ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?~クソザコステータスの人間が魔王軍に加入させられたら~

シュリ

文字の大きさ
53 / 53
第三章

第四十九話

しおりを挟む
 


 マギルス皇国を制圧した当のヴィルヘルムはというと、これまた特にすることも無く日々を過ごしていた。

 本来であれば今頃本国へと帰れていたのだろうが、マギルス皇国征服の後始末が残っているため自分だけ帰るわけにもいかず。仕方なく残ってはいるものの、雑事は全て斬鬼、そして新たにスキルを手にしたミミが全てこなしてしまう訳で。

 勿論彼が雑務に手をつけたところで役には立たないだろう。スキルで戦闘能力が上がっても、頭脳や思考力は据え置きのまま。結局何が出来るわけでも無いので仕方が無いのだが、彼は暇を持て余していた。

 部屋にいてもすることは無し、手持無沙汰に外へ出ることを決意する。別に外に何か用事がある訳では無いが、このまま暇を無為に過ごすよりかは幾分かマシだろう。そう思いながら街へ颯爽と繰り出す。

 とはいえ街に出たはいいものの、街行く人々の表情は暗く、パレードが行われた目抜き通りもどんよりとした雰囲気を漂わせていた。

 それも仕方ない。中央に鎮座する居城は一部崩壊しており、以前まで掲げられていたマギルス皇国の旗は下げられている。本国の拠点が敵の手中に堕ちたという朝一の告示は、国民の先行きに暗雲を立ち込めさせるには十分だった。

 良くて隷属か、悪ければ皆殺し。以前から伝え聞く魔人族の恐ろしさに人々は怯えている。確かに、以前までの魔王であればそういった虐殺は日常茶飯事だった為その未来もあながち間違いとは言い切れなかっただろう。最も、今の魔王であれば

『そんな下らん事にかかずらっている暇があるか、自意識過剰が過ぎるぞ人間共』

 くらいの一言で全部終わらせるだろうが。

 こんな最中で店を開ける剛毅な人もそう居らず、どの店を見ても閉まっている。身銭一つも持たず出てきてしまったヴィルヘルムだったが、これでは買い物どころの話ではないと頭を搔いた。


「あ、お兄さ……では無く、我が盟友では無いか!  久方振りだな!」

「!  ヴィルヘルム……」


 ふと声がする方に振り向くと、そこにはアンリ、そして彼女の妹であるイシュタムが、買い物帰りと思しき食材の詰まった袋を手にして立っていた。

 街中で知り合いから声をかけられるという経験が無かったヴィルヘルムは、予想外の出来事に硬直し言葉を返すことが出来ない。とはいえ側からみれば特に変化も無い為、イシュタムは返事を気にすることもなく言葉を続ける。


「このような場所で出会うとは奇遇だな。まあ、夜闇に忍ぶ者とはいえ偶にはそういった気まぐれもあるだろう。して、一体何をしていたのだ?」


 因みに国に統治の宣言を出したのは、一から十まで斬鬼の主導である。ヴィルヘルムは一度たりとも表舞台に立っていない為、彼が天魔将軍であるという事は国の上層部以外にとって知られざる事実となっていた。彼が気軽に街に出ても一ミリたりとて混乱が起こらないのはその為だ。

 当然アンリは知っているが、それを家族に言うわけにもいかず。故にイシュタムはヴィルヘルムに対して姉の知り合いという以上の情報を持ち得ていないのだ。その真の姿を知れば、きっと卒倒してしまう事だろう。


「……暇があってな。そちらは?」

「別段面白いこともない。ただの晩餐の買い出しよ。全く人の身は面倒だな?  定期的に食物を胃に入れなければ、まともに動くことも出来ぬのだから」


 フッ、と相変わらず格好付けたような言動をしているが、残念ながら付いてくるのは格好良さではなく可愛らしさだけだ。見る人が見ればイラッとしてしまうことだろう。

 しかし、いつもならこの辺りで彼女を止めるはずのアンリは動かない。それもそのはず、アンリはヴィルヘルムから視線を外して気まずそうな表情を浮かべていたからだ。

 アンリは操られていたとはいえ、ヴィルヘルム達に弓引いた身。斬鬼にああまで言われてしまえば、彼女としても立つ瀬がないというもの。一度裏切り行為を働いた相手に、これまでと変わらず接することが果たして出来ようか?  

