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第三部 白龍の神殿が落ちる日
白昼夢2
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神龍の間は、神殿の最奥にある、文字通り神龍の住まう部屋だ。そこへの立ち入りが許されているのは、神龍の愛し子のみ。
神龍の間に近づくに連れて、アルバートを呼ぶ声は大きくなっていくようだった。質素ではあるが精巧に作られた調度品の並ぶ回廊を抜けていくと、大きな扉がアルバートの前に立ちはだかった。
この部屋を訪れるのは、神聖魔法を授かった時以来だ。自然と背筋が伸び、緊張が走る。アルバートは扉を軽くノックすると、深呼吸を一つして、その扉を押し開けた。
「失礼します」
部屋の中は薄暗く、アルバートは目を凝らして部屋の奥に目を凝らす。床に描かれた魔法陣とその中央にある祭壇が視界に入る。寝台のような祭壇には誰かが横になっていた。
「シュカ様……?」
アルバートの声に反応するように、寝台に横たわっていた人物がもぞりと動いた。長い白銀の髪が揺れ、同じ色の瞳がアルバートを捉える。見覚えのある姿形ではあったが、以前よりずっと顔色が悪く、やつれているように見えた。
「……アルか」
それは確かにシュカの声だったが、前に聞いたものとは違うように感じた。どこか弱々しく、か細い声だ。彼女は身を起こすと、祭壇の上に腰掛け、アルバートをじっと見つめる。
「はい。……あの……?」
困惑するアルバートを他所に、シュカは「そうか」と呟いた。淡々とした、感情を感じさせない声音だった。
「気にするな、マナが枯渇しているに過ぎん」
シュカは自嘲するように笑うと、彼女は大きく咳き込んだ。
その激しい咳に思わずシュカの背をさする。まるで人間と相違のない小さな背中は激しく上下を繰り返した。
「ハデス様は……ご存知なのですか?」
「ハデスのマナでは我が器を満たしきれぬ。元々そういう星の元に生まれた男だったからな」
シュカはそう言うと、再び寝台に横になった。
アルバートがシュカを覗き込むと、彼女はふと何かに気づいたかのように、アルバートの懐に視線を向けた。
「その懐のものは雪華の髪飾りか」
「え?あ、はい」
シュカが何を言いたいのかわからずに首を傾げる。するとシュカは重たげに手を伸ばし、アルバートの懐から髪飾りを取り出した。
「これを貰っても良いか?」
「え……?」
シュカの問いにアルバートは戸惑う。その雪華の髪飾りは、ティーアの眷属化の解消と引き換えにリオルが要求してきたものだ。魔族との取引は重罪であり、厳しく罰せられる上に、リオルがどこまで本気か計りかねていたこともあり、ずっと懐に忍ばせたままになっていた。
それを渡せば、ティーアを救う手立てが無くなってしまう――しかし、事情を説明せずに髪飾りを渡すことを拒否したら、その方が不自然だ。
「ええ、まあ……」
断る妙案は思い浮かばず、アルバートは流されるままに頷いてしまう。
「ありがとう、助かる」
シュカはアルバートの頭を優しく撫でると、まるで祈るように髪飾りを胸の前で握りしめた。
雪華の髪飾りが光り、中に宿っていたマナがシュカの身体に吸い込まれていく。
「やはりお前のマナは純度が高い。変革の到来を確信せざるを得ないほどに」
シュカはそう言うと、寝台の上で身を起こした。顔色は幾分か良くなっているように見えるが、万全とは言い難かった。根本的原因が拭いされておらず、付け焼き刃に近いのだろう。
彼女は雪華の髪飾りをアルバートの髪に挿すと額に触れた。その手から温かい何かが、ゆっくりと身体中に流れ込んでいくような気がした。
「お前の星はいつも数奇だな。もしいつか、この責務からお前が解放される日が訪れたなら、その時はどうか何ものにも縛られず自由に生きてくれ」
「シュカ様……?」
シュカはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、どこか寂しげに微笑んだだけだった。
「夢の終わりだ、アル。目覚めよ。別れの時だ」
シュカの唇がそう告げると同時に、アルバートの視界は白い光に包まれた。
神龍の間に近づくに連れて、アルバートを呼ぶ声は大きくなっていくようだった。質素ではあるが精巧に作られた調度品の並ぶ回廊を抜けていくと、大きな扉がアルバートの前に立ちはだかった。
この部屋を訪れるのは、神聖魔法を授かった時以来だ。自然と背筋が伸び、緊張が走る。アルバートは扉を軽くノックすると、深呼吸を一つして、その扉を押し開けた。
「失礼します」
部屋の中は薄暗く、アルバートは目を凝らして部屋の奥に目を凝らす。床に描かれた魔法陣とその中央にある祭壇が視界に入る。寝台のような祭壇には誰かが横になっていた。
「シュカ様……?」
アルバートの声に反応するように、寝台に横たわっていた人物がもぞりと動いた。長い白銀の髪が揺れ、同じ色の瞳がアルバートを捉える。見覚えのある姿形ではあったが、以前よりずっと顔色が悪く、やつれているように見えた。
「……アルか」
それは確かにシュカの声だったが、前に聞いたものとは違うように感じた。どこか弱々しく、か細い声だ。彼女は身を起こすと、祭壇の上に腰掛け、アルバートをじっと見つめる。
「はい。……あの……?」
困惑するアルバートを他所に、シュカは「そうか」と呟いた。淡々とした、感情を感じさせない声音だった。
「気にするな、マナが枯渇しているに過ぎん」
シュカは自嘲するように笑うと、彼女は大きく咳き込んだ。
その激しい咳に思わずシュカの背をさする。まるで人間と相違のない小さな背中は激しく上下を繰り返した。
「ハデス様は……ご存知なのですか?」
「ハデスのマナでは我が器を満たしきれぬ。元々そういう星の元に生まれた男だったからな」
シュカはそう言うと、再び寝台に横になった。
アルバートがシュカを覗き込むと、彼女はふと何かに気づいたかのように、アルバートの懐に視線を向けた。
「その懐のものは雪華の髪飾りか」
「え?あ、はい」
シュカが何を言いたいのかわからずに首を傾げる。するとシュカは重たげに手を伸ばし、アルバートの懐から髪飾りを取り出した。
「これを貰っても良いか?」
「え……?」
シュカの問いにアルバートは戸惑う。その雪華の髪飾りは、ティーアの眷属化の解消と引き換えにリオルが要求してきたものだ。魔族との取引は重罪であり、厳しく罰せられる上に、リオルがどこまで本気か計りかねていたこともあり、ずっと懐に忍ばせたままになっていた。
それを渡せば、ティーアを救う手立てが無くなってしまう――しかし、事情を説明せずに髪飾りを渡すことを拒否したら、その方が不自然だ。
「ええ、まあ……」
断る妙案は思い浮かばず、アルバートは流されるままに頷いてしまう。
「ありがとう、助かる」
シュカはアルバートの頭を優しく撫でると、まるで祈るように髪飾りを胸の前で握りしめた。
雪華の髪飾りが光り、中に宿っていたマナがシュカの身体に吸い込まれていく。
「やはりお前のマナは純度が高い。変革の到来を確信せざるを得ないほどに」
シュカはそう言うと、寝台の上で身を起こした。顔色は幾分か良くなっているように見えるが、万全とは言い難かった。根本的原因が拭いされておらず、付け焼き刃に近いのだろう。
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「シュカ様……?」
シュカはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、どこか寂しげに微笑んだだけだった。
「夢の終わりだ、アル。目覚めよ。別れの時だ」
シュカの唇がそう告げると同時に、アルバートの視界は白い光に包まれた。
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