神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第三部 白龍の神殿が落ちる日

白昼夢1

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 誰かに呼ばれている気がした――

 数ヶ月ぶりに戻ってきた白龍の神殿は、変わらず一行を出迎えた。馬車を降り、神殿に入ってすぐ、アルバートはふと、そんな気がして周囲を見回した。

 礼拝堂の中には何人かの神官と来訪者しかおらず、彼らは皆、部屋の正面に置かれた愛らしい少女の像の前で跪いている。来訪者たちが時折アルバートにちらちらと目を向けてくるが、そのどれもが神龍の愛し子を――神殿における最高位の特別な人間を見るような、慣れ親しんだ視線だ。聞こえてくる声はむしろもっと奥、礼拝堂の奥から聞こえているのではないだろうか。

「アル、どうしたの?」

 声の主を探して辺りを見回すアルバートが不思議に映ったのだろう。隣に立つアレスタが不思議そうな顔でアルバートを見た。

「誰かに呼ばれた気がしたんだけど……気のせいかな」

「僕には何も聞こえないけど、久しぶりに神殿に帰ってきたわけだし、もしかしたらシュカ様が寂しがっているのかもしれないね」

 シュカ様、と聞いて、確かにそうかもしれないとアルバートは思った。けれど神聖魔法を授かった時以来、シュカが自分を呼んだことはただの一度もない。それどころか、姿さえ見ていなかった。

(そういえばディアーナは人界まで来るくらいなのに、シュカ様の姿ってあの時以来見たことがないな。どうしてだろう)

 白龍の神殿で生活する以上、ディアーナよりシュカのほうが身近になるはずなのに、シュカの姿はほとんど見たことがない。アルバートは首を捻りつつ、アレスタに「そうだね」と笑みを返した。

「皆さん、おかえりなさい」

 とそこで、神殿の奥からハデスが現れる。
 柔らかな笑みを湛えてアルバートたちを迎えたハデスであったが、その表情にはどこか陰りと疲労が見て取れる。

 覇気のない表情のハデスを真っ先に気遣ったのは、彼の秘書であるアレスタだ。

「ハデス様、お顔の色が優れませんが……」

「ああ、少し疲れが出まして。……ですが、ご心配なく」

「本当に大丈夫ですか?受け取れる仕事は俺がやりますから、少し休んだらどうですか?」

 アレスタが言うと、ハデスはゆっくりと首を横に振った。

「心配はいりません。……それよりも、雪華の祈り、お疲れ様でした。アル、戻ってすぐですみませんが、今すぐ神龍の間に行ってください。シュカ様がお待ちです」

「え、シュカ様?」

 神は安易に人前に降り立つことはない。神聖で絶対の存在であるからこそ、神を人の理に堕とさない為にも、神が人に関わる時は細心の注意が必要なのであると、ハデスが過去に言っていた言葉を思い出す。神龍と深い縁を持つ神龍の愛し子であってもそれは同様で、白龍シュカの姿を見えることができるのは一生のうちでも片手で数えられる程度だ。

「はい。とても、大事な話です」

 ハデスの真剣な眼差しに、アルバートは頷くしかなかった。
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