神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第一部 神龍の愛し子と神聖魔法

23.神聖魔法『浄化』1

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 アルバートの態度にリオルは興味を示したようだった。
 ティーアから目を離すと、今度はアルバートの方に足を向ける。

「へえ、君は神殿に飼い慣らされた素直で従順な子供だと思ってたんだけど、ずいぶん反抗的な顔もするんだね?」

 そう言ながら、リオルはアルバートの前に立つ。
 アルバートは怒りにたぎらせた目でリオルを見つめる。
 彼は自分の中に抗いがたい強い感情が生まれるのを感じた。その感情の名前はわからなかったが、それは彼が今まで経験したことのない衝動だった。

 アルバートは湧き上がる衝動に任せて、自身の中にある光の粒子を放出する。
 しかしそれはただの力の奔流であって、何の効果ももたらさない。
 そんなことはアルバート自身も、そしてリオルもわかっていた。
 しかしそれでもアルバートは自分の周囲に光の粒子を収束させる。光はアルバートを取り囲み、くるくると彼の周囲を回り出した。

「なるほど、これが神聖魔法の元になる力か。でも、この状態だと空気と同じで、触れようが何しようが僕らには無害なんだよね」

 リオルは嘲るように笑う。
 そして鎖に繋がれ、地面に縫い止められたアルバートの前にしゃがみ込むと、彼の髪を掴んで上を向かせると視線を合わせた。
 アルバートは憎悪を込めてリオルを睨む。

「君たちは本当に可愛いね……その反抗的な目、ゾクゾクするよ……」

 リオルは嗜虐的な笑みを浮かべると、アルバートの顔に触れた。
 その指は冷たく、まるで死人のようだった。ぞくりとした悪寒がアルバートの全身を駆け巡る。

(気持ち悪い)

 その瞬間に感じたのは恐怖ではなかった。嫌悪だ。

「さて……そろそろ仕上げをしようかな」

 そう言うとリオルはティーアを抱き寄せて、動けないアルバートに見せびらかすように彼女の首筋に指を這わせた。

「っ……!!」

 ティーアは小さな悲鳴を上げ、身体を大きく震わせるが、抵抗できないようだった。

「やめろ……っ!!」

 アルバートは怒りに震えた声で叫ぶ。
 しかしリオルはそんな彼のことなど気にも留めずに、両手を広げて滔々と語り出す。

「これからこの傷にね、僕の魔力を流し込んであげるんだ。そしたらティーアはどうなると思う?」

 首筋にできた傷を指で優しくなぞりながら、リオルは問いかける。
 ティーアは震えながら首を横に振った。
 それを見てリオルは目を細めると、傷口に手を当てた。そこへ自身の魔力をゆっくりと流し込む。

「君はね、僕の魔力と同化して、僕の眷属になるんだ」

 ティーアはビクンッと身体をのけぞらせる。彼女の瞳は大きく見開かれ、身体を震わせる。
 その目には涙が浮かび上がり、頬を伝い落ちると地面に流れ落ちた。

「っ……いやぁぁ……!!」

 リオルはその様子を見ながら楽しげに笑う。声を立てて笑う。
 そしてさらに魔力を流し込み続けた。ティーアは涙を流しながら悲鳴を上げた。
 その悲鳴はとても苦しげで見てられないものだったが、リオルは笑いながら続ける。

(やめろ)

 あまりに痛ましい光景にアルバートは自分の中で何かが弾けたのがわかった。
 それは怒りであり、そして確かな殺意だった。
 魔力を流し込まれる度に彼女の身体は激しく痙攣し、口からは声にならない悲鳴が漏れた。
 やがて限界を迎えたのか、彼女は大きく目を見開くと一際高い声で絶叫した。
 それと同時に全身の力が抜け落ちたかのようにぐったりと項垂れる。
 その様子を見てリオルは満足そうに頷くと、ティーアを拘束していた魔法の鎖を解除する。ティーアは地面に崩れ落ち、力無く横たわる。

「どうかな、僕の眷属になる気分は?苦しいでしょ?今、僕の魔力が君の身体の主導権を奪おうとしているのさ!」

 リオルは楽しそうに言いながらティーアに触れ、彼女の髪を掴んで顔を上向かせた。
 まるでモノのように扱うリオルにアルバートは強い憤りを覚え、無意識のうちに叫んでいた。

「やめろ!!」

 その瞬間、光の粒子が爆発的に溢れ出る。
 その輝きは辺り一面を包み込み、全てを白く染め上げた。
 脳裏に魔法陣が浮かび上がる。
 それはアルバートが今まで学んだことのない、複雑な構成のものだった。
 アルバートの脳裏に浮かんだイメージをなぞるかのように、光の粒子が彼の目の前で円陣を形作る。

「これは……」

 紋様を構成する巨大な魔法陣を見上げて、驚いたのはアルバート自身だ。
 光の粒子は円陣の中心へと集まり、魔法陣は徐々にその輝きを増していく。
 そして光の粒子が収束すると、目も眩みそうなほどに眩い光を放った。

 魔法陣の完成と共に、アルバートを拘束していた魔法の鎖が弾け飛ぶ。
 リオルは慌てて飛び退くと、魔法陣から溢れ出る光の粒子から逃れるために後ずさり、警戒を強める。
 そして憎々しげにアルバートを睨みつけると吐き捨てるように言った。

「それは……その術は君が使えるものじゃない」

 リオルの言葉に、アルバートは答えない。ただ、心の中で同意する。

(そうだ)

 何度も失敗している神聖魔法だ。発動は不安定で、初歩である障壁すら魔物に簡単に破られてしまう。そんな熟練度で高等魔法である浄化の術式が発動できるはずがない。

(わかってる。でも、やらなきゃいけないんだ)

 アルバートは立ち上がり、心の中で強く念じる。彼の想いに応えるかのように、光の粒子はさらに輝きを増していく。
 どうやって?
 アルバートは自問する。
 しかしなんでもいいと思った。考えても答えなんて出ないし、考える余裕もなかった。
 ただ目の前の敵を、あの邪悪な魔族を倒す。無計画でも無謀でも、何だったとしても、そのための力が必要だった。だから彼は願う。

(お願いします。どうか!どうか力を……!!)

 アルバートの願いに応えるかのように、光の粒子は一層激しく輝くと、彼の身体を取り巻いた。
 そして次の瞬間には彼を包み込み、その姿を覆い隠した。
 アルバートは魔法陣に光の粒子を注ぎ込む。
 そして――
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