神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

文字の大きさ
101 / 106
第四部 最後の神聖魔法

精霊魔法の使い方

しおりを挟む
 精霊は術者の良き理解者であり、友人である。

 オルガン・ド・メイスの記した書物は、そのような書き出しで始まっていた。
 書物に目を通したアルバートは空間を視る。そこには、色とりどりの色彩を帯びた光の粒子が浮かんでいる。

「これが精霊……」

 左手に抱えた分厚い専門書に目を落とすと、彼らも覗き込むように視線の先に集まってきた。彼らは好奇心旺盛で、無邪気で、光の粒の動き方はまるで小さな子供のようだと思った。
 精霊の動きに頬を緩ませると、次に彼は右手を正面にかざした。

 そして、大草原を流れるそよ風をイメージしてみる。思い描くのは吹き抜ける温かな風が自分の傍を駆け抜けていく姿だ。

 すると、青い光が彼の右手に収束し、彼の思念に呼応するように動き出す。やがて風のように渦を巻いて彼の周囲を駆け巡り、優しい風が彼の髪をふわりと揺らした。

「これが……精霊魔法……」

 部屋の窓も扉も開いていないのに吹き抜ける優しい風にアルバートは目を見開き、感嘆の声を上げる。

 精霊は火、水、風、土、光、闇の六属性が存在していることが確認されているが、未発見の属性が存在している可能性も指摘されている。精霊との調和は相性がすべてであり、相性が悪いと魔法発動はおろか、視認すらできないためだ。アルバートが様々な属性の精霊を視認している状況は、非常に珍しい事態であることが書籍からも伺えた。

 アルバートは立ち上がるとソルニアたちから少し離れ、先ほど吹き抜けた風を自身の足元に収束させていく。
 すると、彼の周囲に風が集まり、次第に大きな渦となっていった。渦はどんどん大きくなり、やがてアルバートの全身を包み込む。そのまま床を蹴って渦巻く風に身を任せると、彼の身体はふわりと浮き上がった。

「わぁ……!」

 まるで自分が鳥になったかのような感覚だ。自分を取り巻く浮遊感にアルバートは驚きの声を上げ、きょろきょろとあたりを見回す。普段自分が見ている目線よりずっと高くから見下ろす光景はどこか新鮮味を帯びていた。

「すごい!本当に飛んでる!」

 彼は興奮のあまり、思わず両手を大きく広げた。そして、その勢いのまま身体を一回転させる。すると彼の身体はさらに高く舞い上がり、そのまま風に乗って天井近くまで上昇していった。

「……っ!?」

 しかし次の瞬間、彼の視界は突然ぐるりと反転し、上下が逆転すると同時に背中に強い衝撃を受けた。どうやら天井に頭をぶつけたらしい。彼は頭を押さえ着陸する。

「いたた……あははっあはははっ」

 彼は思わず声を上げて笑ってしまった。その笑い声は広い空間に反響し響き渡る。その姿はまるで新しい玩具を得た子供のようだ。

 笑い転げる彼の周囲を、精霊たちもまた楽し気な様子で飛び回っていた。まるでお祭り騒ぎのようである。そんな精霊たちの様子を微笑ましく眺めながらアルバートは呟いた。

「これが……魔法か……」

 彼は改めて自分の両手を見つめた。そして、その小さな手をぎゅっと握りしめて胸に当てる。

「みんな、ありがとう」

 風の精霊にお礼を言うと、精霊たちはその光を震わせた。
 まるで歓喜しているかのようだ。

「いつか……神聖魔法も同じように……」

 思わず漏れ出た言葉は、それ以上言葉にしなかった。浄化と治癒を司る精霊の存在は、メイスの記した書籍の中に記載されていなかった。アルバートが視認できた精霊はどれも書籍に記載されている属性ばかりであり、神聖魔法はまた別の発動方式を持っているように思えた。

 火の精霊が氷を生み出せないように、想像した構想に適した精霊と同調できなければ魔法にすることはできないのだ。

「――こほん」

「……あ。」

 ソルニアの執務室であることを忘れて、本を抱えて床に座り込むアルバートに、ソルニアは咳払いを一度する。その音で我に帰ったアルバートは、一瞬で血の気の失せた表情を浮かべてソルニアの前で直立した。

「場を弁えず、し……失礼しました!」

「……アルバート殿、あなたの探究心は以前から高く評価していますが、続きは後になさい。目の前に好物を出されて我慢ができないようでは動物と同じですよ」

「うぅ……」

 反論の余地のないソルニアの指摘にアルバートは項垂れる。かつて厳しく施されたソルニアの指導を思い出し、アルバートは顔を青ざめさせる。

 しかし、アルバートの懸念をよそに、ソルニアはそれ以上言及してこなかった。

「まあ良いでしょう。たった一読だけで成功させるのは流石ですね。ひとまず、早く席に戻りなさい」

「はい……あの、この本をお借りしてもいいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます。早速読んでみます」

 アルバートはそれを大事そうに抱える。宝物を抱える無邪気な子供のようなその仕草に、ソルニアは自然と笑みを溢した。

「少し前まで死人のような目をしていたのに……あなたには敵いませんね。ちょうど茶の準備が出来たようです。少し話をしませんか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...