た。
「どうした。何かあったのか?」
 周に訊かれて手にしていた資料の束を差し出す。劉と冰も興味を引かれたのか、首を傾げながらその紙を覗き込みに周のデスクへと集まって来た。
「――ふむ、こいつぁ……李が驚くのも無理はねえ。ビルの爆破解体とあるが、この近所で行われるってか?」
 さすがの周も目を見張って驚き顔だ。李の持って来たそれには近々この近辺で古いビルの解体が行われるという知らせが記されていたからだ。しかも通常の解体ではなく爆破で一気に建物を突き崩す発破解体だというから驚くのも無理はない。海外では割とよく事例も聞くが、この日本に於いてはここ一世紀の間爆破による解体は行われていないはずだからだ。しかも高層ビル群が密集するこの東京でとなれば、いろいろと難しいのではと思われる。
「何でも最新技術によって周辺の建物への影響を最小限に抑えることのできる実験を兼ねての解体とありますね……。解体されるビルは海沿いで近年大々的な建て替えが予定されているという古い倉庫街のようですが」
 つまり、いずれすべてが撤去される予定の区画内にある古ビルを実験的に使うということらしい。
「影響が無いと謳ってはいますが、一応近隣地域に無断で行うわけにもいかずの告知といったところでしょうか……」
「ふむ、まあそこのところは調査に調査を重ねてのことなんだろうからな。万一にもここいら一帯でわずかでも影響が出るようなことがあれば、解体業者の方でも保障だ何だと責任の追求が来るのは承知のことだろう」
 重々考慮の上での決行なのだろうから、心配しても始まらないだろうと周は小さな溜め息をもらした。
「ビルの解体かぁ。ここからも見える位置なのかな」
 冰も半ば心配そうな顔つきながら、何も影響が無ければいいけれどと言っている。
「――で、その解体されるビルってのは爆破でやらなきゃならんほどに巨大だってのか?」
 周が案内の資料をめくりながら眉根を寄せる。
「いえ、それがどうもそうではないらしく――。建物自体はさほど大きくないようですが、目的は最新技術の試行にあるようですね」
「つまりは何だ。試しに吹っ飛ばしてみようってわけか」
「まあ、早い話がそのようです。説明によると爆破もタイマーを使用した遠隔操作だとかで、行われるのは深夜のようですね。海沿いですから音はそれほどでもないのかと……」
 住所を見れば確かに同じ区内ではあるが、すぐ目の前という位置でもない。それに、小さなビルというなら心配するほどでもないだろうか。
「とにかく決まっちまったもんはどうこう言ったところで始まらんか」
 様子を見るしかなかろうと周はまたひとたび小さな溜め息と共にどっぷりと椅子の背に身体を預けた。
 まさかこの爆破解体に絡んで予想もしなかった焦燥に見舞われることになろうとは、この時の周も、そして李や冰ら誰にとっても思いもよらぬことであった。
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