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第四部 最後の神聖魔法
白亜の牢獄2
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どれくらいの時間が経過したのかわからなかったが、ふと顔を上げると目の前に誰かが立っていた。
アルバートは反射的に身を竦ませた。そこにいたのはハデスだった。彼は最後に見た時と同じ、感情のない顔で佇んでいる。彼の手には一振りの剣が握られていた。切られると思ったアルバートは肩を震わせた。喉の奥から熱いものが込み上がってきて、吐き出そうと口を開いたら嗚咽と共に声が出た。それは謝罪の言葉だった。
「ごめん……なさい……!」
しかしハデスは何も言わずに静かに佇んでいるだけだ。アルバートには彼が何を考えているのかわからなかったが、それでも必死に許しを乞うた。
「ごめんなさい……もうしないから!ハデス様の言うことだけを聞いているから……いい子にするから……だから、だから許して……っ」
必死だった。本心ではなかったけれど、それでも他に縋れるものなどなかった。顔を上げると、目尻に溜まっていた涙がこぼれ落ち、頬に筋を作った。
「お願い……ここから出して……俺を、外の世界に帰してください……」
アルバートは震える声で懇願した。しかしハデスは無言のままだった。感情の見えない瞳でただこちらを見ているだけだ。その瞳に見つめられるだけで背筋が凍りつくような感覚を覚え、耐えられず、アルバートは思わず目を伏せた。
するとハデスは手にしていた剣を鞘から抜き去り、そのまま振り上げた。刃がきらりと光るのを見た瞬間、アルバートは悲鳴を上げていた。
「いやだ!いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!死にたくない!死にたくないよぉ!!」
アルバートは半狂乱になりながら叫んだ。
しかしハデスは手を止めることはなく、躊躇なく剣を振り下ろした。
刃がすぐ目の前まで迫っているのに、恐怖で身体が動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、ただじっとしていることしかできなかった。
刃がアルバートの身体を切り裂く瞬間、思わず目を瞑った。
「……」
衝撃は、来なかった。
恐る恐る目を開くと、そこにハデスの姿はない。
「……え……?」
アルバートは呆然として辺りを見回した。しかしそこには誰もおらず、静寂だけが広がっていた。
「まぼろし……?」
幻覚にしてはあまりにもリアルな感覚だったように思うけれど、今起こった出来事は現実ではないとアルバートは信じたかった。
白一色の周囲は見回すと目がチカチカとした。五感に届く感覚が制限されているせいで脳が誤作動を起こし、そこに無いはずの色や物が見えたり聞こえたりするのだ。目の前に立つハデスもまた、そんな白い空間が見せた幻影なのではないかと思った。
「もう……やだ……」
アルバートは震える声で呟いた。恐怖からではなく、涙が込み上げてきて視界が滲んだ。それが頬を伝う前に袖口で乱暴に拭い去ったが、一度流れ出した涙を止めることはできなかった。
「ひぐっ……うぅ……」
アルバートは子供のように泣きじゃくりながら、その場に蹲った。
◆
いったいどれほどの時間そうしていただろうか。一瞬かもしれない。一生分かもしれない。時間を見失ったアルバートにはもうわからなかった。
しかしそれすらもどうでも良いと感じていた。時間の概念がない世界で時間を考えたところで、無意味なのだ。
「ハハッ………あはははっ」
不意にアルバートは笑い出した。それがなぜなのか自分でもよくわからなかったが、ただ可笑しくて仕方がなかったのだ。ひとしきり笑うと、今度は嗚咽を漏らした。そしてまた笑った。その繰り返しだった。まるで壊れた玩具のように彼は笑い続けた。彼の瞳から涙が落ちた。それは笑いによるものなのか、別の感情なのかわからなかった。
アルバートの精神は限界を迎えていた。このままずっとここで一人で生きていくなど耐えられない。気が狂いそうだった。いっそ狂ってしまえば楽になれるだろうか? アルバートは自問する。答えは出ないままだが、それでも考えずにはいられなかった。彼の中には、もう恐怖も絶望もなかった。
あるのはただ虚無だけだった。
