1,171 / 1,212
絞り椿となりて永遠に咲く
3
しおりを挟む
川崎、鐘崎組――。
「そんじゃちょっくら行って来るわ! 帰りは夕方になるけど留守番頼むなぁ」
紫月が側付きの春日野を連れて笑顔を見せる。源次郎は玄関先まで見送りに出て手を振っていた。
「ご苦労様です。お気をつけて。春日野君、姐さんを頼んだよ」
「はい! お任せください」
今日は駅前の商店街で藤祭りと称したイベントの飾り付けがあり、自治会をあげて手伝いに行くことになっているのだ。各町内から屋台なども出る為、丸一日かけてテントを組み上げたりと大忙しなのだ。紫月もまた、お馴染みの川久保老人ら自治会のメンバーたちと共に手伝いに向かうというわけだった。
鐘崎はそれより十分程前に幹部の清水と共に依頼の仕事に出て行ったので、亭主を送り出すと同時に紫月もまた現場へと向かったのだった。
駅前に着くとちょうど川久保老人らもやって来たところだった。
「紫月ちゃん、おはよう! 朝早くからすまんねー」
「おはよ、じいちゃん! じいちゃんたちこそ駆り出しちまって悪ィな!」
本来は自分たち若者が先頭だってやらなければならないのにと、紫月は老人たちを労う。
「いやいや、これも健康の為さね!」
川久保老人らにしてみれば、紫月のそういった心遣いの方が身に染みるといった調子で、元気の源になっているそうだ。
和気藹々、他の町内会の役員たちも続々と集まって来て、皆張り切って祭りの準備に精を出し合っていった。
昼食は商店街の老舗店から弁当が配られて、楽しい会話と共に皆で平らげた。そろそろ作業の続きに掛かろうかと立ち上がった時だった。
「あの……! 一之宮さんじゃないですか? 一之宮……紫月さんですよね?」
男に声を掛けられて振り返ると、そこには懐かしい顔の青年が逸ったように頬を紅潮させながらこちらへと近付いて来るのが分かった。
「……? あれぇ? お前さん確か……剣道部の」
「はい! 三春谷です!」
「あー、そうそう! 三春谷か! 久しぶりだなぁ! 卒業以来だべ?」
「お、覚えていてくださって……うれしいっス!」
三春谷と名乗った男は言葉通り本当にうれしさあふれんばかりといった顔つきで、瞳を輝かせながら声を弾ませた。
この三春谷というのは高校時代紫月の一学年下の後輩だった男だ。剣道部に所属していて、副主将を務めていたこともあり、何かにつけて道場の息子である紫月のクラスへと顔を出しては、交流のあった仲だった。
「いや、マジ懐かしいなぁ。何年ぶりだべ?」
「紫月さんたちが卒業して以来ですから……十……えっと三年? いや、十四年かな?」
「おー、もうそんなんなるか! 元気そうで何より!」
「紫月さんこそ……。その、変わってないっスね。特にその――何々だべっていう話し方! それ聞いた途端に高校時代に戻っちゃった気がしましたよ!」
三春谷はうれしそうに頭を掻きながら頬を染めた。
「そんじゃちょっくら行って来るわ! 帰りは夕方になるけど留守番頼むなぁ」
紫月が側付きの春日野を連れて笑顔を見せる。源次郎は玄関先まで見送りに出て手を振っていた。
「ご苦労様です。お気をつけて。春日野君、姐さんを頼んだよ」
「はい! お任せください」
今日は駅前の商店街で藤祭りと称したイベントの飾り付けがあり、自治会をあげて手伝いに行くことになっているのだ。各町内から屋台なども出る為、丸一日かけてテントを組み上げたりと大忙しなのだ。紫月もまた、お馴染みの川久保老人ら自治会のメンバーたちと共に手伝いに向かうというわけだった。
鐘崎はそれより十分程前に幹部の清水と共に依頼の仕事に出て行ったので、亭主を送り出すと同時に紫月もまた現場へと向かったのだった。
駅前に着くとちょうど川久保老人らもやって来たところだった。
「紫月ちゃん、おはよう! 朝早くからすまんねー」
「おはよ、じいちゃん! じいちゃんたちこそ駆り出しちまって悪ィな!」
本来は自分たち若者が先頭だってやらなければならないのにと、紫月は老人たちを労う。
「いやいや、これも健康の為さね!」
川久保老人らにしてみれば、紫月のそういった心遣いの方が身に染みるといった調子で、元気の源になっているそうだ。
和気藹々、他の町内会の役員たちも続々と集まって来て、皆張り切って祭りの準備に精を出し合っていった。
昼食は商店街の老舗店から弁当が配られて、楽しい会話と共に皆で平らげた。そろそろ作業の続きに掛かろうかと立ち上がった時だった。
「あの……! 一之宮さんじゃないですか? 一之宮……紫月さんですよね?」
男に声を掛けられて振り返ると、そこには懐かしい顔の青年が逸ったように頬を紅潮させながらこちらへと近付いて来るのが分かった。
「……? あれぇ? お前さん確か……剣道部の」
「はい! 三春谷です!」
「あー、そうそう! 三春谷か! 久しぶりだなぁ! 卒業以来だべ?」
「お、覚えていてくださって……うれしいっス!」
三春谷と名乗った男は言葉通り本当にうれしさあふれんばかりといった顔つきで、瞳を輝かせながら声を弾ませた。
この三春谷というのは高校時代紫月の一学年下の後輩だった男だ。剣道部に所属していて、副主将を務めていたこともあり、何かにつけて道場の息子である紫月のクラスへと顔を出しては、交流のあった仲だった。
「いや、マジ懐かしいなぁ。何年ぶりだべ?」
「紫月さんたちが卒業して以来ですから……十……えっと三年? いや、十四年かな?」
「おー、もうそんなんなるか! 元気そうで何より!」
「紫月さんこそ……。その、変わってないっスね。特にその――何々だべっていう話し方! それ聞いた途端に高校時代に戻っちゃった気がしましたよ!」
三春谷はうれしそうに頭を掻きながら頬を染めた。
68
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる