神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

08.神聖魔法2

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 見慣れない景色に、アルバートは物珍しそうに辺りを見回す。
 木々の隙間からは木漏れ日が差し込んできていて、頬を撫でる風は柔らかい。こんな場所で昼寝をしたら気持ちよさそうだなと考える。
 そのまま森を歩いていくと、小さな湖のほとりに出た。

「さあ、着きました。ここが目的地です」

 ハデスはそう言って立ち止まる。
 湖面は透き通っていて底が見えるほど綺麗で、太陽の光をキラキラと反射させている。湖畔には色とりどりの花が咲いていて、まるで管理の行き届いた庭園のようだ。木と木の間からは伸びる光の筋は、半球を描くように湖を取り囲んでいて、それが結界であることはすぐにわかった。

「きれい……」

 目の前に広がる光景に、アルバートは感嘆の声を上げる。

「ええ、とても綺麗ですね。湖畔は自由に動いて貰って良いですが、湖を取り囲んでいる光の帯から先へは絶対に行かないでくださいね」

「どうして?」

「この光の帯は結界となっていて、神殿に張ってあるものと同じものになります。ここを出たら、悪きものがあなたを襲うかもしれません」

 悪きものがどのような存在なのか、アルバートには理解ができなかった。
 神殿で生活するアルバートと同い年の孤児でさえ神殿の外に出ることが許されているのだ。
 彼らは悪きものに襲われたりしないのか。
 そんな疑問が湧き上がるが、それをどのように聞けば良いのか、幼いアルバートにはわからなかった。
 だから彼は、素直に頷くことしかできなかった。

「うん」

 頷いて見せたアルバートにハデスは微笑みかけると、彼の頭を撫でた。
 ハデスの大きな手で撫でられると心地良い。
 それはまるでハデスの言いつけを守ったご褒美のようで、アルバートは気持ちよさそうに目を細めた。

「まずは神聖魔法をお見せしましょう」

 ハデスはそう言いながら目を閉じると、意識を深く集中させた。
 しばらくすると、周囲の草木から光の粒子が立ち昇り、それはハデスを囲むようにくるくると回り始める。
 そしてハデスは手を前にかざす。
 すると、くるくると回っていた光の粒子は彼とアルバートの間で整列し、薄い半透明の光の壁を構築した。

「触ってみなさい」

 ハデスに促されて、アルバートは構築された壁に触れる。

「硬い……」

 薄い壁は、しかしアルバートがどれだけ力を加えてもびくともしなかった。
 それはまるで岩のように硬く物質化したその壁に、アルバートは目を大きく見開いた。

「これは障壁と呼ばれる、神聖魔法の基本となる型です。マナは光の粒子の状態だと触れると淡雪のように消えてしまいますが、それを高密度で圧縮して物質化することで触れることができるようになります。これを物質化ギャザリングと呼びます。この状態にすることで神聖魔法として事象を具現化することができるようになるのです」

「……?」

 ハデス説明はアルバートには難解だった。
 難しい顔をしながら小首を傾げると、ハデスは破顔した。

「ふふ、難しかったですね。まず、集めたマナの物質化ギャザリングから知っていきましょう。物質化ギャザリングとは、通常なら触れることのできない光の粒子を触れる状態にすることをいいます。これが物質化前の、触れることのできないマナの状態です」

 そう言うと、ハデスは手のひらから光の粒子を放出させた。
 それは指で触れると、淡雪のようにすぐに空気に溶け、消えていってしまう。
 神聖魔力を奉納する時の状態で、アルバートにも馴染みの深いものだった。
 ハデスは説明を続ける。

「物質化には二つの方法があります。ひとつ目は、自身の中にある魔力をそのまま物質化する方法です。これは最も簡単な方法であり、初心者が最初に覚える方法です」

 ハデスは手のひらから光の粒子を放出させ、それで小さな球体を形作る。
 球体となった光の粒子は瞬く間に結合し、鈍い金色の鉛玉のような物質となった。
 触れると岩のように硬い感触が伝わってきて、指で弾くとカンッと金属を弾くような音がした。

「そして二つ目の方法は、自然界にある神秘の力をマナに変換して物質化する方法です。これはより大きな神聖魔法を行使するときに行います。神聖魔力の扱いに慣れた者が使う方法であり、より高度な魔法を使う際に使われます」

 ハデスはそう言うと、目を閉じ意識を集中させる。
 すると彼の足元に広がる花畑から淡い光が立ち昇る。
 その光は小さな粒子となってハデスの周囲をくるくると回りながら、一箇所に集まり球体を形作る。先ほどよりひと回り大きな鉛玉が浮かび上がった。

「わぁ……!」

「これがマナの物質化ギャザリングです」
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