50 / 106
第二部 雪華の祈り
49.祠の森2
しおりを挟む
「アレスタ、起きて!」
アルバートは慌てて駆けより、アレスタの身体をゆすった。触れると彼の身体は温かく、規則正しい呼吸音と血液の流れを感じた。
(良かった、生きている……)
アレスタの生存を確信し、アルバートは安堵する。しかし、彼を取り巻くように黒い霧が立ち込めていて、それがアレスタにまとわりついているのは気がかりだった。
アルバートは祠に目を向ける。
『開けよ……』
閉ざされた祠の扉の奥から声が響いた。
地を這うような太い、低い声だ。それとともに、扉の隙間から黒い霧が溢れだす。
数日前に浄化の術式を展開したとき、祠の中で何かが蠢きめき、光を浴びて消え去ったのを見たはずなのに。
それなのに、目の前にあるその祠からは前と同じように声が聞こえ、霧が吹き出ている。
(ひょっとして中に居るのは魔族じゃない?)
浄化の術式は万能ではない。それは魔族に対して圧倒的な威力を発揮する代わりに、魔族以外の者に対しては一切の効果がないのだ。例えばアレスタのような普通の人間に対して展開しても、その術式は毒とならず、何の効果も得られない。
どうしたものか――何の策もなく扉を開くのは不用心と思った。しかし何もしないわけにもいかない。
(そうだ)
頭の中で響いている声が、少し前にアルバートの悪態にクツクツと笑っていたのを思い出す。
彼らには意思があり、もしかしたら会話ができるのかもしれない。そう思った。
「ねえ。その扉を開けたら、アレスタを解放してくれる?」
意を決して話しかけてみると、今度は嬉しそうな笑い声が聞こえた。
『ああ、もちろんだとも! その人間には用はない』
その返答を聞いて、アルバートは笑った。
声は重要な情報を落としてくれた。
その人間には用はない。つまり彼らにとって扉を開くことは手段であり、本命はアルバートということだ。
「いいよ。アレスタを解放して、手を出さない。そう約束してくれるなら、その扉を開くよ。――でも、」
アルバートは一度言葉を止める。心臓が早鐘を打った。
交渉において“間”は大事だ。相手を焦らし、自分優位な状況を作り出すのだ。
アルバートは逸る心を抑えて自分自身に言い聞かせる。
相手と対等、もしくは優位な立場で進めるためには、自分の心の内や心理状態を見透かされてはいけない。
揚げ足を取られてはいけない。
焦るな。
それを悟らせるな。
自分の心を落ち着かせる意味でも、一呼吸置いて、ゆっくりと告げる。
「約束を違えるなら、俺の持つすべての力でお前たちを消し去る」
数年前の、神聖魔法すら満足に使えなかった頃なら、きっと肉食獣に睨まれた小動物のようにただただ恐怖に震えることしかできなかっただろう。
でも今は違う。
何もできず、ティーアに手を引かれて震えていただけのあの頃とは。
『良いだろう』
扉の向こうで声の主が笑った気がした。
アルバートは扉に触れると、躊躇なく扉を開いた。
アルバートは慌てて駆けより、アレスタの身体をゆすった。触れると彼の身体は温かく、規則正しい呼吸音と血液の流れを感じた。
(良かった、生きている……)
アレスタの生存を確信し、アルバートは安堵する。しかし、彼を取り巻くように黒い霧が立ち込めていて、それがアレスタにまとわりついているのは気がかりだった。
アルバートは祠に目を向ける。
『開けよ……』
閉ざされた祠の扉の奥から声が響いた。
地を這うような太い、低い声だ。それとともに、扉の隙間から黒い霧が溢れだす。
数日前に浄化の術式を展開したとき、祠の中で何かが蠢きめき、光を浴びて消え去ったのを見たはずなのに。
それなのに、目の前にあるその祠からは前と同じように声が聞こえ、霧が吹き出ている。
(ひょっとして中に居るのは魔族じゃない?)
浄化の術式は万能ではない。それは魔族に対して圧倒的な威力を発揮する代わりに、魔族以外の者に対しては一切の効果がないのだ。例えばアレスタのような普通の人間に対して展開しても、その術式は毒とならず、何の効果も得られない。
どうしたものか――何の策もなく扉を開くのは不用心と思った。しかし何もしないわけにもいかない。
(そうだ)
頭の中で響いている声が、少し前にアルバートの悪態にクツクツと笑っていたのを思い出す。
彼らには意思があり、もしかしたら会話ができるのかもしれない。そう思った。
「ねえ。その扉を開けたら、アレスタを解放してくれる?」
意を決して話しかけてみると、今度は嬉しそうな笑い声が聞こえた。
『ああ、もちろんだとも! その人間には用はない』
その返答を聞いて、アルバートは笑った。
声は重要な情報を落としてくれた。
その人間には用はない。つまり彼らにとって扉を開くことは手段であり、本命はアルバートということだ。
「いいよ。アレスタを解放して、手を出さない。そう約束してくれるなら、その扉を開くよ。――でも、」
アルバートは一度言葉を止める。心臓が早鐘を打った。
交渉において“間”は大事だ。相手を焦らし、自分優位な状況を作り出すのだ。
アルバートは逸る心を抑えて自分自身に言い聞かせる。
相手と対等、もしくは優位な立場で進めるためには、自分の心の内や心理状態を見透かされてはいけない。
揚げ足を取られてはいけない。
焦るな。
それを悟らせるな。
自分の心を落ち着かせる意味でも、一呼吸置いて、ゆっくりと告げる。
「約束を違えるなら、俺の持つすべての力でお前たちを消し去る」
数年前の、神聖魔法すら満足に使えなかった頃なら、きっと肉食獣に睨まれた小動物のようにただただ恐怖に震えることしかできなかっただろう。
でも今は違う。
何もできず、ティーアに手を引かれて震えていただけのあの頃とは。
『良いだろう』
扉の向こうで声の主が笑った気がした。
アルバートは扉に触れると、躊躇なく扉を開いた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる