神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第二部 雪華の祈り

33.雪華の祈り2

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 ヴィゼリアス帝国第一王女ロゼッタ・ファネル・ヴィゼリアスは目の前で展開される光景に目を輝かせていた。例年出席を見送るのだが、今年は彼女と同い年の神官が神事を務めるということもあり、出席に至ったのだ。

「きれいな瞳ね」

 ロゼッタは食い入るように祭壇の中央に立つ少年を見つめる。彼は高位の神官のみが着用を許される白い上衣を纏い、両手に持つ鈴をシャンシャンと鳴らしながら祭壇上で華麗に舞う。

 彼が動くたびに、髪に飾られた雪華もしゃらしゃらと動く。
 彼のその姿は少年でありながら、さながら舞姫である。

 外は雪が降っている。天井が高く家具の少ない礼拝堂内部は雪こそ防げるものの、寒さには無力だった。ロゼッタの吐く息は白く、分厚いコートとマフラー、帽子に手袋という完全防備ないでたちをしていてもなお、冷たい空気にさらされた頬や鼻は赤くなり、触ると冷たい。ロゼッタは両手を口元に当て、温かな吐息を吹きかける。ほんの少し温もりを取り戻した手のひらを頬に当てると、じんわりした熱を感じて気持ちよかった。……ほんの気休めにしかならないが。

 人口密度の高い参拝席ですらそのくらいの寒さだ。彼が一人立つ祭壇上はもっと冷え込んでいることだろう。何より祭壇は大理石でできており、舞を奉納している少年は裸足であった。よく見ると極寒に体温を奪われて、彼の素足は指先に赤みがかったり、紫に変色したりしている。あれでは踏み込むたびに痛みもあるだろうに、しかしそれを感じさせないほどに彼の舞は美しく、力強いものであった。

 彼が舞う度に祭壇が光を帯びて幻想的な輝きを見せる。奏でる鈴の音に合わせて光の粒子が飛び交い、光は離合集散を繰り返して無数の蝶のような姿を形どった。

(これが神童アルバート・グランディア……)

 参拝者は皆一様に彼の舞に見惚れ、息を呑んで彼が生み出す光景を見守っている。ロゼッタもその一人だ。彼はまるで同い年とは思えず、神の遣いや化身と言われても納得できてしまいそうだった。

 程なくして奉納の舞が終了する。少年は手に持っていた鈴を壇上に戻し、神像の前にひざまづいた。祭壇の傍にいた他の神官たちも同じように膝をつき両手を組む。神官の動きに釣られるように参拝者たちも次々と両手を組んで祈りを捧げた。

 神像の前でひざまづいた少年が一人、組んでいた両手を神像に向けて高く差し出す。開かれた両の掌からは光が溢れ、それは粒子となってふわふわと立ち昇っていく。空中を浮遊する光の粒子は、互いにくっついたり離れたりを繰り返しながら、やがて無数の光の蝶に姿を変わり、煌々と輝きながら礼拝堂を飛び回った。

 しばらくすると、光の蝶は火種を失った炎のように徐々に小さくなり、やがて溶けるように消えていった。再び神殿内が暗闇に包まれる。祭壇に立っていたのとは別の神官たちが火の灯った蝋燭を片手に奥から現れ、礼拝堂内に設置された無数の燭台に手分けして灯して回る。すべての燭台に火が灯ると、神殿は明るさを取り戻した。

 それが神事の終了の合図だ。参拝に訪れていた信者たちは次々と席を立ち上がり、入ってきた時と同じ大きな扉をくぐった。
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