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第四部 最後の神聖魔法
再会
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およそひと月ぶりとなるダーハート教会は変わらぬ形で三人を出迎えた。
教会の前に馬車を止め、アルバートは御者台のカイルに手を差し伸べられる。
カイルの手を摑んで軽く引かれると、軽い体はふわりと浮いた。地面に足を着くと、がちゃりと両手を戒める重い鉄枷の音が響く。
「相変わらず軽いな。ちゃんと食べてるのか?」
「……」
揶揄うようなカイルの言葉にアルバートは返事をしない。じっと教会の建物を見つめている。
カイルはやれやれと肩をすくめる。
程なくして、ダーハート教会から出てくる人影があった。ソルニアだ。
「皆様、ようこそおいでくださいました」
「ソルニア様、お久しぶりです」
ロゼッタが胸に手を当てて騎士らしく礼をすると、ソルニアは恭しく跪く。
「お久しぶりでございます。王女殿下におかれましてはご壮健であらせられると聞き及んでおりましたが……お変わりありませんか?」
「ええ、おかげさまで。ソルニア様も息災のようで何よりです」
「ありがとうございます」
ロゼッタは笑顔を浮かべる。
ソルニアは次に、ちらりとアルバートに目を向けると、冷たい目に僅かに哀れみを浮かべた。
「アルバート殿、お待ちしておりましたよ」
「……」
アルバートは俯き、顔を背ける。
ソルニアはアルバートのそんな態度にも顔色一つ変えることはなく、彼の前で膝を折ると、彼の頬に優しく片手を当て、叩いた。
ぱちん、と小さな音が響くのに、そこに痛みはない。
「あなたがしたことは許されることではありません」
アルバートはきゅっと唇を噛み締める。
年相応の幼い顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。身も心もぼろぼろの状態――かつての彼を知らずとも、今の精神状態は容易く察することができた。
「ソルニア様……、叩くなら、もっと……痛くしてください……」
「いいえ。あなたはすでに十分な痛みを感じている」
そう言ってソルニアはアルバートに優しい眼差しを向けた。
それはまるで親が子を見守るような慈愛に満ちたものだった。
まるでハデスのように。
ハデスの、ように…………
「っ、俺は……」
アルバートはくしゃりと顔を歪めた。
俯いた拍子に涙がこぼれ落ちた。それは止まることを知らず、ぽたぽたと頬を伝って流れ落ちる。
「俺は……もう……」
「そう。あなたはもう、神官ではありません。司祭の私が言うのもおかしいですが、神の時代は間もなく失われます。神龍の庇護を失った世界はこれから、あなたに重い使命を課すでしょう。その身が魂が潰えるまで使命を全うなさい。それがあなたへの罰であり……贖罪なのです」
「っ、……はい」
アルバートは嗚咽を堪えながら頷いた。
ソルニアは立ち上がり、彼の頭を優しく撫でる。
アルバートは縋るようにソルニアの衣服の裾を摑んだ。
ロゼッタとカイルはそんな二人の様子を黙って見守っていた。
「さて、では中へお入りください。彼は修道士に部屋まで案内させましょう」
ソルニアがそう言うと、教会の中から数人の男達が出てきた。
彼らはアルバートに歩み寄ると、その両腕を取り、彼を拘束する。そしてロゼッタとカイルに軽く一礼すると、アルバートを連れて教会の中へ戻っていった。
◆
ダーハート教会の地下牢には、罪人を拘束するための部屋がいくつかある。
そのうちの一室に通されたアルバートは、両手の枷を外された。
「食事の時間になったらまた来きます」
修道士の口調は丁寧だが事務的な声。雪華の祈りで滞在している間に見かけた人物の気がしたが、記憶に靄がかかっていてよく思い出せない。
修道士は気に留めた様子もなく、アルバートを残して牢の鍵を閉めると去っていった。
一人になったアルバートは冷たい床に座り込み、壁に背を預ける。そしてそのまま膝を抱えた。
檻の外には見張りの修道士が居て、いつでも逃げようとすれば捕らえられてしまうだろうことは容易に想像できた。
逃げるにしても、行き先など無い。
「逃げはしないよ。ここにいるしかないんだから……」
アルバートは膝を抱えながら目を閉じる。
