近江一族物語1『融合』

七々虹海

文字の大きさ
55 / 59

しおりを挟む
「えっ?…晴空?」
 僕らは二人で話すのに夢中になってて、近づいてきていた女の子に気がついてなかった。

「晴空?のわけないよね…。死んじゃったんだもんね…じゃぁ、双子の凪、か…」
 誰だっけ。思い出せなくて何も返事が出来ない。
 (凪、小中学校一緒だったミキだよ。俺は高校も一緒だったんだ)
「みき、ちゃん?」
「そう。よく覚えてたね。体が弱くて親戚のとこで療養してるって聞いてたけど、帰ってきてたんだ?」

 そうか、僕が急に本家に行って、学校ではそんな理由で転校したって事になってたんだ…。
「そう、帰ってきてたよ…。学校はまだだけど」
「ふぅん。私さ、ここに赤ちゃんいるんだよ」
 えっ。みきちゃんがここと言って両手の掌で触ったのは彼女のお腹だった。

「晴空との赤ちゃん」
「えっ?」
(はっ?!俺とみき付き合ってたとか知らないし!凪のことがあるんだから付き合うわけないじゃん!何言ってんだよみき!)
「疑ってるの?本当だよ。私晴空としかそういう事してないし。晴空、噂では男の人と付き合ってたらしいね。噂だから本当かは知らないけど。もし本当だったら、女の子とシたのは私だけだったのかもね」

 晴空が?みきちゃんと?頭が追い付かない。
(凪!聞くなよ!行こうぜ。俺はそんな事実知らない!みきはずっとただの同級生だから!)
 晴空の記憶がない期間ならあり得ない話じゃないのかもしれない…。現に男の人と付き合ってたというか、そういう関係だったみたいだし。晴空の赤ちゃん。死んだはずの晴空の遺伝子が彼女のお腹で育ってる。晴空は死んでしまったけど、その一部が育ってるなんて。
 ずっとずっと晴空だけを見ていた僕からしたら悔しくて、嫉妬してもおかしくない告白なのに、僕はなぜか、晴空の一部が育ってるって聞いて嬉しくなった。
 嬉しくて嬉しくて、笑いがこみあげてきて、涙が出てきて、彼女に感謝したくなった。そっか、晴空の一部は生きて産まれてくるんだ。
 
(凪?)
 僕の様子がおかしかったみたいで晴空が心配してる。
「ん。大丈夫だよ」
「何が?」
「みきちゃん。教えてくれてありがとう。晴空の子、元気に生まれるといいなぁ。教えてくれて、ありがとう」
 みきちゃんも、思ってもいなかった僕の言葉だったみたいで不思議そうな顔をしてる。
「凪さ、なんか変わったね」
「そうかな?」
「暗くて、なんか、変なもの見えてるみたいで怖かった。ふぅん、いいんじゃない?今のあんたの方が」

「そう?ありがとう。ごめんね、若くして子供生むとか大変なのに能天気な事言って。…元気でね」
「そうね。何とかなると思うよ。明るくてさ、みんなの事引っ張っていってた晴空の子だもん」
「あはっ、ありがとう」

 彼女とはすぐ別れたけれど、同じ町に住んでるからまたばったり会えるといいなと思う。返り道でもうっかり笑ったり涙が出た僕に、晴空はずっと不思議そうだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...