婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera

文字の大きさ
11 / 15

そして現在

しおりを挟む
 

 見た目はともかく、五人の男が寄り添って、いちゃいちゃ接待もどきごっこをしている。


 真実を知っているわたしには、この半年は茶番にしか見えなくて。
 無表情を保つだけで精一杯だった。

 彼が時折わたしを見る。
 わたしが避けると、夜中に寮の私室を襲撃された。

 見える所にいてくれないと守れない、と真剣に説得された。
 殿下と兄上だけでなく、わたしまで守るつもりなのかと呆れたが、嬉しくて。

 まるで女性相手にするように、手の甲に口づけを落とすのはやめてもらいたかった。
 恥ずかしいので。

 わたしは彼の、ステルクの嫁になっても良い、と一年かけて思い直してしまった。
 見た目は美少女でも、中身はどこまでも男らしい辺境伯に……恋をしたから。

 男に恋をするなんて。
 まさか、美少女にしか見えない男にときめく日がくるなんて。
 目が合うだけで嬉しいとか、物語だけではないのか。

 拗らせている自覚がある。
 男同士でも愛しあえると、自発的に書物で学ぶほどには。

 望まれている、と感じたから。
 彼からの好意を感じるから。
 友人や同志ではなく、本来の意味での嫁として扱うつもりのようだから。

 いろいろと言い訳を重ねて、自分を誤魔化したが。

 つまるところ、わたしはステルクが好きだ。
 大好きなのだ。



 抱きしめられていた体が傾く。

「わっ」
「アルドレイ帰るぞ!」
「ええっ!?」

 どこにだ、という言葉を口にする暇もなく、ステルクに物語の姫君のように抱えられた。

 逆だろ!
 わたしにステルクを抱える腕力は無いので、実現は不可能だとしても。

「早退届は出してあるからねー」
「な、ちが、それっ」

 他人事のように、血縁的には義兄になるかもしれないオグンベクザンティ侯爵家令息が、声を張った。
 そんな気遣いの前に、弟を止めてくれ!

 うまく言葉にできないまま、誘拐された。
 そのまま貴族院に連れ込まれて、その場で職員立会の元、婚姻約束契約締結書を提出させられた。

 どうして、保証人の欄が埋まっていて、わたしが書くだけの状態の書類が用意されていたのか。
 立会可能な免許持ちの職員が、待ち構えていたのか。

 聞けば墓穴を掘る気がした。

 婚約式は辺境で行うから、と学院の寮ではなく、王都にある辺境伯の別邸に連れ込まれた。
 勢いで浴室に連れ込まれた。

 これまでに何度も会っている使用人たちが頭を下げて、溶けるように視界から姿を消していく。
 辺境に由縁を持つという使用人たちは、気配を消すのがうますぎた。

 引き剥がすように制服を脱がされる。

 貧相な自分の体を見せるのは恥ずかしい。
 運動は苦手なんだよ。

「最後までしないから心配するな!」
 
 なにをだ、と口にしたかったのを耐えた。

 純情な振りができれば良いが、わたしは十九歳の成人男性だ。
 知らない方がおかしいだろう。

 そして、ぺろり、と食べられた。
 宣言通り最後まではされなかった。

 しかし、書物の内容はあくまで知識でしかないのだな、と知った。
 色々と失った気がした。

 婚姻後はもっとすごくなるのだろうか。
 ……早まった気がしてならない。


 わたしはティグナレット辺境伯閣下の正式な婚約者となったが、卒院するまでは王都のアフ子爵家の令息だ。

 母が病で亡くなり、消沈した父が事故に巻き込まれて亡くなり。
 なにもかもを斜に構えて見ることしかできなくなっていたが、真っ正面から叩き破られた。

 実力行使による正面突破が一番だ、と闊達と笑うステルク相手に、我を張ることは不可能だ。

 わたしに新しい家族と、仕事と、居場所を与えてくれて。
 ……あ、愛されることを教えてくれたステルク。

 辺境領の人々に受け入れてもらえるかは、数ヶ月後の卒院を待たなくては分からない。

 義兄とステルクが大丈夫、と胸を張り、王都別邸の使用人たちも、美しい奥様なら大丈夫です、と絶賛してくれる。

 辺境の人々は、おかしい。
 けれど、まあ、嬉しい。

 これからも、獰猛な獣のような笑みを浮かべる婚約者に貪られながら、そう思うのだろう。










   了

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

処理中です...