神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

文字の大きさ
10 / 106
第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

10.花1

しおりを挟む
「ねぇアル、紅茶に使う香草を摘みに行きたいの。付き合ってくれない?」

 ティーア・アンクローゼが話しかけてきたのは、ハデスが出立した日の昼のことだった。
 橙色の髪を持つ彼女は、その艶やかな髪と同じ色の瞳で、アルバートの目を覗き込んでくる。彼女はアルバートより四つ歳上の少女だ。物心つく頃に身寄りのない孤児として神殿に引き取られた彼女は、アルバートにとって姉のような存在だった。

「香草?」

 聞き慣れない言葉にアルバートは首を傾げた。
 神聖魔法を修行する手を休めて、ティーアの方を振り返る。

「紅茶の茶葉よ。お料理に使ったり、香袋に入れて持ち歩くこともできるわ」

 そう言って彼女は小さな袋を取り出す。
 それは手のひらにすっぽり収まるほどのサイズで、中には乾燥した葉が入っている。
 その葉を数枚を掴み取ると、彼女はアルバートの鼻元まで持ってきて匂いを嗅がせた。
 すると爽やかな匂いがアルバートの鼻腔を通り抜けていく。

「いい匂い……」

「でしょ?カシミアの葉の香りっていってね、この香りが大好きなの。葉だけじゃなくて花もいい香りなのよ」

 思わず顔を綻ばせたアルバートを見て、彼女もまた嬉しそうに笑った。

「この間書庫で焼き菓子のレシピを見つけてね。この茶葉を使ったら香りが引き立つと思ったの」

「焼き菓子!」

 アルバートは目を輝かせてティーアの言葉を繰り返す。
 その姿は年相応の少年そのものだ。そんな彼を見てティーアはくすりと笑う。

「アルは焼き菓子好き?」

「大好き!」

 ティーアの問いにアルバートは満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。
 甘いもの全般が好きなアルバートだったが、その中でもティーアの作るお菓子はどれも美味しくて大好物だった。
 そんな彼の笑顔につられるように、ティーアもまた満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ今から出かけましょう。お手伝いしてくれる?」

「あ……でも俺、ここ以外は外に出ちゃいけないって言われてて。それに神聖魔法の修行もあるし……」

 アルバートは申し訳なさそうに表情を曇らせて、俯いてしまう。
 しかしそんな様子の彼を元気づけるように、ティーアはにっこりと笑う。

「うまくいかないときは思い切って気分転換をすると、案外うまくいくものなんだよ。アルが修行している森にはね、結界の抜け穴があるんだ」

「抜け穴?」

 罪悪感はあったが、好奇心のほうが勝った。
 アルバートが興味を示すと、ティーアは笑って彼の腕を握った。

「案内するね。こっちだよ」

 ティーアはアルバートの腕を引くと、草陰の一角に案内する。

 そこは空間を覆っている光の帯のちょうど境界線上に位置し、草の向きが不自然に歪んだ場所だった。
 子供が一人ぎりぎり通り抜けられるくらいの穴が空いていて、ティーアは身を屈めると、するすると穴を通り抜けていく。
 ティーアは通り抜けると、アルバートに手を差し伸べる。

「アルもおいで」

 アルバートは恐る恐る身体を穴の中に滑り込ませる。
 穴を潜り抜けると、景色が変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...