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アレク編
2.接近
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入るとそこは滞在1ヶ月の男の一人部屋とは思えないほど綺麗に掃除が行き届いた部屋だった。滞在期間中、宿舎は洗濯のみ請負い、掃除はしてくれない。だがあまりにも娯楽が無い様に思う。因みにシュートの部屋は着替えで溢れ返り、ボードゲームやトランプなどがいくつか積まれていた。
「あまりじろじろ見るなよ」
「すみません 興味があったもので」
「そうか?全部同じ部屋だろ?」
「隊長が何に興味あるのか気になって。あ お湯、冷えちゃうんでマッサージしちゃいますね。肩だけでいいですか?」
「あ、ああ肩だけで良い」
「肩だけ、はだけてもらって良いですか」
「わかった。本格的だな」
「簡単なことしかできませんが」
体が冷えないよう、直ぐに蒸しタオルで肩を温めた。
「熱く無いですか?」
「大丈夫だ」
しばらくタオルの上から柔らかく揉み解し、肩が温まったところでタオルを外してオイルを薄く伸ばした。
「これは香油か?」
「はい。この匂い、お嫌いですか?」
「いや なんだか落ち着く香りだな」
「それはよかったです」
「それにしてもアレク、どこで覚えたんだ?随分と上手いな」
「兄が2人居るんですけど、俺にめっちゃマッサージさせるんですよ。親父やお袋も事あるごとに俺にやらせるんで、慣れました」
「そうか。アレクは家族思いなんだな」
「隊長にもお兄さんいらっしゃるんじゃないですか?」
「兄が1人いる。そういえばアレクは騎士学校4年しか通ってないんだよな?」
「ハイ、そうですね」
「侯爵の出だもんな。お願いしといてなんだが。いいのか?男爵家次男の俺の肩なんか揉んでて」
「騎士に身分は関係ないですから」
「それは…建前だろう」
「まー 中にはそういうので威張るやつも居ますけどね?でも騎士になってる時点でほとんどが爵位継げない次男以下だから関係ないじゃないですか。ここでは階級の方が重視されるでしょ」
「それはそうだが」
「気にするだけ無駄ですよ。もしかして何かされた事あるんですか?」
「いや、大したことはない」
「なんかあったら言ってください。俺、力になれると思いますよ」
「なんだ、言ってることがさっきと矛盾してるぞ」
「俺の自慢できるところなんて出自くらいですしねぇ」
「ありがとう、もう良いぞ」
「肩、ほぐれましたか?」
「ああ、だいぶスッキリした。軽くなったよ」
「またいつでも言ってください」
「そうだな、また頼むよ」
ヨシュアの部屋を後にした俺は、足早に自室へ戻った。息子が反抗期です。いや、これは従順というべきなのか。
肩を揉む間、時折漏れる声がたまらなくそそった。吸い付くようなもっちりとした柔らかい肌、肉厚の胸板、歯を立てたくなる頸。出来るだけ、色を、熱を持たないように触れるのが精一杯だった。手に残った香油の香りがさっきまで触れていた滑らかな肌を思い起こす。もっと触れたい。声を、聞きたい。
自分の意思で抑えられなかったもう1人の俺が吐き出したいと懇願する。
俺は、狂ったように息子を慰めた。こんな事で明日から大丈夫か。
◆◆◆
配属されて2週間が経った頃、俺たちの部隊に初めて休みがもたらされた。
隊長から、休みに入る前の夜、俺の歓迎会をするからと隊のメンバーで飲みに出かけることとなった。
「新人隊員、アレクサンドリアの配属にかんぱーい!」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
「ありがとうございます」
「アレク、お前イイトコの出なのに、意外と記憶力悪いんだな」
「はははーすみません」
シュートに弄られればそれは本当なので笑うしかない。
「にしては偉く手先が器用だよな?ってか料理ができることがびっくりだよ」
「あーほんとそれな。何であんなに上手いの?家でやってたりした?」
イシスとシュートが詰め寄ってきた。
「いえ、やったことないです。家の厨房は入らせて貰えないですし。でも良くシェフを見てましたね」
「マジで!何でそれであんなに上手いんだよ!詐欺だ!」
「料理が上手いならそれに越したことねえじゃねぇか」
「いや そーなんすけど~」
話を聞いていたらしいガンツがなだめるも、シュートは納得行かないようだ。
出向部隊の昼飯は部隊の持ち回りで騎士自らが用意することとなっている。宿舎まで帰るには遠いことと、経費削減が主な理由だ。
仕事に関しては、取り立てて目立った所はなかった俺だが、(もの覚えが悪いのは悪目立ちだが)料理に関しては、一目置かれることとなった。一緒に作ったのはシュートとイシス(同部隊の隊員)の3人だ。大体4~50人分の昼飯を用意することになっているが、作るのは、パンと具の多いスープと一品(大体肉)だけだ。それでも午前中ずっと作り続けて間に合うかどうかと言ったところ。
この世で初めて握った包丁は、剣よりも手に馴染んで作業も捗ったのだ。昔取った杵柄…になるのかはわからないが、特に取り柄のない俺にとって料理が出来たのはありがたいことだった。
「今度は何か新しい料理考えますよ」
「作業が楽なやつにしてくれよー?」
「お!楽しみにしてるぞ。新入り!」
「アレクサンドリアだ」
「っ隊長」
ガンツが俺の名前を覚えていないことなど気にしていなかったが、隊長が一言刺した。
この部隊は隊長より年齢の高い騎士が3人在籍している。最年長のガンツとそれと近いディートリヒ、そしてイシスだ。イシスは隊長と年齢が近く、入隊の同期らしい。
騎士に身分は関係ないと言っても、実際のところ貴族以外で部隊長(少佐、大尉)にまでなれるものは滅多にいない。頑張って小隊長(少尉)がいいところだ。
ヨシュアは男爵家出身で貴族ではあるが、男爵家のものが部隊長になることも簡単ではない。それを考えると、今のこの年齢(24歳)で小隊長を任命されているヨシュアは生え抜きと言えた。
それと、あまり考えたくない大人の事情を踏まえると、俺がこの小隊に配属されたのは俺をスムーズに出世させるためだろう。隊長もそれに気づいているはずなので、邪険にされる可能性もあった。
一つ懸念とすれば、ディートリヒだ。いつからこの班に在籍しているのかは知らないが子爵家出身で小隊長になっていておかしくない年齢だが、今のところ一般兵のままらしい。階級は不明だ。いつも何を考えているかわからない寡黙な人だが、人当たりが異様にキツいことで有名らしい。
ガンツとイシスは平民の出で家庭もあるが、貴族出身のディートリヒに家庭がないのは、何某かの理由があるのだろう。
因みに俺のリサーチでは隊長もまだ独身で、婚約者や恋人も居ないということだった。
平時の業務内容と勤務態度を見るに、彼女を作るのは難しいだろうと予測できるが。縁談もないのだろうか?
「せめて自分の隊員の名前くらい覚えるようにしろ」
「すみません」
10以上年上の部下に諭す姿は何とも凛々しくてカッコいい。
「アレク、業務には慣れたか?」
「あーいや どうでしょう。俺、飲み込み悪くて」
「確かにあんなに手当たり次第失敗する奴は初めてみた」
「はははははは」
冷や汗をにじませながら乾いた笑いが出る。
幼少期からあれだけ英才教育を受けたにもかかわらず、無能で申し訳なくなる。俺のせいで隊長の評価が下がってしまったりしないだろうか。
「でもアレク、一度覚えたことは慣れたやつより早く作業できるのは誇っていいぞ」
「へ?」
「覚えるのは遅いが、覚えた後はすぐ慣れて、慣れた者より効率よく済ませてたじゃないか」
隊長は俺でさえ気づいてなかった俺の長所を見ていてくれた。その長所は微々たるもので、さほど誇れる内容とも思わなかったが、隊長が見ていてくれたという事実が何よりも嬉しかった。
「ありがとう、ございます」
「あまり焦らず、頑張れよ」
「っ はい!」
少し大きな声になってしまった。
「お? 何々? 隊長の説教か?」
少し離れたところでイシスと話し込んでいたシュートが揶揄いどころと思ったのか、こちらに顔を向けた。
「違うよ」
「違います」
「何だー 残念」
「何が残念だ」
酔っ払い同士の会話は中身なく流れる。皆酒も入って声が大きくなりつつあった。
ディートリヒは静かに一人で飲んでいたが、あれは声をかけてもいいものなんだろうか?
