神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第四部 最後の神聖魔法

精霊に好かれる素質

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 水瓶を届けた後、カイルに連れられてアルバートが向かったのは、ソルニアの執務室だった。

「あの、ここ……」

 雪華の祈り以降、ソルニアの執務室に足を踏み入れる時はもっぱら叱責を受ける時だ。自然と身体が固くなる。そんなアルバートに有無を言わせることなく、カイルはアルバートの手を引いて執務室に入る。

 ソルニアはちょうど書き物をしているところだった。しかし、入室してきた二人を見て、彼はすぐにペンを置き、立ち上がった。

「おはようございます。カイル殿、おや、アルバート殿もですか?」

「ソルニア様、突然すみません。実はちょっと相談が」

「聞きましょう」

 カイルのそれだけの言葉で、ソルニアは何かを察したようだった。すぐに二人を近くのソファへと誘導する。

 カイルは今朝の出来事を説明する。彼の話が終わった後、アルバートも自身が体験した不思議な現象についてソルニアに伝えた。ソルニアは神妙な顔でそれを聞き入り、時折相槌を打つ。やがて二人の話を聞き終えると、彼は席を立ち、机から一冊の本を持ってきた。

「状況はだいたいわかりました。結論から言うと、精霊魔法の制御方法を学んだほうが良いでしょう」

 ソルニアは持ってきた本をアルバートに差し出すと、言葉を続ける。

「精霊魔法――は、以前あなたに見せたことがありましたね。朝起きたのは精霊との同調現象です。湖の景色を見た時に、その光景が綺麗だとか何か興味を抱くと、そのような心に反応して、彼らは力を貸してくれるのです。ただイメージが甘いと精霊が勝手に行動し、今回みたいな予想外の出来事が起きることがあります」

「精霊魔法……白龍の神殿で俺が引き起こしたことや、この前クーゲルさんにしたことも関係がありますか?」

「ええ、同じです。精霊の存在を理解して、彼らと繋がりを持ったことで、精霊に思念が伝わるようになったのでしょう」

 精霊との同調と聞いて、アルバートには確かに思い当たる節がいくつかあった。
 クーゲルに攻撃された時は全部無くなってしまえばいいと思って、相手を吹き飛ばしてしまったし、湖では湖畔と朝焼けの大空に目を奪われた。綺麗だと、もっと見たいと思った気持ちに精霊が反応したのだとしたら、ソルニアの説明は合点が行く。

「でも、そんな簡単にできるものなのでしょうか?ソルニア様に初めて精霊魔法を見せていただいた時、俺は精霊の姿を視ることさえ出来なかったのに」

「普通は無理ですね。聖紋による神龍の加護により、白龍様が守ってらしたのか、精霊との回路に障害が起きていた影響していたのかもしれません。いずれにせよ、精霊魔法において最も重要になるのが、精霊に好かれる素質です」

「精霊に好かれる素質……」

 ソルニアはアルバートに渡した本から、付箋を貼ったページを開くように促す。
 開くとそこには精霊魔法の仕組みや制御方法が詳しく書かれていた。

「これを読み、修練を積みなさい。これから起きるどんな戦火で何を失ったとしても、研鑽を積み続けられるように、自ら学び、力を得ることを覚えるべきだ」

 アルバートは開かれたページに軽く目を通す。
 著者はオルガン・ド・メイス。精霊と人間の関係や思念の伝え方、精霊文字、魔法の発動方法など、事細かに記載されている。

「この本は、オルガン・ド・メイスが書いたものなのですか?」

「ええ。彼の精霊魔法に関する研究の過程で、魔法の実用性と汎用性を高めるために生み出したのが今主流となっている近代魔法です」

 ◆

 精霊は術者の良き理解者であり、友人である。

 オルガン・ド・メイスの記した書物は、そのような書き出しで始まっていた。
 書物に目を通したアルバートは空間を視る。そこには、色とりどりの色彩を帯びた光の粒子が浮かんでいる。
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