 気まずさと居たたまれなさが限界に達したアンリは、結局逃げるように実家へと戻り、久方ぶりの母や妹達の相手をする事で自らの心を癒していた。いわゆる現実逃避ではあるが、そうする他は無かったのだ。

 いつまでも逃げられるものではないと分かってはいたが、しかしながらこんな街中での邂逅は予想だにしていなかった。跳ね上がる心臓を抑えながら、アンリは平静に努めようと自らの髪を弄び始める。


「……どうしたのだ同胞よ?  此度はやけに暗いではないか。一体何事だ?」

「え?  あ、何でもないわよ。何でも……」

「……ふむ?」


 いつもならば頭の一つでも殴られている所だが、何故か飛んできたのは歯切れの悪い言葉一つ。先程までは普段と変わらぬ態度だったいうのに、ヴィルヘルムが現れてからこうなったとなれば、流石のイシュタムでも何かあったなと察することが出来た。


「……ではそうだ!  我が盟友も晩餐を共にするというのはどうだろうか!  うむ、それが一番良いだろう!」

「ちょ、イシュタム!?」

「何だ、不満か?  別に母上は客人の一人程度気にする器ではないだろう」

「そうじゃなくて、ヴィルヘルムにも用事があるでしょう!  そんないきなり誘ったって、来るはずが……」


 チラリとヴィルヘルムの表情を伺うアンリ。だが変わらない鉄面皮の奥からは、何の感情も読み取れない。

 暫しの沈黙の後、ヴィルヘルムは静かに答えを出した。


「……分かっ、た」


 男ヴィルヘルム。天魔将軍となっても初心うぶなところは変わらないのである。






 ◆◇◆






「まあまあ、貴方がヴィルヘルムさん?  ええ、娘から話は聞いていますよ。なんでも色々お世話になったとか、お世話をされているとか……」

「ちょ、お母さん!」


 アンリの家を訪れたヴィルヘルムは、早速と言わんばかりに彼女の母親から歓待を受けた。

 三人の母親という事で苦労もしてきたのか、白髪混じりの髪を頭の後ろで束ねており、顔付きにも若干の疲れを感じる。ただ母親というにはいささか風貌が若過ぎるようにも見えた。

 興味津々でヴィルヘルムに詰め寄る彼女からは若々しさすら感じる。勢いに押されたヴィルヘルムが思わず面食らって後退りする程だ。


「あら、私ったら自己紹介もせず……私、アンリの母のティアマと申します。誰に似たのかお転婆な娘ですが、どうぞ良しなに」

「もー、お母さんは引っ込んでて!  ご飯の準備もあるんでしょ!?」

「あら、はいはい。お邪魔虫は引っ込んでますわね~、と。ほらほら、イシュタムもこっちよ」

「なぬ!?  待て、私も我が盟友と話を……分かった、分かったから襟足引っ張らないで!?」


 ホホホ、と早足で去っていく姿からは逞しさしか伺えない。ヴィルヘルムに至っては一言も発する事なく話が終わってしまった。

 去ってしまった後ろ姿を見送り、溜息をつくアンリ。二人きりになってしまった空間でおずおずとヴィルヘルムの方を向くと、やはり視線を若干外しながら彼に問いかける。


「……その、少し話がしたくて」


 何度か深呼吸をすると、決意を決めたようにヴィルヘルムの事を見上げる。変わらない表情からは感情が伺えないが、それでもここで言わなければいけない。今後の事、そしてあの夜の事を。

 友だからこそ言いづらいが、友だからこそ言わねばならない。人と魔人、勇者と魔王軍。本来は交わることの無い両者の絆は、薄氷の上で成り立っているのだと。


「あの、私は──!!」

「失礼、ヴィルヘルム様はいらっしゃいますか!?」


 が、そんな決意を崩すように、唐突にアンリ家の扉が開かれた。

 飛び出してきたのは何故かメイド服を着たミミ。息急き切った様子にこれは何事かと話を止め、アンリもヴィルヘルムも彼女の方を振り向く。


「ハァ……ハァ……良かった、ここにおられましたか。ヴィルヘルム様、今すぐお戻り下さい。火急の要件です!」

「……一体どうした」

「ヴェ、ヴェルゼル様です!  ヴェルゼル様がいらっしゃいまして、『ヴィルヘルムを出せ』と……」

「……あいつは」


 思わずヴィルヘルムも顔に手を当ててしまう。鉄面皮が僅かに歪んでしまうほど、彼女の奔放さは度が過ぎていた。
しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

もっちゃん
2019.07.30 もっちゃん

続きが見たいです

解除
もっちゃん
2019.04.20 もっちゃん

続き見たいです

解除
もっちゃん
2019.04.08 もっちゃん

お願いします

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。