極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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 紫月は「あははは」と豪快に笑いながらも懐かしそうに笑顔を見せていた。
「おめえン方は立派になっちまってー!」
 着慣れたふうのスーツ姿でいる後輩を見てそう讃える。
「今はどうしてんの? そういや同じ市内に住んでんのに顔合わせることねえもんなぁ」
「ええ、自分は……卒業してから家を出ちまったもんで。職場、都内なんス。通えなくもないんスけど」
「あー、じゃ今は一人暮らし? 東京住んでんだ?」
「ええ。建設関係の会社でして。結構残業も多くてですね」
 だから少しでも会社の近くにと思って都内暮らしを決めたそうだ。
「そっかぁ、頑張ってんだなぁ」
「紫月さんは? 今でも道場手伝ってるんスか? 親父さんお元気っスか?」
「ああ、うん! お陰様でなぁ。親父、未だ現役バリバリで教えてるわ」
「そうっスか。っていうか今日は?」
 作業着姿の紫月の出立ちを見て不思議に思ったのだろう、そんなふうに訊いてきた。
「今日はな、藤祭りの準備でさ。自治会のおっちゃんたちとな」
「藤祭りっスか。そういえば俺らが高坊の頃からありましたね」
「つか、お前さんの方は? 今日は実家帰って来たんか?」
「ええ……まあ。帰って来んの、正月以来で」
「そっか。んじゃ、ご家族も首長くして待ってるべ! 早く帰ってやんな!」
 それじゃあなと言って作業に戻ろうとすると、
「あ! 紫月さん! その……今度……」
 三春谷が何かを言い掛けたが、それと同時に川久保老人らからちょっと手伝ってくれと声が掛かった。
「ああ、三春谷。悪ィ! そんじゃなぁ!」
「あ、はい……。引き止めちまってすいません。……失礼します」
「おう! おめえも気をつけて帰れなぁ」
 笑顔で手を振りながら走って行く後ろ姿を、三春谷が残念そうな顔つきで見送っていたことに紫月はまったく気付かなかったようだ。

 その日、鐘崎が帰宅するのは比較的早めだった。紫月も祭りの飾り付けに日没までかかったので、組に帰ったのはほぼ同時くらいだった。鐘崎の気遣いは相変わらずで、今日は丸一日自治会で奮闘してきただろう紫月の為に好物のケーキを買って来てくれた。
「うわ! さんきゅー! おめえだって依頼で出てたってのにいつも悪ィな」
「いや、お前も朝から力仕事だったろうからな。心ばかりだ」
「さっすが遼! 俺、愛されてんなぁ」
 食べる前から頬っぺたが落ちそうな笑顔で紫月は感激の面持ちを見せてくれる。鐘崎にとってはその笑顔こそが何よりの癒しであり、仕事の疲れなど一瞬で吹っ飛ぶというものなのだ。
「ありがとな、遼! 遠慮なくご馳走になるわ」
「ああ」
 返事は短く一見ぶっきらぼうにも思えるが、喜んでもらえて何よりだと顔に書いてある。そんな思いを体現するように、鐘崎は愛しい嫁を腕の中へと抱き包んではスリスリ、満足そうに頬擦りをしてよこした。
「ありゃ? もうほら、これ」
 朝方剃った髭が既に少し伸びて頬を撫でる感覚に、紫月は瞳を丸める。
「ん? ジョリジョリするか?」
「ん! この独特の感覚が気持ちいーけどな!」
 それにしても相変わらず髭が伸びるのが早いなぁと笑う。
「まあな、毛が伸びるのが早い男は愛情が濃いというだろう?」
 鐘崎は鐘崎で自慢げにそんなことを言う。その少し不敵な笑顔が何とも男前に思えて、頬が染まりそうだ。
「へへ! 愛情濃い旦那を持って幸せなぁ、俺!」
 満面の笑みで抱擁に応え、早速にケーキを頬張った紫月であった。
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