気になりはしたが、隊長の横を離れたくなくて、そのまま酒を煽った。はぁ、このままお持ち帰りしたいよ。
さんざんぱら飲んだ後、皆連れ立って宿舎へ戻った。シュートはあまり酒が強くないのか、ベロベロに酔っていたので俺とイシスで担いでい連れて帰ると、宿舎前でミルドが待ち構えていた。部屋に運んでくれるらしい。直ぐにシュートを渡す。
「げっ ミルろっ らいろーぶ ひとりで歩けっからっ」
「ハイハイ、そうですねー(棒)」
呂律の回らない状態になっていたが、ミルドに半ば引きずられるように自室に帰っていった。
ヨシュアは、いつものことだから、と薄く笑って
「おやすみ」
と、部屋へ戻っていった。
「お ギリギリ風呂入れそうだな。急ごう」
誰ともなしに独り言を言いながら浴場へ向かうと、そこにさっき別れたばかりのヨシュアがいた。
「アレクも風呂か」
「はい。今日汗掻いたんで。」
「アレクは結構イケる口なんだな?」
「酒すか?隊長もじゃないですか」
「んー まぁ 普通程度には飲めるが」
「今日は飲み足りない感じですか?」
「まぁ 飲めないこともない」
浴場に入ると他は誰も居ないようで、広々と使えた。
体を洗った後、湯船に浸かるとヨシュアも近くに入ってきた。手を伸ばせば触れられる距離。でも今近づくのはとても危険だ。
膝を立てて隠してはいるが、バレないかヒヤヒヤする。この絶好の機会に喜んだ俺の息子が万歳してるんです。
浴槽に浸かるとヨシュアは気持ち良さそうな吐息を吐き、首を回して肩を軽く揉んだ。
「肩凝りっすか?」
「ん?ああ、夕方少し堅苦しい会議があってな。どうも力が入ってたらしい」
「マッサージ、します?」
「いや 今日はアレクも疲れてるだろ。また今度頼むよ」
そうは言っても、初めてマッサージしてから一度も頼まれていない。あまり気持ちよく無かったんだろうか? おかしいな。昔旦那が好きだったポイントを押さえて絶妙な力加減でやったはずだ。ヨシュアの反応を思い出しても旦那と変わらなかったと記憶している。
因みに俺のマッサージテクに関しては前世の旦那に最大限のポテンシャルを発揮するだけであって他の人間には普通レベルだ。
「気軽に言ってください」
「ああ ありがとう」
柔和な笑顔を貰って嬉しくなる。
「酒入ってるからな、あんまり長湯するなよ」
「はい」
そう言って無造作に立ち上がったヨシュアの脚の間には、存在感のあるナニがぶら下がっていた。今世でもやっぱりでかいのか。湯船で暖まったとはいえ、勃起したわけでもないのにあのサイズ。相変わらずおかしいと思う。
しかし幸にして今世の俺の息子はなかなかに立派だ。少し個性的ではあるが、全体的に太くて長い。何、そんなこと知りたくない?男としては自慢しておきたいところなのだ。あーヨシュアの勃起したところも見たい。
湯船から出るヨシュアを見送ったあと、そんなことをボーッと考えていたら逆上せそうだったので、サッと水を浴びて風呂を出た。おかげで息子も大人しくなってくれたので、普通に着替えられそうだ。
俺が浴室から出ると、ズボンだけ履いたヨシュアがいた。タオルで頭をガシガシしながら歯磨きしていた。そういえば髭剃ってないな。朝剃る派だったっけ?
