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第二部 雪華の祈り
45.告白
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アレスタは礼拝堂を出ると、アルバートを探して辺りを見回した。
彼を見つけるのは容易かった。廊下を歩くアルバートを追いかける。彼の足取りはふらふらと覚束なく、今にも転びそうになりながら壁に手をついて身体を支えながら歩を進めていた。
礼拝堂での毅然とした振る舞いは彼なりの強がりだったのだろう。
神龍の愛し子として、最年少の神官として、それに相応しい姿であるための虚勢。
慌てて駆け寄って身体を支えると彼は小さく礼を言った。しかしその声には覇気がなく弱々しいものだった。よく見ると顔色が悪く呼吸も乱れているように見える。やはり体調が悪かったようだ。
「大丈夫?」
思わず声をかけると、彼は力なく笑った。
「うん……少しふらついただけだよ」
そう言うがとても大丈夫には見えない状態だ。このままではいつ倒れるかも分からない。
どうしたものかと考えていると突然、アルバートが立ち止まった。
「どうしたの?」
問いかけても返事はない。代わりに小さく身体を震わせている様子が伝わってきた。よく見ると全身から大量の汗が流れており呼吸が荒くなっていた。顔色も更に悪くなっているように見える。明らかに異常事態だった。
「アル!」
慌てて抱き寄せると彼はぐったりとした様子でもたれかかってきた。意識が朦朧てしているのか、呼びかけても反応がない。呼吸も浅く、そして早くなっており、額に手を当てると沸騰した水に触れるかのように熱かった。
このままでは危険だと判断してアレスタはすぐに教会内に設置されている救護室へと運んだ。
ベッドの上へと寝かせると、彼はうっすらと瞼を開け、潤んだ瞳でこちらを見た。
「あれすた……」
舌足らずな口調で名前を呼ばれ、胸が締め付けられるような感覚を覚える。しかし今はそんな感傷に浸っている場合ではなかった。
アレスタはすぐに水とタオルを用意するとアルバートの額に載せた。そしてそのまま彼の手を握りながら声をかける。
「アル、喋れる? 何があった?」
「っ……」
アルバートは何かを言いかけて口をつぐむと、小さく首を振った。心配かけたくないと、そういうことなのだろう。その仕草に胸が痛む。しかしここで引き下がるわけにはいかなかった。
「お願いだから話して」
「……」
「雪華の祈りの翌日、アルとロゼッタ様が散策から帰ってからずっと変だよ。それと関係があるんじゃないの? 散策で何があった?」
諭すように問いかけると彼はしばらく沈黙していたが、やがて観念したように口を開いた。その瞳には涙が浮かんでいた。そして途切れ途切れになりながらもゆっくりと説明し始めた。
「散策で……祠を見つけたんだ。俺にだけ声が聞こえてきて、怖くなってすぐ引き返したんだけど、それからずっとあの時の声が頭の中で響いていて」
アルバートはアレスタに散策での出来事を話した。
森の奥深くにある小さな祠から声が聞こえたこと、祠に触れると、何かが自分の中に流れ込んできたことを話す。
アルバートが一通り話し終えると、アレスタは静かに目を伏せた。
散策の夜、違和感に気づいて声をかけていたのに、大事はないと思ってしまった。その自分の判断を悔いた。
「ごめんね」
思わず謝罪の言葉が口から漏れ出ていた。それがアルバートの心を傷つけてしまったのか、彼は小さく首を振る。
「ううん……アレスタは悪くないよ」
そう言って弱々しく笑う姿に胸が締め付けられる思いだった。もっと早く異変に気づいてあげれば良かったと後悔するが、もう遅い。
こんな時、ハデスならどうするのだろう。
彼はどんな言葉をかけるのだろう。
神聖魔法が使えない、只人である自分自身が憎かった。
アレスタが只人であるが故に、アルバートはずっとこのことを秘匿し続けていたのだ。只人にはきっと対処なんてできないと決めつけて。
アレスタは立ち上がると、まっすぐにアルバートを見つめた。その瞳には強い決意が宿っているように見えてアルバートは目を瞬いた。
「ねえ、アル。その祠を見てくるよ。場所を教えて」
アレスタの言葉にアルバートは一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに首を振った。
「雪も降っているんだ。危ないよ」
その言葉にアレスタは苦笑すると優しく頭を撫でた。その心地よい手つきにアルバートは表情を緩めるが、不安げな顔は変わらない。
「僕はアルの兄だからね。ちょっと歳が離れすぎているけど、弟が苦しんでいるなら、たまには兄らしいことね」
そう言うとアレスタはアルバートの手を取り、ぎゅっと握りしめた。その温もりにアルバートは自分の心が安らいでいくのを感じた。
「……裏の、森の奥だよ。必死だったから、詳しい場所はわからないけど……」
アルバートは掠れた声で答えた。その言葉にアレスタは少し考えるような素振りを見せたがやがて頷いた。
「分かった」
アレスタはそのまま立ち上がると、そのまま部屋を出て行こうとする。
しかし、それを引き止めるかのようにアルバートが腕を掴んだ。驚いて振り返ると彼は不安げに瞳を揺らしている様子が目に入り、アレスタは優しく微笑んで彼の頭を撫でる。
すると、彼は安心したのかその手に頬を擦り寄せてきて、愛しさが募った。
(僕のかけがえのない弟)
物心ついた頃から母も父もなく、孤児として白龍の神殿に引き取られて育った。
家族という感覚自体が希薄だったアレスタにとって、アルバートやマリカ、ティーアは大事な家族であり妹や弟だ。兄は彼らを守るものだとハデスから教わって以来、ずっとその想いで接してきた。
「じゃあ、行ってくるよ。マリカを呼んでおくから、アルは休んでてね」
アレスタは立ち上がるとそのまま部屋を出ていった。
その背中を見送り、アルバートは表情を曇らせた。
彼を見つけるのは容易かった。廊下を歩くアルバートを追いかける。彼の足取りはふらふらと覚束なく、今にも転びそうになりながら壁に手をついて身体を支えながら歩を進めていた。
礼拝堂での毅然とした振る舞いは彼なりの強がりだったのだろう。
神龍の愛し子として、最年少の神官として、それに相応しい姿であるための虚勢。
慌てて駆け寄って身体を支えると彼は小さく礼を言った。しかしその声には覇気がなく弱々しいものだった。よく見ると顔色が悪く呼吸も乱れているように見える。やはり体調が悪かったようだ。
「大丈夫?」
思わず声をかけると、彼は力なく笑った。
「うん……少しふらついただけだよ」
そう言うがとても大丈夫には見えない状態だ。このままではいつ倒れるかも分からない。
どうしたものかと考えていると突然、アルバートが立ち止まった。
「どうしたの?」
問いかけても返事はない。代わりに小さく身体を震わせている様子が伝わってきた。よく見ると全身から大量の汗が流れており呼吸が荒くなっていた。顔色も更に悪くなっているように見える。明らかに異常事態だった。
「アル!」
慌てて抱き寄せると彼はぐったりとした様子でもたれかかってきた。意識が朦朧てしているのか、呼びかけても反応がない。呼吸も浅く、そして早くなっており、額に手を当てると沸騰した水に触れるかのように熱かった。
このままでは危険だと判断してアレスタはすぐに教会内に設置されている救護室へと運んだ。
ベッドの上へと寝かせると、彼はうっすらと瞼を開け、潤んだ瞳でこちらを見た。
「あれすた……」
舌足らずな口調で名前を呼ばれ、胸が締め付けられるような感覚を覚える。しかし今はそんな感傷に浸っている場合ではなかった。
アレスタはすぐに水とタオルを用意するとアルバートの額に載せた。そしてそのまま彼の手を握りながら声をかける。
