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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法
03.マナ2
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それから2年が経過した。
アルバートは六歳になっていた。
アルバートは毎日のようにマナを放出する練習をした。
最初はなかなか上手くいかなかったが、アルバートが六歳を迎えるころには自由にマナを放出し、溢れ出るマナを自在に操ることができるようになっていた。
「アルは本当に優秀ですね」
夜も深け、神殿が闇に閉ざされる時刻。
ロウソクの火を片手にハデスはアルバートの部屋を訪れる。
彼はハデスの話をいたく気に入っていた。
そのため、今日はどんな話を聞かせようか――そう考えるのが最近のハデスの楽しみになっていた。
ハデスはアルバートの成長ぶりに感心していた。
彼自身が十年かけてたどり着いた域にたったの二年で達するとは、想像以上だった。
「ハデス様の教え方が上手だからだよ」
「ふふ、アルの飲み込みがいいからですよ」
アルバートは自分の努力を認めてもらえたことが嬉しくて、彼は無邪気な笑みを浮かべる。
彼は指先をくるくると回したり、手を閉じたり開いたりしながらマナを縦横無尽に動かしている。
その目は真剣そのものだったが、彼が何をしているのか、ハデスには皆目検討もつかなかった。
「ところで、それは何をしているんですか?」
「絵を描いているんだよ。砂で絵を描くみたいに出来ないかなって思って」
「なるほど」
彼が作ろうとしているものを改めて見ると、それは空を舞う龍の姿をしているように思えた。
おそらく、子供用の神話に出てくる白龍シュカの絵なのだろう。
雄大な姿からは迫力が垣間見えた。
彼の絵のような神龍の物語をハデスは毎日のようにアルバートに読み聞かせていた。
(好きこそ物の上手なれ、とはまさにこのことなのでしょうね)
出来上がっていく光の絵を見ながらハデスは思う。
ハデスにとって光の粒子はただのマナが具現化した形でしかなく、それで形を作ることなど意味の無い事だった。
そんなことの研鑽を積むくらいならもっと世のため人のためになることを習得したいとすら思う。
しかしこの目の前の少年にとっては、意味の有る無しは関係がないのだろう。
ただ楽しいからそれを行なうのだ。
役に立つかどうかではなく、マナの光で作りたいと思ったから作っているのだ。
そしてそれを成せてしまう彼の素質が末恐ろしいとも思った。
「明日、祈りの間に行きましょう」
出来上がっていくシュカの絵を見上げながら、ハデスは言った。
「祈りの間?」
「ええ。アルが神官になったら、お勤めをするところです。そして、人々に神聖魔法を展開する場所でもあります」
「神聖魔法?」
首を傾げたアルバートに、ハデスは自らの右手を見せる。
その手の甲には龍を象った白い印が描かれている。
「この印は聖印と言います。神聖魔法は神が行使する魔法ですが、この印とマナの力があれば人間も神聖魔法を使うことができます。神龍様はご自身が認められた愛し子にこれを授け、神聖魔法の行使を許してくださるのですよ」
そう言うとハデスは小さなナイフを取りだし、それで自分の指先を傷つける。
「ハデス様……?」
「神聖魔法をお見せしましょう。見ていてくださいね、アル」
突然の行動にアルバートは不安げな表情を浮かべるが、ハデスは気にせずに言葉を続ける。
「神聖魔法は人間にとってはいかなる傷も治す治癒、魔族にとっては強力な浄化の力を発揮します」
ハデスは自らの指先に魔力を集中させる。
すると、傷付いた彼の指先にマナが集まり、まるで軟膏を塗るかのように傷口を覆っていき、しまいには指全体が淡く光りだす。
その光がゆっくりと消えていくと、そこには傷跡一つ残っていなかった。
「すごい!」
アルバートはその美しい魔法に目を輝かせる。
「これが神聖魔法です。この力で、人々の病気を治したり怪我を癒したりすることができるのです」
「俺もやってみたい!」
アルバートが目を輝かせてそう言うと、ハデスは彼の頭に手を乗せた。
優しく撫でてくるその大きな手は、まるで父親のような安心感があった。
「今日はもう遅いですから、また明日にしましょうね」
