【ノルンの剣士】助けた親友と一緒に転生したら親友がなぜか聖女で神様になっていた

悠々天使

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19章 ー 少年 ー

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「イベリスさん、あなたは、ネクロマンサーの他に、【パペッティア】のスキルを持っているわね?」



訓練校に残ったイベリスは、食堂の入口前、通路の横にある大きな机の後ろで隠れていた。
魔術教官のクローディアが、イベリスを見つめる。

イベリスはクローディアの言葉を聞いて驚いた。

【パペッティア】のスキルについて、だれかに話したことはなかったからだ。
ブラックポンドでも、霊力保持者ということ以外に特に何か問われたこともなかった。

そのため、クローディアが知っていたことについて、恐怖よりも、嬉しさを感じた。

【パペッティア】のことを知っているのは両親くらいだ。

ただ、このスキルについては隠すように言われて育った。目立つことはマクエルの一族にとってプラスにはならなかったからだ。

だが、霊力保持者であることが魔術学会に知られて親元を離れることになってしまった。

イベリスはサミエルシティ出身の血統魔術師であり、貴重な存在だった。というのも、サミエルシティは、魔術師の町で、たくさんの高等魔術師がいる一方、規制も激しく、魔術に関する管理は他の地方に比べても異常だったのだ。

サミエルシティは、フォースインゴットと、聖ジグラット魔法都市の間にある。

魔法都市を警戒しているフォースインゴットにとって、高等魔術師が多いこのサミエルシティは脅威だった。

ゆえにフォースインゴットはサミエルシティを監視下に置くために友好条約を結んでいる。

内容はシンプルであり効力は大きい。魔術研究のための物資をフォースインゴットが提供する代わりに、研究の成果を報告するという内容だ。

一見、物資の提供をしているためサミエルシティの方が利益があるように思われたが、それは時が経つごとに覆る。

成果をジャッジし、その魔術を一般に公開するかどうかを決める権利を持つフォースインゴットは、サミエルシティの魔術研究の成果で作った魔術書を、独占することができたためだ。

これによってフォースインゴットは益々栄えることになった。

イベリスがブラックポンドへ連れられてきた過程も、この友好条約によって成果を報告する義務が生じたからに他ならない。

一般に魔術を公開する権利を持たないサミエルシティの魔術学会は、物資の提供を断るほど経済的に豊かではなくなってしまっていたため、こういった非人道的な扱いに関しても不用意に断るわけにはいかなかった。

フォースインゴットは、長期的にサミエルシティを傘下へ加えるために、経済的に支配してしまっていたのだ。

イベリスは国同士の条約によって連れられてきた犠牲者の一人と言えるだろう。

では、フォースインゴット出身のクローディアが知っているのは、イベリスが魔術学会で【パペッティア】を持っているという情報を共有されていたからかというと、そうではない。

クローディアがイベリスに詳しいのは訳があった。

イベリスはクローディアに問う。

「あの、どうして私のスキルを知っているのですか?」

クローディアは、ゆっくり、小さな声でイベリスへ打ち明けた。

「私の母親が、マクエルの一族なのよ、あなたとは血がつながっているわ」

イベリスは衝撃で声が出そうになったが、クローディアはとっさに口を押えた。

人差し指を立て自分の口元へ持っていき、静かにするようにジェスチャーする。

イベリスは自分の身内がこんな近くにいたことに嬉しさと衝撃を受けたと共に、自分のところへ助けに来てくれなかったことへの哀しさも同時に感じた。

クローディアはその心境を一瞬で察した。イベリスを抱きしめるクローディア。

「そうよね、つらいわよね。私も知った時に、あなたを助けに行けなかったことは心苦しかったわ。言い訳はしない。私が臆病者だったからなの。国の圧力に屈してしまった、愚かな魔術教官だと思って構わない。ただ、これだけは信じて。私は、あなたのことを聞いて、本気で胸を痛めていたということを」

