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第四部 最後の神聖魔法
覚悟
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修道士の叫ぶような声と共に、室内にいた全員が窓に駆け寄り空を見上げた。
「ねえ、あれ……」
ティーアは空を見上げて、それを指差した。アルバートもティーアの指の先に視線を送る。
ティーアが指差した先には、渦巻く黒い靄があった。
その奥には金色の瞳が大量に輝いていて、こちらをじっと見つめている。
「あれは……魔物だ」
アルバートは戦慄した。
渦巻く黒い靄は門と呼ばれる空間魔法だ。靄の先は魔界に繋がっていて、魔族と魔物の領域になっている。
(なんて大きな門なんだ)
通常、空間魔法で作られる門は魔物が一体通れる程度の大きさだ。門の通過すると、空間魔法の術者の魔力が大幅に消費されるため、門による魔物の移動は数体が限界である。しかし、目の前で展開されている空間魔法は、その通常のサイズの何倍も大きく、奥に控える魔物の数も尋常ではなかった。
その数――およそ軽く百は超えているだろう。
「何だあの数……今すぐロゼッタ様を呼んできます。策はありますか?」
「門を狙ってください。上空は修道士が魔法で狙いますので、カイル殿は地上のものをお願いします。アルバート殿は浄化を展開なさい」
できるか、ではなく命令形。
やらねば死ぬのだとその目が語っていて、アルバートは身を固くする。
「わかりました」
ソルニアの気迫に圧されて、アルバートは硬い表情のまま頷いていた。その緊張がティーアに伝わってしまったようで、ティーアから慌てた声が上がる。
「そんな、無茶よ!!」
「大丈夫だよ。もう逃げないって決めたから」
アルバートは不安そうなティーアに笑顔を向けた。そして彼女を抱きしめる。彼女の温もりが、心臓の鼓動が、身体全体に伝わってくる。
その鼓動がアルバートの心を落ち着かせた。
(そうだ。これはあの頃と違うんだ)
鮮血で染められた広間に積み上げられた仲間たち。瀕死の彼らの顔が絶望に変わっていく様をただ見ていることしかできなかったあの頃の自分。
弱かったから。力がなかったから。何もできずに、ただ力に翻弄されることしかできなかった。
その悲劇を繰り替えしたくなくて、自分は魔法を会得しようと思ったのではなかったか。
(大丈夫。もう繰り返さないって決めたんだ)
アルバートは、ティーアを離すと、彼女に向かって微笑んだ。ティーアは不承不承ながらそれを受け入れる。
「……分かったわ。魔物は魔法が効きづらいから、この剣を使って。きっとアルを守ってくれるから」
ティーアは短剣をアルバートに渡すと、なおも不安そうな表情を浮かべる。短剣は美しい装飾が施されていた。束の部分には赤い石が光っている。石に触れると、そこからは破邪の力を感じ取れた。それは対魔物に特化した剣だった。
「うん、ありがとう」
お礼を言いながら、アルバートは心の中でティーアに謝罪する。彼は剣を用いた戦闘を行ったことがなかったし、何より剣で何かを傷つけることはしたくなかった。
神は血の穢れを嫌う存在。ゆえに神に仕える神官が剣を振ることは良しとされない。たとえもう神官でなかったとしても、彼はその心までは捨てたくないと思っていた。
「絶対に無理しちゃダメだからね。危なくなったらすぐ逃げてね」
「じゃあ、行ってくるね」
急ぎ足で部屋を出ていくソルニアとカイルに続いて、アルバートも執務室を後にした。
「ねえ、あれ……」
ティーアは空を見上げて、それを指差した。アルバートもティーアの指の先に視線を送る。
ティーアが指差した先には、渦巻く黒い靄があった。
その奥には金色の瞳が大量に輝いていて、こちらをじっと見つめている。
「あれは……魔物だ」
アルバートは戦慄した。
渦巻く黒い靄は門と呼ばれる空間魔法だ。靄の先は魔界に繋がっていて、魔族と魔物の領域になっている。
(なんて大きな門なんだ)
通常、空間魔法で作られる門は魔物が一体通れる程度の大きさだ。門の通過すると、空間魔法の術者の魔力が大幅に消費されるため、門による魔物の移動は数体が限界である。しかし、目の前で展開されている空間魔法は、その通常のサイズの何倍も大きく、奥に控える魔物の数も尋常ではなかった。
その数――およそ軽く百は超えているだろう。
「何だあの数……今すぐロゼッタ様を呼んできます。策はありますか?」
「門を狙ってください。上空は修道士が魔法で狙いますので、カイル殿は地上のものをお願いします。アルバート殿は浄化を展開なさい」
できるか、ではなく命令形。
やらねば死ぬのだとその目が語っていて、アルバートは身を固くする。
「わかりました」
ソルニアの気迫に圧されて、アルバートは硬い表情のまま頷いていた。その緊張がティーアに伝わってしまったようで、ティーアから慌てた声が上がる。
「そんな、無茶よ!!」
「大丈夫だよ。もう逃げないって決めたから」
アルバートは不安そうなティーアに笑顔を向けた。そして彼女を抱きしめる。彼女の温もりが、心臓の鼓動が、身体全体に伝わってくる。
その鼓動がアルバートの心を落ち着かせた。
(そうだ。これはあの頃と違うんだ)
鮮血で染められた広間に積み上げられた仲間たち。瀕死の彼らの顔が絶望に変わっていく様をただ見ていることしかできなかったあの頃の自分。
弱かったから。力がなかったから。何もできずに、ただ力に翻弄されることしかできなかった。
その悲劇を繰り替えしたくなくて、自分は魔法を会得しようと思ったのではなかったか。
(大丈夫。もう繰り返さないって決めたんだ)
アルバートは、ティーアを離すと、彼女に向かって微笑んだ。ティーアは不承不承ながらそれを受け入れる。
「……分かったわ。魔物は魔法が効きづらいから、この剣を使って。きっとアルを守ってくれるから」
ティーアは短剣をアルバートに渡すと、なおも不安そうな表情を浮かべる。短剣は美しい装飾が施されていた。束の部分には赤い石が光っている。石に触れると、そこからは破邪の力を感じ取れた。それは対魔物に特化した剣だった。
「うん、ありがとう」
お礼を言いながら、アルバートは心の中でティーアに謝罪する。彼は剣を用いた戦闘を行ったことがなかったし、何より剣で何かを傷つけることはしたくなかった。
神は血の穢れを嫌う存在。ゆえに神に仕える神官が剣を振ることは良しとされない。たとえもう神官でなかったとしても、彼はその心までは捨てたくないと思っていた。
「絶対に無理しちゃダメだからね。危なくなったらすぐ逃げてね」
「じゃあ、行ってくるね」
急ぎ足で部屋を出ていくソルニアとカイルに続いて、アルバートも執務室を後にした。
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