「隊長は明日何する予定なんですか?」
「んん?」
歯磨きが終わるのを見計らって声をかけた。
「明日はちょっと書類作業した後は…暇だな」
隊長は丸一日休みってわけに行かないんだな。
「じゃあ、どこか出掛けませんか?」
「休みの日にまで上官と一緒にいたいのか?」
「隊長と出かけたいだけです」
「んー、アレクはこの辺初めてなんだっけ?」
「はい、あんまりわからないです」
「じゃあ どっか行きたいとこ考えといてくれ、案内できそうなら案内してやる」
「ありがとうございます。明日作業終わったら昼飯取らずに待っててください。昼頃に声かけますんで」
「わかった。じゃあ おやすみ」
無事デートの約束を取り付けたところで、下着の中の息子がまた元気になった。明日は間違っても目の前でこんな姿は見せられない。今日のうちにしっかり宥めておこう。
「あまりじろじろ見るなよ」
「すみません 興味があったもので」
「そうか?全部同じ部屋だろ?」
「隊長が何に興味あるのか気になって。あ お湯、冷えちゃうんでマッサージしちゃいますね。肩だけでいいですか?」
「あ、ああ肩だけで良い」
「肩だけ、はだけてもらって良いですか」
「わかった。本格的だな」
「簡単なことしかできませんが」
体が冷えないよう、直ぐに蒸しタオルで肩を温めた。
「熱く無いですか?」
「大丈夫だ」
しばらくタオルの上から柔らかく揉み解し、肩が温まったところでタオルを外してオイルを薄く伸ばした。
「これは香油か?」
「はい。この匂い、お嫌いですか?」
「いや なんだか落ち着く香りだな」
「それはよかったです」
「それにしてもアレク、どこで覚えたんだ?随分と上手いな」
「兄が2人居るんですけど、俺にめっちゃマッサージさせるんですよ。親父やお袋も事あるごとに俺にやらせるんで、慣れました」
「そうか。アレクは家族思いなんだな」
「隊長にもお兄さんいらっしゃるんじゃないですか?」
「兄が1人いる。そういえばアレクは騎士学校4年しか通ってないんだよな?」
「ハイ、そうですね」
「侯爵の出だもんな。お願いしといてなんだが。いいのか?男爵家次男の俺の肩なんか揉んでて」
「騎士に身分は関係ないですから」
「それは…建前だろう」
「まー 中にはそういうので威張るやつも居ますけどね?でも騎士になってる時点でほとんどが爵位継げない次男以下だから関係ないじゃないですか。ここでは階級の方が重視されるでしょ」
「それはそうだが」
「気にするだけ無駄ですよ。もしかして何かされた事あるんですか?」
「いや、大したことはない」
「なんかあったら言ってください。俺、力になれると思いますよ」
「なんだ、言ってることがさっきと矛盾してるぞ」
「俺の自慢できるところなんて出自くらいですしねぇ」
「ありがとう、もう良いぞ」
「肩、ほぐれましたか?」
「ああ、だいぶスッキリした。軽くなったよ」
「またいつでも言ってください」
「そうだな、また頼むよ」
ヨシュアの部屋を後にした俺は、足早に自室へ戻った。息子が反抗期です。いや、これは従順というべきなのか。
肩を揉む間、時折漏れる声がたまらなくそそった。吸い付くようなもっちりとした柔らかい肌、肉厚の胸板、歯を立てたくなる頸。出来るだけ、色を、熱を持たないように触れるのが精一杯だった。手に残った香油の香りがさっきまで触れていた滑らかな肌を思い起こす。もっと触れたい。声を、聞きたい。
自分の意思で抑えられなかったもう1人の俺が吐き出したいと懇願する。
俺は、狂ったように息子を慰めた。こんな事で明日から大丈夫か。
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配属されて2週間が経った頃、俺たちの部隊に初めて休みがもたらされた。
隊長から、休みに入る前の夜、俺の歓迎会をするからと隊のメンバーで飲みに出かけることとなった。
「新人隊員、アレクサンドリアの配属にかんぱーい!」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
「ありがとうございます」
「アレク、お前イイトコの出なのに、意外と記憶力悪いんだな」
「はははーすみません」
シュートに弄られればそれは本当なので笑うしかない。
「にしては偉く手先が器用だよな?ってか料理ができることがびっくりだよ」
「あーほんとそれな。何であんなに上手いの?家でやってたりした?」
