神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

文字の大きさ
97 / 106
第四部 最後の神聖魔法

描き上げた魔法陣

しおりを挟む
「できました。これで試してみましょう」

 床に描かれた魔法陣を前にアルバートが抑揚の欠ける声を上げたのはそれからさらに数日が経ってからのことだった。あの日以降、白猫はアルバートの傍から離れない。じっとアルバートを見つめているのだ。まるで何かを訴えかけるように……

「準備は万端ね」

 ロゼッタの言葉にアルバートは頷くと、魔法陣の中心に座った。アルバートの周囲が光を帯び、魔法陣に吸い込まれていく。
 そして無機質な声が降ってきた。

『警告。神の規則コードへの接続アクセスを確認。規定外の体系です。実行しますか?』

「ロゼッタ様、返事をお願いします」

「わかったわ。――実行するわ」

 アルバートに促されるままロゼッタは言葉を紡いだ。それは認証情報アイデンティフィケーションを持つ者にのみ許される権限だ。

 ロゼッタの声に反応して、魔法陣に文字や記号が羅列されていく。それはこの世界を構成し、森羅万象を支配している神の規則コードだ。

『声紋により認証を確認。要求を――』

 しかし、天から降る声が突然、不自然に途切れた。

『否。規則コードが不正です。処理を終了します』

「え……?」

 天から降る言葉と共に床に描いた魔法陣が光の粒となって消え去ってしまう。

「魔法陣が違うんだ……」

 消えた魔法陣を見つめながら、アルバートはぽつりと漏らす。

「どういうこと?」

「いつもは頭に浮かぶイメージを描いているから、今回とは違うんです」

 意図して作った今回と、導かれるように描いた前回。
 そこに何か差異があるのだとしたら、アルバートの意思が魔法陣に含まれているのかどうかだ。それはすなわち、魔法陣の構成が根本的に何か違うと言うことに相当する。

「……ロゼッタ様、期待をさせてしまってすみません。俺には無理みたいです」「……仕方ないわ。一旦休憩しましょう」

 ロゼッタは肩を落として、アルバートの隣に座り込んだ。疲労の色を見せた彼に休むよう促すと、「心配には及びませんよ」と力のない笑顔が返ってきた。

 沈黙が二人の間に落ちる。しばらくすると白猫がやってきて、彼の足にすり寄った。まるで甘えるような仕草に、彼は少し表情を和らげて、その頭を撫でた。

「アルはその子のことが本当に好きなのね」

 ロゼッタの言葉にアルバートはきょとんとした表情で首を傾げた。

「なぜです?」

「……え?」

 想定外の返しにロゼッタも困惑する。しかし、そんな様子には気づかず、彼は言葉を続けた。

「特になんとも思っていませんよ」

「えぇ……だってさっきすごく優しい顔で――」

 ロゼッタが言葉を言い切る前に、アルバートはすっと視線を逸らした。そして曖昧に微笑むと視線を戻すことなく答えた。

「リオルに襲われた時も、ディアーナに唆された時も、この猫が居たんです。飼っているわけじゃないのに、いつだって傍に居るんですよ、この猫は」

 淡々と紡がれる言葉には相変わらず感情がない。まるで何かのスイッチをオフにしたかのように抑揚のない声で語られるのに、猫を見つめる瞳はとても優しそうで。ロゼッタにはそれがとても歪に見えた。

「アル。明日の朝はその子と水浴びしてきなさいよ。ソルニア様に許可は取っておくから。きっと良い気分転換になるわ」

「わかりました」

 ロゼッタはにこりと微笑んで、そっとアルバートの髪をくしゃくしゃに撫でた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻って、されるがままになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...