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない、ただ真っ白な空白。
アルバートは笑い続けた。
狂ったように笑い続けた。
アルバートは反射的に身を竦ませた。そこにいたのはハデスだった。彼は最後に見た時と同じ、感情のない顔で佇んでいる。彼の手には一振りの剣が握られていた。切られると思ったアルバートは肩を震わせた。喉の奥から熱いものが込み上がってきて、吐き出そうと口を開いたら嗚咽と共に声が出た。それは謝罪の言葉だった。
「ごめん……なさい……!」
しかしハデスは何も言わずに静かに佇んでいるだけだ。アルバートには彼が何を考えているのかわからなかったが、それでも必死に許しを乞うた。
「ごめんなさい……もうしないから!ハデス様の言うことだけを聞いているから……いい子にするから……だから、だから許して……っ」
必死だった。本心ではなかったけれど、それでも他に縋れるものなどなかった。顔を上げると、目尻に溜まっていた涙がこぼれ落ち、頬に筋を作った。
「お願い……ここから出して……俺を、外の世界に帰してください……」
アルバートは震える声で懇願した。しかしハデスは無言のままだった。感情の見えない瞳でただこちらを見ているだけだ。その瞳に見つめられるだけで背筋が凍りつくような感覚を覚え、耐えられず、アルバートは思わず目を伏せた。
するとハデスは手にしていた剣を鞘から抜き去り、そのまま振り上げた。刃がきらりと光るのを見た瞬間、アルバートは悲鳴を上げていた。
「いやだ!いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!死にたくない!死にたくないよぉ!!」
アルバートは半狂乱になりながら叫んだ。
しかしハデスは手を止めることはなく、躊躇なく剣を振り下ろした。
刃がすぐ目の前まで迫っているのに、恐怖で身体が動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、ただじっとしていることしかできなかった。
刃がアルバートの身体を切り裂く瞬間、思わず目を瞑った。
「……」
衝撃は、来なかった。
恐る恐る目を開くと、そこにハデスの姿はない。
「……え……?」
アルバートは呆然として辺りを見回した。しかしそこには誰もおらず、静寂だけが広がっていた。
「まぼろし……?」
幻覚にしてはあまりにもリアルな感覚だったように思うけれど、今起こった出来事は現実ではないとアルバートは信じたかった。
白一色の周囲は見回すと目がチカチカとした。五感に届く感覚が制限されているせいで脳が誤作動を起こし、そこに無いはずの色や物が見えたり聞こえたりするのだ。目の前に立つハデスもまた、そんな白い空間が見せた幻影なのではないかと思った。
「もう……やだ……」
アルバートは震える声で呟いた。恐怖からではなく、涙が込み上げてきて視界が滲んだ。それが頬を伝う前に袖口で乱暴に拭い去ったが、一度流れ出した涙を止めることはできなかった。
「ひぐっ……うぅ……」
アルバートは子供のように泣きじゃくりながら、その場に蹲った。
◆
いったいどれほどの時間そうしていただろうか。一瞬かもしれない。一生分かもしれない。時間を見失ったアルバートにはもうわからなかった。
しかしそれすらもどうでも良いと感じていた。時間の概念がない世界で時間を考えたところで、無意味なのだ。
「ハハッ………あはははっ」
不意にアルバートは笑い出した。それがなぜなのか自分でもよくわからなかったが、ただ可笑しくて仕方がなかったのだ。ひとしきり笑うと、今度は嗚咽を漏らした。そしてまた笑った。その繰り返しだった。まるで壊れた玩具のように彼は笑い続けた。彼の瞳から涙が落ちた。それは笑いによるものなのか、別の感情なのかわからなかった。
アルバートの精神は限界を迎えていた。このままずっとここで一人で生きていくなど耐えられない。気が狂いそうだった。いっそ狂ってしまえば楽になれるだろうか? アルバートは自問する。答えは出ないままだが、それでも考えずにはいられなかった。彼の中には、もう恐怖も絶望もなかった。
あるのはただ虚無だけだった。
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない、ただ真っ白な空白。
アルバートは笑い続けた。
狂ったように笑い続けた。
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