イシスとシュートが詰め寄ってきた。
「いえ、やったことないです。家の厨房は入らせて貰えないですし。でも良くシェフを見てましたね」
「マジで!何でそれであんなに上手いんだよ!詐欺だ!」
「料理が上手いならそれに越したことねえじゃねぇか」
「いや そーなんすけど~」
話を聞いていたらしいガンツがなだめるも、シュートは納得行かないようだ。
出向部隊の昼飯は部隊の持ち回りで騎士自らが用意することとなっている。宿舎まで帰るには遠いことと、経費削減が主な理由だ。
仕事に関しては、取り立てて目立った所はなかった俺だが、(もの覚えが悪いのは悪目立ちだが)料理に関しては、一目置かれることとなった。一緒に作ったのはシュートとイシス(同部隊の隊員)の3人だ。大体4~50人分の昼飯を用意することになっているが、作るのは、パンと具の多いスープと一品(大体肉)だけだ。それでも午前中ずっと作り続けて間に合うかどうかと言ったところ。
この世で初めて握った包丁は、剣よりも手に馴染んで作業も捗ったのだ。昔取った杵柄…になるのかはわからないが、特に取り柄のない俺にとって料理が出来たのはありがたいことだった。
「今度は何か新しい料理考えますよ」
「作業が楽なやつにしてくれよー?」
「お!楽しみにしてるぞ。新入り!」
「アレクサンドリアだ」
「っ隊長」
ガンツが俺の名前を覚えていないことなど気にしていなかったが、隊長が一言刺した。
この部隊は隊長より年齢の高い騎士が3人在籍している。最年長のガンツとそれと近いディートリヒ、そしてイシスだ。イシスは隊長と年齢が近く、入隊の同期らしい。
騎士に身分は関係ないと言っても、実際のところ貴族以外で部隊長(少佐、大尉)にまでなれるものは滅多にいない。頑張って小隊長(少尉)がいいところだ。
ヨシュアは男爵家出身で貴族ではあるが、男爵家のものが部隊長になることも簡単ではない。それを考えると、今のこの年齢(24歳)で小隊長を任命されているヨシュアは生え抜きと言えた。
それと、あまり考えたくない大人の事情を踏まえると、俺がこの小隊に配属されたのは俺をスムーズに出世させるためだろう。隊長もそれに気づいているはずなので、邪険にされる可能性もあった。
一つ懸念とすれば、ディートリヒだ。いつからこの班に在籍しているのかは知らないが子爵家出身で小隊長になっていておかしくない年齢だが、今のところ一般兵のままらしい。階級は不明だ。いつも何を考えているかわからない寡黙な人だが、人当たりが異様にキツいことで有名らしい。
ガンツとイシスは平民の出で家庭もあるが、貴族出身のディートリヒに家庭がないのは、何某かの理由があるのだろう。
因みに俺のリサーチでは隊長もまだ独身で、婚約者や恋人も居ないということだった。
平時の業務内容と勤務態度を見るに、彼女を作るのは難しいだろうと予測できるが。縁談もないのだろうか?
「せめて自分の隊員の名前くらい覚えるようにしろ」
「すみません」
10以上年上の部下に諭す姿は何とも凛々しくてカッコいい。
「アレク、業務には慣れたか?」
「あーいや どうでしょう。俺、飲み込み悪くて」
「確かにあんなに手当たり次第失敗する奴は初めてみた」
「はははははは」
冷や汗をにじませながら乾いた笑いが出る。
幼少期からあれだけ英才教育を受けたにもかかわらず、無能で申し訳なくなる。俺のせいで隊長の評価が下がってしまったりしないだろうか。
「でもアレク、一度覚えたことは慣れたやつより早く作業できるのは誇っていいぞ」
「へ?」
「覚えるのは遅いが、覚えた後はすぐ慣れて、慣れた者より効率よく済ませてたじゃないか」
隊長は俺でさえ気づいてなかった俺の長所を見ていてくれた。その長所は微々たるもので、さほど誇れる内容とも思わなかったが、隊長が見ていてくれたという事実が何よりも嬉しかった。
「ありがとう、ございます」
「あまり焦らず、頑張れよ」
「っ はい!」
少し大きな声になってしまった。
「お? 何々? 隊長の説教か?」
少し離れたところでイシスと話し込んでいたシュートが揶揄いどころと思ったのか、こちらに顔を向けた。
「違うよ」
「違います」
「何だー 残念」
「何が残念だ」
酔っ払い同士の会話は中身なく流れる。皆酒も入って声が大きくなりつつあった。
ディートリヒは静かに一人で飲んでいたが、あれは声をかけてもいいものなんだろうか?
