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第四部 最後の神聖魔法
声
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地下牢の中、目の前にそびえる白い箱。投獄されていた彼が箱の中に閉じ込められて、一週間が経過した。
ロゼッタは、一日に一度必ず彼の元を訪れた。『白亜の牢獄』が発動させるという当初目的が達成されたことから、ソルニアには帝都に戻って構わないと言われたが、それを無視した。
(誰かの犠牲で成り立つ世界なんて、そんなの認めない)
ロゼッタは、自らの意思でここに残り続けた。彼を再び解き放つために。
「ロゼッタ様、またここに居たんですか?」
背後から男性の声がかかる。振り返るまでもなく、その声だけでそれがカイルのものであることがわかった。
「ええ、そうよ。悪いかしら」
「ティーア・アンクローゼには慈悲をかけなかったのに、やっぱりアルは特別ですか?」
「別に、アルだからというわけではないわ。魔族は殺すもの、元人間であっても、数奇な運命が招いた結果であったとしても、彼女が金色の瞳を持つ限りそれは変わらないわ。でもアルに下されたのは謹慎であって、こんな責め苦では無いの」
カイルは苦笑しながら肩をすくめる。それは肯定を示していた。ロゼッタは、この一週間ずっとアルバートのいる地下牢に通っていた。この白い箱はいかなる攻撃も受け付けず、触れても無機質な冷たい感触が返ってくるだけで何も起きない。魔法により生み出されたもののはずなのに、核となる魔法陣さえ見つけられない。外からのアプローチ方法が無く、食事も水すらも与えることは叶わずに、ただここで放置されていた。
「それで、どうしたいんです?」
「決まっているわ。この魔法を解除するための方法を、今、考えているのよ」
未知の魔法体系に対して、一介の騎士がどうこうできる話ではない。しかしロゼッタは諦めたくなかった。アルバートを救いたい、その想いだけで彼女はここに留まっていた。
「……アルも同じだったんですかね」
「え?」
ぽつりと呟いたカイルに、ロゼッタは聞き返す。
「アルも、ティーアを戻すために、今のロゼッタ様と同じ気持ちだったんですかね。眷属化を戻す方法が無くて、魔族に縋るしかなくて。そうやった結果、今の状況を生み出してしまったのだとしたら、酷な話ですよね」
「……カイル。欲しいものを与えてもらえるのがアルだとしたら、欲しいものを掴み取りに行くのが私よ。私だったら、魔族を引っ捕まえて、殴ってでも言うこと聞かせて、自分の願いを叶えるわ」
「それはまた、随分と乱暴ですね」
カイルはくすくすと笑う。ロゼッタはそれを軽く流すと再び思考を巡らせた。どうすればこの白い箱からアルバートを解放できるかを。
ロゼッタは白い箱に触れると、中に閉じ込められているはずの彼に向かって話しかけた。
「アル、聞こえてる?」
ロゼッタは箱に話しかける。返事がないのは当然わかっているが、それでも呼びかけずにはいられない。
「私は諦めないわ。だって、欲しい未来は自分で選ぶものだもの」
ロゼッタはそう言うと再び考えに耽った。
◆
アルバートは白い箱の中で蹲っていた。暗闇も何もない空間に放り込まれ、彼は自分が生きているのか死んでいるのかすら曖昧だった。もはや考えることをやめていた。心を殺してただ息をするだけの人形のようになってしまった彼に感情はないに等しかった。
「アル」
ふと、懐かしい声が聞こえたような気がした。それはとても懐かしくて、そして愛おしい声だった。その声を聞くと胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
(この声は……)
もう会えない、大切な人の声。
アルバートは自嘲するように笑った。もう笑うことくらいしか、できることがなかった。
「アル、聞こえてる?」
再び聞こえた声に、今度ははっきりと意識を持っていかれるような感覚を覚えた。
(この声は……)
聞き間違いではない。それは確かにロゼッタの声だった。しかしなぜ彼女がここに居るのかわからなかった。
「私は諦めないわ」
彼女の言葉には強い意志が込められていた。眩しいほどに真っ直ぐで、絶対に折れないという強い意志を感じた。
ティーアを断罪しようとした彼女が、なぜ罪人である自分に手を伸ばすのかわからなかった。
「だって、欲しい未来は自分で選ぶものだもの」
ここを出て、一体何になるというのだろう。もう自分に生きていく意味などないのに。
それなのに、頭上を見上げると大きな魔法陣が浮かんでいた。先ほどまで見えなかったものだ。見たことのない魔法陣なのに、アルバートにはその陣の示す内容がわかる気がした。
導かれるように魔法陣に手を伸ばす。頭上高くにあるように見えた魔法陣は、それなのに手を伸ばすと難なく触れることができた。魔法陣に触れると、それは白く輝き、アルバートを包み込んだ。
