神龍の愛し子と呼ばれた少年の最後の神聖魔法

榛玻璃

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第二部 雪華の祈り

54.まるで奔流のような衝動2

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 ディアーナは顔を近づけると、アルバートの額に唇を押し当てた。

 弾力ある柔らかな感触。そしてディアーナの唇が触れた場所から熱いものが流れ込んでくるのを感じた。その熱は首を伝って全身へと広がると、まるで何かに侵食されていくような感覚に襲われた。

「なっ……にを……!」

 言葉を口にしようとすると、内側から身を焼かれるような激痛が走った。耐えきれず、アルバートは膝をついた。その痛みに耐えかねて思わず頭を振るが、それは何の意味もなさなかった。

「お前に発言は許可していない。我が力を望むのであれば、その首を縦に振るが良い」

 ディアーナは蹲るアルバートの顎に手を添えると、自分の方に顔を向けさせた。脳の奥が痺れて視界もぼやけている中、目の前には漆黒の双眸があるのが見えた。その瞳に射抜かれるだけで、まるで金縛りにあったかのように身の自由が利かなくなる。

「あ……う……」

 口を開くが、出てくるのは言葉にならない呻き声だけだった。それでもなんとか首を横に振ろうと抵抗した。しかしそんなささやかな反抗を嘲るように彼女はさらに顔を近づけてくると、耳元でそっと囁くように言ってくる。

「さぁ……、素直になれ。己の欲望に耳を傾けよ」

 脳内に直接響くような甘い声に、背筋がぞくりと粟立った。
 その声が甘い毒のように身体中を駆け巡り、アルバートの思考を絡め取っていく。

「いや……だ………」

 奥歯を噛み締め、首を横に振る。
 全身が痛い。熱い。苦しい。でも……痛みとともに別の感覚も流れ込んでくる。
 奔流のように流れ込んでくるそれは、衝動にも似た、何かの欲望だ。

 チカラガホシイ。

 まるで思考を塗り替えていくかのように、その欲望は徐々に大きくなっていく。正常だった思考回路を黒く汚染していく。
 力を望めと頭の中で誰かが囁きかけてくる。

「あ……ああ……」

 ――なぜ?
 正常な理性が問いかける。

 ――知らない。理由なんてなんでも良い。
 植え付けられた欲望に汚染された本能が応える。

「あ……、あぁああ……」

 頭がおかしくなりそうだ。全てが曖昧になって、自分が何を求めているのかすら分からなくなってくる。理性と本能がせめぎ合い、潰し合って、そして両者は次第に目の前の少女の言葉に従ってしまいたい願望だけになっていく。まるで麻薬のように脳内を侵食し、思考を狂わせる。その誘惑はあまりにも甘美で、抗いがたいものだった。

 頭の中に霞がかかり、ほんの少し気を緩めるだけでも正常な判断ができなくなってしまう。

「さぁ、黒龍の力を欲せ」

 ディアーナの声が脳内に響き渡り、思考をかき乱す。

 アルバートは抵抗するかのように拳を強く握り、爪を立てた。皮膚が裂け、血が滲む。その痛みが辛うじて理性を繋ぎ止める。

「シュカ様と約束したんだ………俺の力を捧げるって。だから神聖魔法を授かったんだ……その約束を俺は絶対に裏切らない!!」

 アルバートは吼えた。自分自身に言い聞かせるかのように、大切な存在を脳裏に思い浮かべながら叫んだ。
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