体が徐々に傾いていき、やがて彼の意識は落ちていった。
教会の前に馬車を止め、アルバートは御者台のカイルに手を差し伸べられる。
カイルの手を摑んで軽く引かれると、軽い体はふわりと浮いた。地面に足を着くと、がちゃりと両手を戒める重い鉄枷の音が響く。
「相変わらず軽いな。ちゃんと食べてるのか?」
「……」
揶揄うようなカイルの言葉にアルバートは返事をしない。じっと教会の建物を見つめている。
カイルはやれやれと肩をすくめる。
程なくして、ダーハート教会から出てくる人影があった。ソルニアだ。
「皆様、ようこそおいでくださいました」
「ソルニア様、お久しぶりです」
ロゼッタが胸に手を当てて騎士らしく礼をすると、ソルニアは恭しく跪く。
「お久しぶりでございます。王女殿下におかれましてはご壮健であらせられると聞き及んでおりましたが……お変わりありませんか?」
「ええ、おかげさまで。ソルニア様も息災のようで何よりです」
「ありがとうございます」
ロゼッタは笑顔を浮かべる。
ソルニアは次に、ちらりとアルバートに目を向けると、冷たい目に僅かに哀れみを浮かべた。
「アルバート殿、お待ちしておりましたよ」
「……」
アルバートは俯き、顔を背ける。
ソルニアはアルバートのそんな態度にも顔色一つ変えることはなく、彼の前で膝を折ると、彼の頬に優しく片手を当て、叩いた。
ぱちん、と小さな音が響くのに、そこに痛みはない。
「あなたがしたことは許されることではありません」
アルバートはきゅっと唇を噛み締める。
年相応の幼い顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。身も心もぼろぼろの状態――かつての彼を知らずとも、今の精神状態は容易く察することができた。
「ソルニア様……、叩くなら、もっと……痛くしてください……」
「いいえ。あなたはすでに十分な痛みを感じている」
そう言ってソルニアはアルバートに優しい眼差しを向けた。
それはまるで親が子を見守るような慈愛に満ちたものだった。
まるでハデスのように。
ハデスの、ように…………
「っ、俺は……」
アルバートはくしゃりと顔を歪めた。
俯いた拍子に涙がこぼれ落ちた。それは止まることを知らず、ぽたぽたと頬を伝って流れ落ちる。
「俺は……もう……」
「そう。あなたはもう、神官ではありません。司祭の私が言うのもおかしいですが、神の時代は間もなく失われます。神龍の庇護を失った世界はこれから、あなたに重い使命を課すでしょう。その身が魂が潰えるまで使命を全うなさい。それがあなたへの罰であり……贖罪なのです」
「っ、……はい」
アルバートは嗚咽を堪えながら頷いた。
ソルニアは立ち上がり、彼の頭を優しく撫でる。
アルバートは縋るようにソルニアの衣服の裾を摑んだ。
ロゼッタとカイルはそんな二人の様子を黙って見守っていた。
「さて、では中へお入りください。彼は修道士に部屋まで案内させましょう」
ソルニアがそう言うと、教会の中から数人の男達が出てきた。
彼らはアルバートに歩み寄ると、その両腕を取り、彼を拘束する。そしてロゼッタとカイルに軽く一礼すると、アルバートを連れて教会の中へ戻っていった。
◆
ダーハート教会の地下牢には、罪人を拘束するための部屋がいくつかある。
そのうちの一室に通されたアルバートは、両手の枷を外された。
「食事の時間になったらまた来きます」
修道士の口調は丁寧だが事務的な声。雪華の祈りで滞在している間に見かけた人物の気がしたが、記憶に靄がかかっていてよく思い出せない。
修道士は気に留めた様子もなく、アルバートを残して牢の鍵を閉めると去っていった。
一人になったアルバートは冷たい床に座り込み、壁に背を預ける。そしてそのまま膝を抱えた。
檻の外には見張りの修道士が居て、いつでも逃げようとすれば捕らえられてしまうだろうことは容易に想像できた。
逃げるにしても、行き先など無い。
「逃げはしないよ。ここにいるしかないんだから……」
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体が徐々に傾いていき、やがて彼の意識は落ちていった。
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