「アル、喋れる? 何があった?」
「っ……」
アルバートは何かを言いかけて口をつぐむと、小さく首を振った。心配かけたくないと、そういうことなのだろう。その仕草に胸が痛む。しかしここで引き下がるわけにはいかなかった。
「お願いだから話して」
「……」
「雪華の祈りの翌日、アルとロゼッタ様が散策から帰ってからずっと変だよ。それと関係があるんじゃないの? 散策で何があった?」
諭すように問いかけると彼はしばらく沈黙していたが、やがて観念したように口を開いた。その瞳には涙が浮かんでいた。そして途切れ途切れになりながらもゆっくりと説明し始めた。
「散策で……祠を見つけたんだ。俺にだけ声が聞こえてきて、怖くなってすぐ引き返したんだけど、それからずっとあの時の声が頭の中で響いていて」
アルバートはアレスタに散策での出来事を話した。
森の奥深くにある小さな祠から声が聞こえたこと、祠に触れると、何かが自分の中に流れ込んできたことを話す。
アルバートが一通り話し終えると、アレスタは静かに目を伏せた。
散策の夜、違和感に気づいて声をかけていたのに、大事はないと思ってしまった。その自分の判断を悔いた。
「ごめんね」
思わず謝罪の言葉が口から漏れ出ていた。それがアルバートの心を傷つけてしまったのか、彼は小さく首を振る。
「ううん……アレスタは悪くないよ」
そう言って弱々しく笑う姿に胸が締め付けられる思いだった。もっと早く異変に気づいてあげれば良かったと後悔するが、もう遅い。
こんな時、ハデスならどうするのだろう。
彼はどんな言葉をかけるのだろう。
神聖魔法が使えない、只人である自分自身が憎かった。
アレスタが只人であるが故に、アルバートはずっとこのことを秘匿し続けていたのだ。只人にはきっと対処なんてできないと決めつけて。
アレスタは立ち上がると、まっすぐにアルバートを見つめた。その瞳には強い決意が宿っているように見えてアルバートは目を瞬いた。
「ねえ、アル。その祠を見てくるよ。場所を教えて」
アレスタの言葉にアルバートは一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに首を振った。
「雪も降っているんだ。危ないよ」
その言葉にアレスタは苦笑すると優しく頭を撫でた。その心地よい手つきにアルバートは表情を緩めるが、不安げな顔は変わらない。
「僕はアルの兄だからね。ちょっと歳が離れすぎているけど、弟が苦しんでいるなら、たまには兄らしいことね」
そう言うとアレスタはアルバートの手を取り、ぎゅっと握りしめた。その温もりにアルバートは自分の心が安らいでいくのを感じた。
「……裏の、森の奥だよ。必死だったから、詳しい場所はわからないけど……」
アルバートは掠れた声で答えた。その言葉にアレスタは少し考えるような素振りを見せたがやがて頷いた。
「分かった」
アレスタはそのまま立ち上がると、そのまま部屋を出て行こうとする。
しかし、それを引き止めるかのようにアルバートが腕を掴んだ。驚いて振り返ると彼は不安げに瞳を揺らしている様子が目に入り、アレスタは優しく微笑んで彼の頭を撫でる。
すると、彼は安心したのかその手に頬を擦り寄せてきて、愛しさが募った。
(僕のかけがえのない弟)
物心ついた頃から母も父もなく、孤児として白龍の神殿に引き取られて育った。
家族という感覚自体が希薄だったアレスタにとって、アルバートやマリカ、ティーアは大事な家族であり妹や弟だ。兄は彼らを守るものだとハデスから教わって以来、ずっとその想いで接してきた。
「じゃあ、行ってくるよ。マリカを呼んでおくから、アルは休んでてね」
アレスタは立ち上がるとそのまま部屋を出ていった。
その背中を見送り、アルバートは表情を曇らせた。
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