神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

04.白龍シュカ

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 何かに呼ばれるような声が聞こえて、アルバートは目を覚ました。
 まだ夜は深く、夜明けは遠い。
 部屋の中を見回すが誰もいなかった。
 代わりに、部屋の扉が少しだけ開いていることに気がつく。

「……誰?」

 アルバートはベッドから起き上がると、部屋の扉へ近づいていく。
 そして扉を開けようとした時、彼は自分の手からマナの光が漏れ出ていることに気がついた。

(なんだろう?)

 アルバートは眠たい目をこすりながら部屋から出た。
 廊下を抜け、階段を降りる。
 漏れ出ているマナは、彼の行く先を導くかのように廊下を明るく照らしている。

 アルバートが光を追いかけて歩いていくと、やがて一つの部屋の前で止まった。
 そこは神殿の最奥にある神龍の間と呼ばれる場所だった。文字通り、神龍の住まう場である。
 神龍の間の扉は少しだけ開いていて、アルバートから発せられたマナは扉の隙間を通ってその部屋に流れ込んでいる。

(ここは……)

 その部屋に一人で入ることは、ハデスから禁じられていた。
 しかし好奇心が勝った。

 アルバートは扉に手をかける。
 そっと押すと、扉は油の抜けた音を立てながら簡単に開いた。

「う……わぁ……」

 中に入って辺りを見渡すと、そこには美しい光景が広がっていた。
 天井や壁一面に色とりどりの硝子がはめ込まれ、月明かりの反射で美しく輝いている。
 床には複雑な幾何学模様の魔法陣が敷かれており、その中央には小さな少女が立っている。

「だれ?」

 彼女の長い銀糸が風に吹かれてさらさらと揺れている。
 そんな髪と同じ銀の瞳は真っ直ぐにアルバートに注がれている。
 見覚えのない少女だ。
 神官にも神官見習いにもこの少女のような人物は見たことはなかった。

「君は誰?」

 アルバートがそう聞くと、少女はふっと微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

「私はシュカ。こちらにおいで、宿命さだめの子」

 その小さな口から発せられた声は鈴の音のように美しく響く。
 彼女に背中を押されるような感覚があり、アルバートは思わず彼女の前まで進んだ。
 床に描かれた魔法陣は石床に刻まれた溝にマナを流し込むように描かれていて、アルバートが足を踏み入れても陣が乱れることはなかった。

「シュカって……君は神龍様? 宿命さだめの子って何?」
「神龍などと仰々しく呼ばぬで良い」

 彼女はそう言うと、アルバートの手を取った。
 そしてその手を引き、足元の魔法陣に触れさせる。
 すると陣が輝きを強めていく。
 その光はどんどん強くなっていき、目を開けていることすら困難になってきた。

「なに……これ……!?」

 身体の中から何かが吸い出されていく感覚が走り、アルバートは彼女から離れようとするが、彼女は掴んだ手を離そうとしない。
 それどころかさらに強く握りしめてくる。

「アルバート・グランディア、私の中をそのマナで満たしてみよ。それが出来たならば、神聖魔法を授けよう」
「シュカ様を満たす?どうやって……」
「簡単だ。私に祈りを捧げよ。お前のマナをこの魔法陣に注ぎ込めば良い」
「祈る……?」
「そうだ。私はお前たちのようなマナを生み出せる者がいなければ、力を出すこともままならなくてな。さあ、やってみよ」

 彼女の言葉に、アルバートは戸惑いつつも頷いた。
 そしてゆっくりと膝をつき、両手を合わせて目を閉じる。
 すると、手から流れ出ていたマナが魔法陣へと集まり始めた。

「これは……?」

 自身の足元の魔法陣に集まる光に目を向けて、アルバートは驚きの声を上げる。
 光を見つめるシュカからは感嘆するような声が聞こえてくる。

「ほう、なかなか良い魔力だ」
「そうなの?」
「うむ。もっと頼む」
「わかった!」

 恍惚とした表情を浮かべるシュカはどこか人間らしくて可愛らしく、どこか親近感があった。
 アルバートは嬉しくなって、さらにマナを流し込む。
 すると魔法陣の光はさらに強まり、部屋中を照らし出すほどになった。

「すごい……綺麗……」

 その光の美しさに、アルバートは思わず見惚れてしまう。

 しかし、しばらくすると、アルバートの視界は明滅し始めた。
 呼吸が荒くなり、集中力が続かなくなる。

「もうよい」

 シュカはそう言うと、アルバートの額に指先を触れた。
 すると突然意識が遠退き、その場に崩れ落ちそうになるが、彼女がそれを受け止める。
 そして彼女はアルバートを床に横たわらせると、彼の髪に優しく触れた。

「……っ……うぅ……」

 強烈な眠気と脱力感に襲われながら、アルバートはシュカに身を任せた。

「すまぬな、無理をさせた、宿命の子よ。だが、おかげでお前との縁を結ぶことが出来そうだ。私の力を授けよう。どうか、お前の力をこれからも私に捧げてくれないか」

 薄れゆく意識の中で、その言葉だけがやけにはっきりと聞こえた。
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