神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第二部 雪華の祈り

30.旅路1

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 一週間後、アルバートはハデスたちと共にダーハート教会に向けて出発した。

 同行者はハデスの腹心であるアレスタと神官見習いのマリカだけであり、要人の一行としてはいささか人数が少ないが、人員を厳選したが故の構成だった。

 ダーハート教会までは馬車で半月ほどかかる。
 アルバートにとっては初めての長旅であり、馬車移動だった。アレスタとマリカはティーアと同じく神殿が預かって育てた孤児であり、アルバートにとっては幼い頃から知る家族に近い存在だ。二十代後半のアレスタは兄と呼ぶにはいささか歳が離れすぎているが、それでも何かと面倒を見てくれていた。

 馬車へ乗り込む際、アルバートはハデスに手を引かれて進んだ。ハデスの大きな手に懐かしい気持ちになり、昔は神殿内を歩く時によく手を引いてもらったことを思い出した。

 馬車の窓から見える風景は長閑で美しく、初めて見る外の世界の姿に心が湧き立った。

「あ、魔物だ」

 窓から外を眺めていると、森の奥に蠢く黒い影が見えた。それは金色の瞳をぎらつかせて、馬車を見つめている。

「こんなところで珍しいですね。襲われても困りますし、倒しておきましょう」

 ハデスは御者に馬を止めるよう指示し、馬車を降りようと扉を開く。
 それを制したのはアルバートだ。

「ハデス様、俺がやるよ」

「そうですか。では任せましょう」

 ハデスは穏やかな笑みを浮かべ、アルバートを見送った。

 アルバートは馬車を降りると、魔物と対峙する。四足歩行の黒い獣だ。大きさはアルバートの背丈と同じくらいだが、口元から見える牙は鋭く、噛みつかれたらひとたまりも無さそうだ。その瞳を見ると、魔族特有の金色をしていた。

 アルバートは精神を集中させると、手のひらから光の粒子を放出させる。それとともに彼の周囲に生えた草木も光を発した。マナと呼ばれるその光は、アルバートの手元に集合すると、研ぎ澄まされた刃のような形状を形どった。

「神聖魔法『浄化』発動」

 呪文とともに一刃の光の刃が魔物に向かって放たれる。魔物は避けようとするが、光の刃は一瞬のうちにその首を斬り落とした。切られたところから黒い霧が噴き上がり、魔物の形が消えていく。氷が水になるかのように、しばらくすると魔物の姿は跡形もなくなった。

 魔物の消滅を確認して、アルバートは馬車に戻る。

「アル、お見事~」

 マリカの間延びした口調が出迎えた。
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