イベリスは何とも感情が湧いてこなかった。ただ、クローディアというこの女性が、自分のことを大事にしようとしていることは伝わった。悪い人ではないことは確かだった。

命を懸けて、だれかを助けに行くこと。そんなことは普通、簡単にできることではない。

そんな時に浮かんだのが、ハルの顔だった。

ハルは、マリアという女の子を助けるために自分を顧みずに飛んで行ったのだ。言葉の通り、物理的に、命を懸け、飛んで行った。それがどれだけ異常なことなのか。それをイベリスも分かっていた。

クローディアが自分のことを知っても、マクエルの一族であっても、命を懸けるのはまた別の話だ。

ハルなら、私のことを知ったら飛んできてくれるのかもしれない。そう思うと、彼が無事なのか心配になり、涙が出てきた。同時に、会ったことのないマリアに、羨ましさで嫉妬した。

「クローディアさん、さっきね、ハルがね、死ぬ覚悟で飛んで行ったの……」

「ハル? あぁ、67番の子ね。あの子が?」

クローディアは67番の子のことを思い浮かべたが、人を助けるために駆けつけるようなタイプではないと思った。何か心境の変化があったのだろうかと思ったが、それにしても意外だった。

「大丈夫かな、ハル」

イベリスの両肩を持ちながら目を見つめ、クローディアは告げる。

「……信じなさい。もし彼が正しい行いをしたなら、きっと神は見捨てたりはしないわ」

イベリスは頷いた。

「彼は必ずここへ戻ってくる。だから、この場を私たちで切り抜けましょう。できるわね?」

「はい、クローディアさん」

「私とあなたは身内よ。クローディアでいいわ」

「うん、クローディア」

クローディアは目を見ながら頷いた。

「イベリス、あなたの【パペッティア】で、私の召喚する土人形を操って欲しいの」

「土人形? なにそれ?」

「闇魔法と土の術を使って召喚する囮用の人形よ。魔力がこもっているから遠隔で移動させるくらいならできるんだけど、細かい指示はできないわ。動かせばすぐに気づかれてしまう。だから、あなたの【パペッティア】を使って、複数同時に操作してほしいの。できそう?」

「たぶん」

「スキルはあまり慣れていないの?」

イベリスは首を振った。

「ううん。慣れてる。ずっと一人だったから、コレでずっと遊んでた。お母さんに気づかれずにお菓子を取ってくることもできるよ」

「分かったわ。ならできそうね。今いるのが食堂前の廊下。中へ入ると、右側にキッチン、厨房。左側が座学の教室へ続く通路になっているわ。まっすぐ奥へ進むと、大きな扉があって、そこを出ると、訓練校内の裏庭に出られるわ。さっき、捕まった子たちが、教室に移動させられたわ。敵のリトルシャドウは2体。学校の入口を警備してた、ダカン先生が憑依されて、今裏口側を見張っているわ。もう一体のリトルシャドウは憑依してないから、すぐに分かるけど、一応、リトルシャドウのことは知ってるわよね?」

イベリスは頷いた。リトルシャドウについては誰よりも近くで見ていたのだ。憑依もされかけた。正確には『マリオネット』によって操作されていたから、憑依されてはなかったはずだ。ここにいるリトルシャドウはどうなのだろう。