気になりはしたが、隊長の横を離れたくなくて、そのまま酒を煽った。はぁ、このままお持ち帰りしたいよ。
さんざんぱら飲んだ後、皆連れ立って宿舎へ戻った。シュートはあまり酒が強くないのか、ベロベロに酔っていたので俺とイシスで担いでい連れて帰ると、宿舎前でミルドが待ち構えていた。部屋に運んでくれるらしい。直ぐにシュートを渡す。
「げっ ミルろっ らいろーぶ ひとりで歩けっからっ」
「ハイハイ、そうですねー(棒)」
呂律の回らない状態になっていたが、ミルドに半ば引きずられるように自室に帰っていった。
ヨシュアは、いつものことだから、と薄く笑って
「おやすみ」
と、部屋へ戻っていった。
「お ギリギリ風呂入れそうだな。急ごう」
誰ともなしに独り言を言いながら浴場へ向かうと、そこにさっき別れたばかりのヨシュアがいた。
「アレクも風呂か」
「はい。今日汗掻いたんで。」
「アレクは結構イケる口なんだな?」
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「ん?ああ、夕方少し堅苦しい会議があってな。どうも力が入ってたらしい」
「マッサージ、します?」
「いや 今日はアレクも疲れてるだろ。また今度頼むよ」
そうは言っても、初めてマッサージしてから一度も頼まれていない。あまり気持ちよく無かったんだろうか? おかしいな。昔旦那が好きだったポイントを押さえて絶妙な力加減でやったはずだ。ヨシュアの反応を思い出しても旦那と変わらなかったと記憶している。
因みに俺のマッサージテクに関しては前世の旦那に最大限のポテンシャルを発揮するだけであって他の人間には普通レベルだ。
「気軽に言ってください」
「ああ ありがとう」
柔和な笑顔を貰って嬉しくなる。
「酒入ってるからな、あんまり長湯するなよ」
「はい」
そう言って無造作に立ち上がったヨシュアの脚の間には、存在感のあるナニがぶら下がっていた。今世でもやっぱりでかいのか。湯船で暖まったとはいえ、勃起したわけでもないのにあのサイズ。相変わらずおかしいと思う。
しかし幸にして今世の俺の息子はなかなかに立派だ。少し個性的ではあるが、全体的に太くて長い。何、そんなこと知りたくない?男としては自慢しておきたいところなのだ。あーヨシュアの勃起したところも見たい。
湯船から出るヨシュアを見送ったあと、そんなことをボーッと考えていたら逆上せそうだったので、サッと水を浴びて風呂を出た。おかげで息子も大人しくなってくれたので、普通に着替えられそうだ。
俺が浴室から出ると、ズボンだけ履いたヨシュアがいた。タオルで頭をガシガシしながら歯磨きしていた。そういえば髭剃ってないな。朝剃る派だったっけ?
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「んん?」
歯磨きが終わるのを見計らって声をかけた。
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隊長は丸一日休みってわけに行かないんだな。
「じゃあ、どこか出掛けませんか?」
「休みの日にまで上官と一緒にいたいのか?」
「隊長と出かけたいだけです」
「んー、アレクはこの辺初めてなんだっけ?」
「はい、あんまりわからないです」
「じゃあ どっか行きたいとこ考えといてくれ、案内できそうなら案内してやる」
「ありがとうございます。明日作業終わったら昼飯取らずに待っててください。昼頃に声かけますんで」
「わかった。じゃあ おやすみ」
無事デートの約束を取り付けたところで、下着の中の息子がまた元気になった。明日は間違っても目の前でこんな姿は見せられない。今日のうちにしっかり宥めておこう。
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