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第四部 最後の神聖魔法
描き上げた魔法陣
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「できました。これで試してみましょう」
床に描かれた魔法陣を前にアルバートが抑揚の欠ける声を上げたのはそれからさらに数日が経ってからのことだった。あの日以降、白猫はアルバートの傍から離れない。じっとアルバートを見つめているのだ。まるで何かを訴えかけるように……
「準備は万端ね」
ロゼッタの言葉にアルバートは頷くと、魔法陣の中心に座った。アルバートの周囲が光を帯び、魔法陣に吸い込まれていく。
そして無機質な声が降ってきた。
『警告。神の規則への接続を確認。規定外の体系です。実行しますか?』
「ロゼッタ様、返事をお願いします」
「わかったわ。――実行するわ」
アルバートに促されるままロゼッタは言葉を紡いだ。それは認証情報を持つ者にのみ許される権限だ。
ロゼッタの声に反応して、魔法陣に文字や記号が羅列されていく。それはこの世界を構成し、森羅万象を支配している神の規則だ。
『声紋により認証を確認。要求を――』
しかし、天から降る声が突然、不自然に途切れた。
『否。規則が不正です。処理を終了します』
「え……?」
天から降る言葉と共に床に描いた魔法陣が光の粒となって消え去ってしまう。
「魔法陣が違うんだ……」
消えた魔法陣を見つめながら、アルバートはぽつりと漏らす。
「どういうこと?」
「いつもは頭に浮かぶイメージを描いているから、今回とは違うんです」
意図して作った今回と、導かれるように描いた前回。
そこに何か差異があるのだとしたら、アルバートの意思が魔法陣に含まれているのかどうかだ。それはすなわち、魔法陣の構成が根本的に何か違うと言うことに相当する。
「……ロゼッタ様、期待をさせてしまってすみません。俺には無理みたいです」「……仕方ないわ。一旦休憩しましょう」
ロゼッタは肩を落として、アルバートの隣に座り込んだ。疲労の色を見せた彼に休むよう促すと、「心配には及びませんよ」と力のない笑顔が返ってきた。
沈黙が二人の間に落ちる。しばらくすると白猫がやってきて、彼の足にすり寄った。まるで甘えるような仕草に、彼は少し表情を和らげて、その頭を撫でた。
「アルはその子のことが本当に好きなのね」
ロゼッタの言葉にアルバートはきょとんとした表情で首を傾げた。
「なぜです?」
「……え?」
想定外の返しにロゼッタも困惑する。しかし、そんな様子には気づかず、彼は言葉を続けた。
「特になんとも思っていませんよ」
「えぇ……だってさっきすごく優しい顔で――」
ロゼッタが言葉を言い切る前に、アルバートはすっと視線を逸らした。そして曖昧に微笑むと視線を戻すことなく答えた。
「リオルに襲われた時も、ディアーナに唆された時も、この猫が居たんです。飼っているわけじゃないのに、いつだって傍に居るんですよ、この猫は」
淡々と紡がれる言葉には相変わらず感情がない。まるで何かのスイッチをオフにしたかのように抑揚のない声で語られるのに、猫を見つめる瞳はとても優しそうで。ロゼッタにはそれがとても歪に見えた。
「アル。明日の朝はその子と水浴びしてきなさいよ。ソルニア様に許可は取っておくから。きっと良い気分転換になるわ」
「わかりました」
ロゼッタはにこりと微笑んで、そっとアルバートの髪をくしゃくしゃに撫でた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻って、されるがままになっていた。
床に描かれた魔法陣を前にアルバートが抑揚の欠ける声を上げたのはそれからさらに数日が経ってからのことだった。あの日以降、白猫はアルバートの傍から離れない。じっとアルバートを見つめているのだ。まるで何かを訴えかけるように……
「準備は万端ね」
ロゼッタの言葉にアルバートは頷くと、魔法陣の中心に座った。アルバートの周囲が光を帯び、魔法陣に吸い込まれていく。
そして無機質な声が降ってきた。
『警告。神の規則への接続を確認。規定外の体系です。実行しますか?』
「ロゼッタ様、返事をお願いします」
「わかったわ。――実行するわ」
アルバートに促されるままロゼッタは言葉を紡いだ。それは認証情報を持つ者にのみ許される権限だ。
ロゼッタの声に反応して、魔法陣に文字や記号が羅列されていく。それはこの世界を構成し、森羅万象を支配している神の規則だ。
『声紋により認証を確認。要求を――』
しかし、天から降る声が突然、不自然に途切れた。
『否。規則が不正です。処理を終了します』
「え……?」
天から降る言葉と共に床に描いた魔法陣が光の粒となって消え去ってしまう。
「魔法陣が違うんだ……」
消えた魔法陣を見つめながら、アルバートはぽつりと漏らす。
「どういうこと?」
「いつもは頭に浮かぶイメージを描いているから、今回とは違うんです」
意図して作った今回と、導かれるように描いた前回。
そこに何か差異があるのだとしたら、アルバートの意思が魔法陣に含まれているのかどうかだ。それはすなわち、魔法陣の構成が根本的に何か違うと言うことに相当する。
「……ロゼッタ様、期待をさせてしまってすみません。俺には無理みたいです」「……仕方ないわ。一旦休憩しましょう」
ロゼッタは肩を落として、アルバートの隣に座り込んだ。疲労の色を見せた彼に休むよう促すと、「心配には及びませんよ」と力のない笑顔が返ってきた。
沈黙が二人の間に落ちる。しばらくすると白猫がやってきて、彼の足にすり寄った。まるで甘えるような仕草に、彼は少し表情を和らげて、その頭を撫でた。
「アルはその子のことが本当に好きなのね」
ロゼッタの言葉にアルバートはきょとんとした表情で首を傾げた。
「なぜです?」
「……え?」
想定外の返しにロゼッタも困惑する。しかし、そんな様子には気づかず、彼は言葉を続けた。
「特になんとも思っていませんよ」
「えぇ……だってさっきすごく優しい顔で――」
ロゼッタが言葉を言い切る前に、アルバートはすっと視線を逸らした。そして曖昧に微笑むと視線を戻すことなく答えた。
「リオルに襲われた時も、ディアーナに唆された時も、この猫が居たんです。飼っているわけじゃないのに、いつだって傍に居るんですよ、この猫は」
淡々と紡がれる言葉には相変わらず感情がない。まるで何かのスイッチをオフにしたかのように抑揚のない声で語られるのに、猫を見つめる瞳はとても優しそうで。ロゼッタにはそれがとても歪に見えた。
「アル。明日の朝はその子と水浴びしてきなさいよ。ソルニア様に許可は取っておくから。きっと良い気分転換になるわ」
「わかりました」
ロゼッタはにこりと微笑んで、そっとアルバートの髪をくしゃくしゃに撫でた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻って、されるがままになっていた。
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