「先生、私、憑依に耐性があるの」

「どういうこと?」

「憑依されたんだけど、憑依されなかったのよ」

クローディアは混乱している。

「そうなの? 憑依されても、操られなかったってこと?」

「クローディアは『マリオネット』ってスキル知ってる?」

「えぇ、知識としては知ってるわ」

「私は、そのスキルで操られたんだけど、憑依はされなかったわ」

「じゃあ、マリオネットってスキルを使われると、ダメってこと?」

「ううん、さっきちょっと見えたけど、あの2体は、憑依はできても、『マリオネット』は使えないわ」

「どうして分かるの?」

「私とシャドウで実験させようとした博士が言ってたんだけど、マリオネットを使えるリトルシャドウって滅多にいないらしくて」

「……でも、そのリトルシャドウが、ここにいるかもしれないのよね」

「いないわ。今ここにいるシャドウ、実験で連れてきたそのスキルがあるシャドウじゃないもの」

クローディアは驚いた。リトルシャドウはほとんど同じ造形をしている。そんな魔物をイベリスは見分けることができるというのだろうか。

「あなたには、分かるのね? リトルシャドウの違いが。ダカン先生を見ても分かるって言うの?」

「分かるよ。ぜんぜん違う」

「……そう、あなたは憑依されないってわけね」

「うん」

クローディアは、イベリスが憑依されないということは、大きなアドバンテージになると思ったが、かといって、まともに攻撃を受ければ憑依されないにしても危険という意味では同じことではあった。

だが、憑依されないのだとしたら、隙をつくことはできる。

「イベリス。たとえそうだとしても敵の前に出すことはできないわ。私の作戦で行きましょう」

「ううん、私にもいい考えがある」

「どうする気なの?」

「憑依された『ふり』をして、リトルシャドウと会話するわ」

クローディアは衝撃を受けた。何を言っているんだこの子は?

「そんなことがあなたにできるの?」

「うん、実際話したし、できるよ。私、憑依されたふりをしながら、クローディアの土人形を操って、ダカン先生って人を捕まえるわ」

なんという勇ましいことをしようとしているんだとクローディアは思った。

「イベリス、そんな危険なこと、……本気で言ってるの?」

「ハルなら、これくらいするわ」

「すごい信頼しているのね。まだ会ったばかりでしょ」

「そうよ。会ったばかりだけど、分かるの。どうなっても絶対にハルは私を守ってくれる。だから私もハルを守らないと」

クローディアはイベリスの本気を感じた。

しかし、本気であっても危険な賭けであることは間違いない。

もし、イベリスが憑依されたふりによって一体のリトルシャドウを上手く操れるのであれば、拘束する対象はダカン先生のみということになる。

大幅に勝率は上がる。

土人形を操り、隙を作ることに成功すれば、後はクローディア自身の魔術で拘束すれば済むのだ。

イベリス頼みになってしまうことは、教官としては情けない気もしたが、勝つ見込みが高いのであれば、そちらへ賭ける方が遥かに現実的だろう。

クローディアは、イベリスを奮い立たせているハルという67番の少年が何なのか気になったが、彼のおかげで彼女がやる気になっているのだとすれば感謝するしかない。

そう言った意味では、彼のために、『イベリスを生かして』おかなくてはならないだろう。



彼は『必ず』ここへ戻ってくる。



イベリス、そしてこの訓練校を守るのは、『自分』だと、クローディアは覚悟を決めるのだった。




◇ ◇ ◇




俺は、気絶しているロベルトを近くの木にもたれ掛けさせた。

ディークがロベルトの呼吸を確認する。

ディークは、訓練校へ一人で戻ろうか迷っていた。

訓練校が危険なのであれば、ロベルトを連れていくことに躊躇してしまう。ディークは腕を組み、悩んでいる。

俺はそんなディークの様子に、むしろここで待ってもらっても良いのではないかとさえ思った。

カレンと俺が二人で訓練校へ戻り、リトルシャドウと戦う。そんなシナリオも考えた。

だが、考えようによっては対ロベルト戦以上に危険な賭けという気もする。

ただ、こちらにはナッツという切り札があった。

ナッツからは微量に黒い魔力が煙のように上がっており、カレンに分析してもらうと、これは黒魔術の壺ブラックマジックポッドの効果がまだ続いていることを意味しているようだった。

「ディーク教官、ロベルトさんを放置して行くのは、少し危険な気がします。俺と、カレンとナッツで協力すれば、勝機はあると思うので、行かせてもらえませんか」

ディークは信じられないような表情で俺を見た。怖い顔だ。どうしてディークはこんなに恐いんだろうと思った。

「何を言っている? 仮にロベルトを守るとしても、それはお前たちの仕事だろう。なぜ私が安全な場所にいて生徒を敵の渦中へ向かわせるんだ? そんな不合理なことがあるはずがないだろう」