『神の規則への接続を確認。声紋により認証を承認します』
白い世界のどこからか、無機質で機械的な女性の声が聞こえた。
ロゼッタは、一日に一度必ず彼の元を訪れた。『白亜の牢獄』が発動させるという当初目的が達成されたことから、ソルニアには帝都に戻って構わないと言われたが、それを無視した。
(誰かの犠牲で成り立つ世界なんて、そんなの認めない)
ロゼッタは、自らの意思でここに残り続けた。彼を再び解き放つために。
「ロゼッタ様、またここに居たんですか?」
背後から男性の声がかかる。振り返るまでもなく、その声だけでそれがカイルのものであることがわかった。
「ええ、そうよ。悪いかしら」
「ティーア・アンクローゼには慈悲をかけなかったのに、やっぱりアルは特別ですか?」
「別に、アルだからというわけではないわ。魔族は殺すもの、元人間であっても、数奇な運命が招いた結果であったとしても、彼女が金色の瞳を持つ限りそれは変わらないわ。でもアルに下されたのは謹慎であって、こんな責め苦では無いの」
カイルは苦笑しながら肩をすくめる。それは肯定を示していた。ロゼッタは、この一週間ずっとアルバートのいる地下牢に通っていた。この白い箱はいかなる攻撃も受け付けず、触れても無機質な冷たい感触が返ってくるだけで何も起きない。魔法により生み出されたもののはずなのに、核となる魔法陣さえ見つけられない。外からのアプローチ方法が無く、食事も水すらも与えることは叶わずに、ただここで放置されていた。
「それで、どうしたいんです?」
「決まっているわ。この魔法を解除するための方法を、今、考えているのよ」
未知の魔法体系に対して、一介の騎士がどうこうできる話ではない。しかしロゼッタは諦めたくなかった。アルバートを救いたい、その想いだけで彼女はここに留まっていた。
「……アルも同じだったんですかね」
「え?」
ぽつりと呟いたカイルに、ロゼッタは聞き返す。
「アルも、ティーアを戻すために、今のロゼッタ様と同じ気持ちだったんですかね。眷属化を戻す方法が無くて、魔族に縋るしかなくて。そうやった結果、今の状況を生み出してしまったのだとしたら、酷な話ですよね」
「……カイル。欲しいものを与えてもらえるのがアルだとしたら、欲しいものを掴み取りに行くのが私よ。私だったら、魔族を引っ捕まえて、殴ってでも言うこと聞かせて、自分の願いを叶えるわ」
「それはまた、随分と乱暴ですね」
カイルはくすくすと笑う。ロゼッタはそれを軽く流すと再び思考を巡らせた。どうすればこの白い箱からアルバートを解放できるかを。
ロゼッタは白い箱に触れると、中に閉じ込められているはずの彼に向かって話しかけた。
「アル、聞こえてる?」
ロゼッタは箱に話しかける。返事がないのは当然わかっているが、それでも呼びかけずにはいられない。
「私は諦めないわ。だって、欲しい未来は自分で選ぶものだもの」
ロゼッタはそう言うと再び考えに耽った。
◆
アルバートは白い箱の中で蹲っていた。暗闇も何もない空間に放り込まれ、彼は自分が生きているのか死んでいるのかすら曖昧だった。もはや考えることをやめていた。心を殺してただ息をするだけの人形のようになってしまった彼に感情はないに等しかった。
「アル」
ふと、懐かしい声が聞こえたような気がした。それはとても懐かしくて、そして愛おしい声だった。その声を聞くと胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
(この声は……)
もう会えない、大切な人の声。
アルバートは自嘲するように笑った。もう笑うことくらいしか、できることがなかった。
「アル、聞こえてる?」
再び聞こえた声に、今度ははっきりと意識を持っていかれるような感覚を覚えた。
(この声は……)
聞き間違いではない。それは確かにロゼッタの声だった。しかしなぜ彼女がここに居るのかわからなかった。
「私は諦めないわ」
彼女の言葉には強い意志が込められていた。眩しいほどに真っ直ぐで、絶対に折れないという強い意志を感じた。
ティーアを断罪しようとした彼女が、なぜ罪人である自分に手を伸ばすのかわからなかった。
「だって、欲しい未来は自分で選ぶものだもの」
ここを出て、一体何になるというのだろう。もう自分に生きていく意味などないのに。
それなのに、頭上を見上げると大きな魔法陣が浮かんでいた。先ほどまで見えなかったものだ。見たことのない魔法陣なのに、アルバートにはその陣の示す内容がわかる気がした。
導かれるように魔法陣に手を伸ばす。頭上高くにあるように見えた魔法陣は、それなのに手を伸ばすと難なく触れることができた。魔法陣に触れると、それは白く輝き、アルバートを包み込んだ。
『神の規則への接続を確認。声紋により認証を承認します』
白い世界のどこからか、無機質で機械的な女性の声が聞こえた。
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