ハデスはそう言ってアルバートを寝かしつける。
そして彼はアルバートの穏やかな寝顔を見ながら、彼のこれからの成長を楽しみに思うのだった。
アルバートは六歳になっていた。
アルバートは毎日のようにマナを放出する練習をした。
最初はなかなか上手くいかなかったが、アルバートが六歳を迎えるころには自由にマナを放出し、溢れ出るマナを自在に操ることができるようになっていた。
「アルは本当に優秀ですね」
夜も深け、神殿が闇に閉ざされる時刻。
ロウソクの火を片手にハデスはアルバートの部屋を訪れる。
彼はハデスの話をいたく気に入っていた。
そのため、今日はどんな話を聞かせようか――そう考えるのが最近のハデスの楽しみになっていた。
ハデスはアルバートの成長ぶりに感心していた。
彼自身が十年かけてたどり着いた域にたったの二年で達するとは、想像以上だった。
「ハデス様の教え方が上手だからだよ」
「ふふ、アルの飲み込みがいいからですよ」
アルバートは自分の努力を認めてもらえたことが嬉しくて、彼は無邪気な笑みを浮かべる。
彼は指先をくるくると回したり、手を閉じたり開いたりしながらマナを縦横無尽に動かしている。
その目は真剣そのものだったが、彼が何をしているのか、ハデスには皆目検討もつかなかった。
「ところで、それは何をしているんですか?」
「絵を描いているんだよ。砂で絵を描くみたいに出来ないかなって思って」
「なるほど」
彼が作ろうとしているものを改めて見ると、それは空を舞う龍の姿をしているように思えた。
おそらく、子供用の神話に出てくる白龍シュカの絵なのだろう。
雄大な姿からは迫力が垣間見えた。
彼の絵のような神龍の物語をハデスは毎日のようにアルバートに読み聞かせていた。
(好きこそ物の上手なれ、とはまさにこのことなのでしょうね)
出来上がっていく光の絵を見ながらハデスは思う。
ハデスにとって光の粒子はただのマナが具現化した形でしかなく、それで形を作ることなど意味の無い事だった。
そんなことの研鑽を積むくらいならもっと世のため人のためになることを習得したいとすら思う。
しかしこの目の前の少年にとっては、意味の有る無しは関係がないのだろう。
ただ楽しいからそれを行なうのだ。
役に立つかどうかではなく、マナの光で作りたいと思ったから作っているのだ。
そしてそれを成せてしまう彼の素質が末恐ろしいとも思った。
「明日、祈りの間に行きましょう」
出来上がっていくシュカの絵を見上げながら、ハデスは言った。
「祈りの間?」
「ええ。アルが神官になったら、お勤めをするところです。そして、人々に神聖魔法を展開する場所でもあります」
「神聖魔法?」
首を傾げたアルバートに、ハデスは自らの右手を見せる。
その手の甲には龍を象った白い印が描かれている。
「この印は聖印と言います。神聖魔法は神が行使する魔法ですが、この印とマナの力があれば人間も神聖魔法を使うことができます。神龍様はご自身が認められた愛し子にこれを授け、神聖魔法の行使を許してくださるのですよ」
そう言うとハデスは小さなナイフを取りだし、それで自分の指先を傷つける。
「ハデス様……?」
「神聖魔法をお見せしましょう。見ていてくださいね、アル」
突然の行動にアルバートは不安げな表情を浮かべるが、ハデスは気にせずに言葉を続ける。
「神聖魔法は人間にとってはいかなる傷も治す治癒、魔族にとっては強力な浄化の力を発揮します」
ハデスは自らの指先に魔力を集中させる。
すると、傷付いた彼の指先にマナが集まり、まるで軟膏を塗るかのように傷口を覆っていき、しまいには指全体が淡く光りだす。
その光がゆっくりと消えていくと、そこには傷跡一つ残っていなかった。
「すごい!」
アルバートはその美しい魔法に目を輝かせる。
「これが神聖魔法です。この力で、人々の病気を治したり怪我を癒したりすることができるのです」
「俺もやってみたい!」
アルバートが目を輝かせてそう言うと、ハデスは彼の頭に手を乗せた。
優しく撫でてくるその大きな手は、まるで父親のような安心感があった。
「今日はもう遅いですから、また明日にしましょうね」
ハデスはそう言ってアルバートを寝かしつける。
そして彼はアルバートの穏やかな寝顔を見ながら、彼のこれからの成長を楽しみに思うのだった。
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