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第二部 雪華の祈り
50.封じられていたもの
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祠の扉を開いた瞬間、黒い霧が溢れ出す。
それはまるで煙のように広がり、辺りを包み込んだ。勢いは凄まじく、アルバートは両腕で顔を覆い目を伏せ、数歩後ずさる。
腕の隙間から覗き込むようにして祠を窺うと、噴き出る霧が人の形に集約しようとしているのがわかった。
「神聖魔法『障壁』発動」
念のためマナを集めて光の壁を構築すると、自分自身と意識を失っているアレスタを囲うように展開する。透明の光の壁が周囲を囲み、黒い霧から二人を隔離する。
霧はやがて人の形を成し、アルバートの目の前に現れた。
腰まである艶やかな長い黒髪。瞳は魔族特有の金色ではなく、漆黒の双眸をしている。見た目の年齢や背丈はアルバートと大差なく、ゴシックドレスを身にまとった可憐な少女だ。
アレスタに目を向けると、彼を取り巻いていた黒い霧も霧散していて、心なしか顔色も良くなってきているように思えた。
アルバートは安堵の吐息を漏らして、現れた少女に目を向けた。彼女と目が合う。黒髪の少女はアルバートを好奇な目で見つめていた。
彼女はアルバートの前まで歩み寄ると、隔てるように神聖魔法で構築された障壁に手を伸ばす。すると、透明の光の壁がパリンという音を立てて崩れ落ちた。
「障壁が破られた……? うそだ……」
アルバートは驚愕で目を見開いた。窓ガラスを割るように簡単に神聖魔法が破壊されたことなど今までに一度もなかった。
「どうして……?」
呆然と立ち尽くすアルバートを見て、少女は可笑しそうにクスクスと笑った。そして手で口元を覆い隠すようにしながら笑い声をあげる。
その笑い声は先程までの地を這うような低い声から一変して、高く澄んだ少女の声だった。
「この程度の障壁など我が魔力で簡単に打ち砕けるわ」
そう言って砕けた障壁の欠片をひとつ拾い上げると、それを口に含み、ガリッと噛み砕く。
まるで砂糖菓子を頬張ったように恍惚の表情を浮かべて頬を紅潮させた。
「ああ……やはり思った通りだ。この魔力は格別だのぅ……。濃密で芳醇で……我を狂わせる」
恍惚とした表情を浮かべて、彼女はアルバートに近づいてくる。
「もっと欲しい。その魔力を……」
少女の指先がアルバートの頬に触れる。
その姿に、アルバートの口から呆けたような声が飛び出した。
「え……」
目の前の少女が、彼女のその恍惚とした表情や面影が誰かと重なって見えたのだ。吊り目がちの瞳、笑うとちらりと覗く八重歯、ふわりと笑うその表情はどこか人間離れしていて、人ではない何かを彷彿させる。
「君は……」
髪の色も目の色も似ていないのに、彼女の笑い方が、触れ方が、彼の信仰する神龍と重なるのだ。
動揺するアルバートを見て少女は楽しそうに笑った。そしてそのまま顔を近づけると、彼の耳元で囁くように告げてきた。
「我は黒龍ディアーナ。シュカの妹神に当たる者だ」
その一言に、アルバートは目を見開いた。
それはまるで煙のように広がり、辺りを包み込んだ。勢いは凄まじく、アルバートは両腕で顔を覆い目を伏せ、数歩後ずさる。
腕の隙間から覗き込むようにして祠を窺うと、噴き出る霧が人の形に集約しようとしているのがわかった。
「神聖魔法『障壁』発動」
念のためマナを集めて光の壁を構築すると、自分自身と意識を失っているアレスタを囲うように展開する。透明の光の壁が周囲を囲み、黒い霧から二人を隔離する。
霧はやがて人の形を成し、アルバートの目の前に現れた。
腰まである艶やかな長い黒髪。瞳は魔族特有の金色ではなく、漆黒の双眸をしている。見た目の年齢や背丈はアルバートと大差なく、ゴシックドレスを身にまとった可憐な少女だ。
アレスタに目を向けると、彼を取り巻いていた黒い霧も霧散していて、心なしか顔色も良くなってきているように思えた。
アルバートは安堵の吐息を漏らして、現れた少女に目を向けた。彼女と目が合う。黒髪の少女はアルバートを好奇な目で見つめていた。
彼女はアルバートの前まで歩み寄ると、隔てるように神聖魔法で構築された障壁に手を伸ばす。すると、透明の光の壁がパリンという音を立てて崩れ落ちた。
「障壁が破られた……? うそだ……」
アルバートは驚愕で目を見開いた。窓ガラスを割るように簡単に神聖魔法が破壊されたことなど今までに一度もなかった。
「どうして……?」
呆然と立ち尽くすアルバートを見て、少女は可笑しそうにクスクスと笑った。そして手で口元を覆い隠すようにしながら笑い声をあげる。
その笑い声は先程までの地を這うような低い声から一変して、高く澄んだ少女の声だった。
「この程度の障壁など我が魔力で簡単に打ち砕けるわ」
そう言って砕けた障壁の欠片をひとつ拾い上げると、それを口に含み、ガリッと噛み砕く。
まるで砂糖菓子を頬張ったように恍惚の表情を浮かべて頬を紅潮させた。
「ああ……やはり思った通りだ。この魔力は格別だのぅ……。濃密で芳醇で……我を狂わせる」
恍惚とした表情を浮かべて、彼女はアルバートに近づいてくる。
「もっと欲しい。その魔力を……」
少女の指先がアルバートの頬に触れる。
その姿に、アルバートの口から呆けたような声が飛び出した。
「え……」
目の前の少女が、彼女のその恍惚とした表情や面影が誰かと重なって見えたのだ。吊り目がちの瞳、笑うとちらりと覗く八重歯、ふわりと笑うその表情はどこか人間離れしていて、人ではない何かを彷彿させる。
「君は……」
髪の色も目の色も似ていないのに、彼女の笑い方が、触れ方が、彼の信仰する神龍と重なるのだ。
動揺するアルバートを見て少女は楽しそうに笑った。そしてそのまま顔を近づけると、彼の耳元で囁くように告げてきた。
「我は黒龍ディアーナ。シュカの妹神に当たる者だ」
その一言に、アルバートは目を見開いた。
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