「……は、はい、そうでしたね。すいません」

ディークの威圧には勝てない。彼はこれでも腹を思いっきり負傷しているはずだ。とんでもない『士気しき』だ。そういうユニークスキル持ちではないかと思った。

だが、そうしていると、訓練校の反対から、見覚えのある男が歩いてくる。敵ではないが、警戒する。

俺、カレン、ディークは、いつでも動けるように警戒心を高めた。

歩いてきたのは鎧の戦士であるドレイクだった。

彼は陽気なそぶりで声を掛けてきた。

「おう、ディークと、少年じゃないか。お嬢さんもいるね。無事でよかった」

俺はカレンに確認する。

「……カレン、彼はドレイクっていう戦士だ。憑依されてないか【アンヴェール】で確認できるか?」

カレンは力が抜ける。

「ええ、憑依はされてないわ。安心して。ディーク教官も、警戒を解いて大丈夫よ」

俺は警戒を解くが、ディークは変わらなかった。本当に信じないんだなこの人は。

ディークの警戒にドレイクもたじたじだった。

「おいディーク、俺は大丈夫だって。これでも結構魔力耐性はあるんだぜ。その分、アジリティの犠牲が大きいけどよ」

「そうか、半分は信じてやろう」

半分警戒を解くディーク。しかし半分とは?

「ま、まぁ、俺も加勢したいと思ってたんだ。ただ、みんな動きが速いからさ。どうにもね。ん? ロベルト! 足が! シャドウにやられたのか!?」

「いや、俺が切った」

飄々と答えるディーク。

「ええ!? そうか、事情は分からないが、厳しい戦いだったようだな。訓練校へ戻るのか?」

「あぁ、そうだ。ロベルトをどうするか、ちょうど考えていたところだ」

「そうか、なら、俺が面倒見ておいてやるよ。訓練校が気になるだろう?」

「大丈夫なのか? 本当に?」

「心配しなさんな。これでも俺は20年間、戦場で鉄壁の守りを見せてきたんだ。硬さには自信がある」

「信じられればいいが、どちらかというとお前が本当に憑依されてないかの方が心配だ」

「おいおい、そんなに疑ってるのか。だが証明しようもないしなぁ」

カレンが助け船を入れる。

「大丈夫よディーク教官。私のユニークスキル、そういうの暴く系だから、本気で任せても問題ないわ。後は実力次第じゃない?」

「そっちのお嬢さんも、怖いねぇー、まぁ、任せてくれや。お前さん方がやられたら、ロベルトは灯台守に預けといてやるから」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ」

俺はついドレイクに突っ込みを入れてしまう。

ドレイクは笑った。

「ガッハッハ、まー、みんな、まさか自分が死ぬなんて考えもしないからな。戦場ではあんなにビビっているのに、こういう場所では本当に強気なもんだ」

ディークも緊張が解けた様子だ。

「そういう憎まれ口が叩けるなら、本物だなドレイク。頼まれてくれるか」

「おうよ、任せろディーク。……そういや、その辺から魔力が集まっているが、大丈夫なのか?」


警戒するディークとカレン。

俺も魔力が集まっているという場所を見て警戒した。

その場所は、さっきリトルシャドウのコアが砕けた場所だった。


コアの欠片が消えるのと同時に、何か魔力が中心に集まっている。

「カレン、これは? シャドウか?」

「いえ、違うわ、魔物のモノじゃない。たぶん人間よ。何か再生しているみたいだけど、分からないわ」


キラキラと光る魔力が収縮し、片膝をついたヒトの形になる。大きさは子供だ。だが、どこか普通の子どもではない気がした。


光が消えると共に、白い服を着た赤毛の少年が現れた。

見たところ12~13歳くらいの、知的な少年だった。


しばらく沈黙が流れる空間。

ディーク、カレンも冷や汗をかいている。

俺も、倒したはずのリトルシャドウから人が生成されるとは夢にも思わなかったため、動揺した。

赤毛の少年は顔を上げて立ち上がった。

「あなた方が、この魔物を倒されたのですか? おかげで僕も無事に解放されました。ありがとうございます」

少年の高めの声だが、非常に落ち着いた印象のある丁寧な話し方だった。

敵ではないというのは何となくわかったが、どう判断していいか迷った。

「カレン、本当に敵ではないんだな」

「……えぇ、少なくとも魔物じゃないけど、……たぶん、コアと一緒に融合されていた実験体の子だと思うわ」

少年は、ゆっくり周囲を見渡す。灰色の目をしていて、状況に全く動じていない。

ただの少年ではないのだろう。

少年は自己紹介をした。

「みなさん、初めまして。僕は、ヨハン・ヴァイセンべルクと申します。闇魔術師の家系で、訳あって、こちらクロムランドのブラックポンドへ連れられてきました。どうやら、リトルシャドウとの融合には失敗したようですね。不甲斐ないことです。せっかく国のために働けると期待していたのに……」

ディークが口を挟んだ。

「そうか。君が、ジグラット魔法都市出身の、ヨハン・ヴァイセンベルクか。自ら実験体を志願したと聞いたが、本当なのか?」

ヨハンは、眉をひそめた。

「ええ、詳しいですね。僕が志願したことまで知っていらっしゃるとは、個人情報も何もあったものではありませんね。そういうところは、まだ発展途上のフォースインゴットらしいと言えばそれまでですが」

「ジグラットは何を考えているんだ?」

「フォースインゴットが困っているというから、僕が何とかしてあげようと思ったのに、ドクターレイクマンは思ったよりも実力のない方だったようですね。非常に残念です。しかし、皆さまには関係のないことです。結果として、リトルシャドウのコアから解放していただけましたので、感謝しかありません。お返しに協力させていただきますので、お名前をいただいてもよろしいでしょうか?」

ディークが、俺とカレンを見る。俺はカレンと目を合わせる。

カレンはディークに、彼が嘘をついていないことを、頷きながら手と顎のジェスチャーで伝えた。

「ディークだ。ここの戦士養成学校で教官をしている。君の情報を勝手にあさって悪かった」

ゆっくり頷くヨハン。

「いいでしょうディークさん。何か焦っておられるようですので、詳細は後ほどお聞きしましょう」

「私はカレンよ! 一応フォースインゴット出身の魔術師だけど、剣も扱えるわ」

「カレンさんですね。剣も扱えるのですか。確かにあなたのような方は剣の方が相応しいかもしれません」

「どういう意味よ!」
カレンはムッとした。

だが、ヨハンは全く意に介していない様子だ。

「マリアです。あの、本当に味方ですよね?」
マリアは不審がっている。

「ええ、もちろん。あなたはとても美しい方ですね。品性を感じます。マリアさん、ご心配なく」

「ドレイクだ。ヨハンって言ったか。お前くらいの歳にしては落ち着き過ぎているな。大丈夫か? ガッハッハ」
笑うドレイク。

「私の家系は姉を除いてみな品性を大切にしておりますので。当然のことです。教育の違いですので、それほど気になさらないでください」

「おお? ……いや、まぁ、そうだな。へへへ」

ドレイクは苦笑している。確かにこの返しはどう判断していいか分からない。バカにしている様子ではないが、天然なのだろうか?

ヨハンは俺を見た。


彼は俺を見ると、身体をビクつかせて驚いた。一瞬表情を歪めたが、すぐに元の調子に戻る。


俺はこの瞬間に、ヨハンが何かを察したことに気づいた。



「あなた、名前はなんです?」



「ハルだ」



「……ハル」



沈黙が流れる。



静寂の後、ヨハンは、俺がもっとも恐れていた質問をした。





「あなた、……もしかして、別の世界の方ではありませんか?」







「……え?」







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