神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第二部 雪華の祈り

46.祠

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 それからのアレスタの行動は早かった。

 まず、救護室を後にするとすぐにソルニアに事情を伝えて、マナの奉納の中断と白龍の神殿宛の手紙をしたため、それをソルニアの配下であるレーンに託した。

 次にマリカを探すべく教会内を歩き回り、中庭で雪と戯れていたマリカを捕まえて教会内の一室に連れて行き、これまでの経緯を説明するとともに、アルバートの付き添いをするように指示する。

「はぁい」

 マリカは間延びした口調ではあったが、二つ返事で了承した。そしてアルバートの体調が回復し次第知らせてもらうことを約束して部屋を出て行く。

 一通りの手配を終えると、アレスタは大きく深呼吸をした。
 これで準備は整った。
 あとは祠へ行ってみなければ何も始まらない。

「さて、行こうかな」

 小さく呟くとアレスタは細身の剣を片手に持ち、部屋を出て行く。

 アレスタには剣の実戦経験のなく、戦闘になっても斬り伏せられる自信がなかったが、それでも丸腰よりはマシだと思った。

 幸い、吹雪は止んでいて視界は良好だった。十歳の子供が日帰りできる距離なのだから、そこまで離れてはいないはずと当たりをつけながら、アレスタは雪道を進む。しばらく歩くと森の入り口が見えてきた。

「あれかな」

 目の前に広がる鬱蒼とした木々の群れに足を踏み入れると、途端に空気が変わるのを感じた。まるで別世界に迷い込んだかのような錯覚に陥るほど、そこは異質な空間だった。

「これは……すごいね……」

 思わず感嘆の声を漏らす。そこには幻想的な光景が広がっていた。いや、幻想的というよりも、別世界という表現の方が正しいかもしれない。木々の間を抜けて出た先には、雪はなく、まるでそこだけ春を迎えているかのように一面が色とりどりの花畑になっていた。白いカシミアの花に触れ、今なお白龍の神殿で眠り続ける家族のことを思い出す。

 しかしいつまでも眺めているわけにもいかないため、気を取り直して歩みを進める。厳冬期にも関わらず一切の雪がないのは不気味だったが、おかげで歩きやすかった。しばらく歩くと古い祠が見えてきた。

「あれだ」

 アレスタは小さく呟くと、ゆっくりと近づいていく。
 小さな祠は苔が生え、一部は風雨に晒されて崩れかけていた。

「結構ボロボロだね」

 祠の前にかがむと、念のため扉には触れずに中を覗き込む。中には何もなく、ただぽっかりと空洞が広がっているだけだった。

「中は空っぽか……」

 試しに開けてみようかと、そんな誘惑に駆られる。

 アルバートが警鐘を鳴らした扉を開くなど、普段の慎重なアレスタでは考えられない誘惑だった。

「いや……でも」

 しかし、アレスタは首を横に振った。
 ここで自分が判断を間違えればアルバートの体調が悪化するかもしれない。それだけは絶対に避けなければいけなかった。

「……帰ろう」

 結局何もせずに立ち上がり踵を返すと、来た道を戻ることにする。

 その時だった。

『開けよ……』

 突然、祠の奥から地を這うような低い声が響いた。耳元で囁かれるような感覚にぞわりと鳥肌が立つ。
 咄嗟に振り返ると、祠から黒い霧のような塊が溢れ出ていた。

「な……にこれ」

 目の前で起きる理解できない展開に、アレスタは強い恐怖心を抱いた。この祠に触れてはならない。恐怖に支配されていく思考の片隅で警鐘が鳴り響く。

 アレスタは祠に身体を向けたまま、距離を取るべくゆっくりと後ずさりした。
 未知なるものが恐ろしくて仕方なくて恐怖で身体が震え今すぐ逃げ去りたい衝動に駆られるが、それを寸前のところで踏み止まる。

 おそらく、この黒い霧がアルバートを苦しめる原因だと直感した。
 ならば、目の前のこの黒い塊をどうにかしなければ。

 アレスタは覚悟を決めると片手に持っていた護身用の剣を抜いた。
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