極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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 川崎、鐘崎組――。

「そんじゃちょっくら行って来るわ! 帰りは夕方になるけど留守番頼むなぁ」
 紫月が側付きの春日野を連れて笑顔を見せる。源次郎は玄関先まで見送りに出て手を振っていた。
「ご苦労様です。お気をつけて。春日野君、姐さんを頼んだよ」
「はい! お任せください」
 今日は駅前の商店街で藤祭りと称したイベントの飾り付けがあり、自治会をあげて手伝いに行くことになっているのだ。各町内から屋台なども出る為、丸一日かけてテントを組み上げたりと大忙しなのだ。紫月もまた、お馴染みの川久保老人ら自治会のメンバーたちと共に手伝いに向かうというわけだった。
 鐘崎はそれより十分程前に幹部の清水と共に依頼の仕事に出て行ったので、亭主を送り出すと同時に紫月もまた現場へと向かったのだった。

 駅前に着くとちょうど川久保老人らもやって来たところだった。
「紫月ちゃん、おはよう! 朝早くからすまんねー」
「おはよ、じいちゃん! じいちゃんたちこそ駆り出しちまって悪ィな!」
 本来は自分たち若者が先頭だってやらなければならないのにと、紫月は老人たちを労う。
「いやいや、これも健康の為さね!」
 川久保老人らにしてみれば、紫月のそういった心遣いの方が身に染みるといった調子で、元気の源になっているそうだ。
 和気藹々、他の町内会の役員たちも続々と集まって来て、皆張り切って祭りの準備に精を出し合っていった。
 昼食は商店街の老舗店から弁当が配られて、楽しい会話と共に皆で平らげた。そろそろ作業の続きに掛かろうかと立ち上がった時だった。
「あの……! 一之宮さんじゃないですか? 一之宮……紫月さんですよね?」
 男に声を掛けられて振り返ると、そこには懐かしい顔の青年が逸ったように頬を紅潮させながらこちらへと近付いて来るのが分かった。
「……? あれぇ? お前さん確か……剣道部の」
「はい! 三春谷です!」
「あー、そうそう! 三春谷か! 久しぶりだなぁ! 卒業以来だべ?」
「お、覚えていてくださって……うれしいっス!」
 三春谷と名乗った男は言葉通り本当にうれしさあふれんばかりといった顔つきで、瞳を輝かせながら声を弾ませた。
 この三春谷というのは高校時代紫月の一学年下の後輩だった男だ。剣道部に所属していて、副主将を務めていたこともあり、何かにつけて道場の息子である紫月のクラスへと顔を出しては、交流のあった仲だった。
「いや、マジ懐かしいなぁ。何年ぶりだべ?」
「紫月さんたちが卒業して以来ですから……十……えっと三年? いや、十四年かな?」
「おー、もうそんなんなるか! 元気そうで何より!」
「紫月さんこそ……。その、変わってないっスね。特にその――何々だべっていう話し方! それ聞いた途端に高校時代に戻っちゃった気がしましたよ!」
 三春谷はうれしそうに頭を掻きながら頬を染めた。
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