神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第三部 白龍の神殿が落ちる日

運命

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 再び目を開く。現実が戻ってくる。

 身体を動かそうとしたができなかった。カイルに殴られて気絶した後、両手足を縄で縛られたらしい。

 唯一自由の効く目を動かすと、障壁で守られたティーアが変わらず神龍の像の前にいるのが見えた。アルバートが念を込めて築いた障壁はハデスでも突破できなかったようだ。アルバートは胸を撫で下ろす。しかし安心している暇はなかった。

「起きたか、アル」

 カイルの声が広間に響き、その場にいた全員が一斉にアルバートを見た。この場にいる神官全員が見知った顔。けれどその誰もが見たこともないほど冷たい目をしていた。

 ぐるりと視線を巡らせると、ロゼッタやアレスタ、そしてマリカもいる。三人もまた、じっとアルバートを見ていた。

「アル、話は聞いたわ」

 束の間の沈黙の後、口を開いたのはロゼッタだ。凛とした声が神殿内に響く。アルバートはロゼッタに目を向けると、彼女を真っ直ぐ見据えた。

「もしあなたが魔族と組むのなら、この国の王女として見過ごせないわ。でも、今ならまだ留まれる。だから……」

 ロゼッタはそこで言葉を詰まらせた。アルバートが魔族側に付くということは、この国を、この世界を裏切るということだ。それは王女として見過ごせない事態だ。

 けれど、それでもなお、彼女はアルバートに手を差し伸べてくる。それが彼女の優しさであり魅力であることをアルバートは知っていた。

「ロゼッタ様」

 アルバートはそんなロゼッタの言葉を遮るように名前を呼んだ。そしてゆっくりと首を横に振ると、はっきりとした声音で告げた。

「もし魔族に頼らずにティーアの眷属化が解けるのなら、俺は魔族との取引をやめます。でも、あなたにそれができますか?」

「……それは」

 ロゼッタはぐっと言葉を詰まらせた。アルバートの言う通り、ティーアの眷属化を解くことができるのは魔族だけだ。魔法の構成がわからなければ人族では手出しができない。白龍であるシュカならあるいはと思ったが、彼女はこの場にはいないのだ。

「そう、できないんです。ずっと探したけど、方法が無いんです。でも魔族なら……リオルならそれができる。そして魔族にとっても、神龍の愛し子は特別な意味を持つから、俺がリオルに殺されることもありません。誰も犠牲にならない選択なんです」

 アルバートはロゼッタの目を真っ直ぐ見つめて言った。それは、彼がずっと考えてきたことだった。

「だから……俺は魔族側につきます。ティーアを死なせたくないんです」

 その言葉に、その場にいた誰もが息を呑んだ。神官たちはもちろん、ロゼッタも言葉を失ったように呆然としていた。しかしそれも一瞬のことで。すぐに我に帰った彼女は、再び口を開いた。

「あなたの人生が犠牲になるわ」

 その声は微かに震えていたが、それでもなお気丈さを失わなかった。その声音からは怒りと悲しみが滲み出ている。

「ええ、わかっています。でも、これはきっと宿命なんです」

 アルバートはきっぱりと言い切った。この選択に迷いなどない。ロゼッタはじっと黙って聞いていた。そしてしばらくすると、ふっと息を吐き出した。

「そう……それなら仕方ないわ」

 ロゼッタは諦めたような息を吐いた。その表情にはどこか寂しそうな影がある。
 彼女はアルバートに背を向けると、ティーアの前に足を進める。かつかつと足音が響いた。年不相応の風格が彼女を取り巻いていた。その場にいる誰もが、この小さな王女の行動を固唾を呑んで見守っていた。

「運命とか宿命とか、そんな言葉大嫌いなの。欲しいものは自分で手を伸ばして手に入れる。それが私の信条よ」

 ロゼッタは振り返ると、にっこりと微笑んだ。しかしその目は笑っていない。彼女の視線に射抜かれて身動きができないでいるアルバートを尻目に、彼女は再び前を向き直り、ティーアに向き直った。

 何も言わずに剣を抜くと、ロゼッタはティーアを覆う障壁を叩き斬った。
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