生まれ変わっても一緒にいたい人

把ナコ

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アレク編

4.相談

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「アレク、マッサージ頼めるか?」
「はい!わかりました」

準備をして隊長の部屋へ向かう。

コンコンコンッ
「はい」
「アレクです。入ってもよろしいですか」
「ああ」

部屋に入ると、清潔感のある石鹸の匂いが漂ってきた。隊長も風呂上がりらしい。


「あー、気持ちいいな」
「イイですか?」
「ああ。今日は…」
「はい?」
「今日はすまなかったな。大変な仕事を押し付けて」
「いえ、こちらこそ。閣下のわがままとはいえ、任務を外れることになり申し訳ありませんでした」
「いや、言葉が悪かったな。今日は助かった。ありがとう」
「えっ」
「アレクのおかげで閣下の覚えも良くなった。それに視察もスムーズに進んだ」
「そうだったんですね」
「ところでな、昼に出たあの」
「はい」
「野菜に添えてあったクリームなんだが」
「あ、マヨネーズですか?」
「ああ。あれは貴族員の中では当たり前に出るものなのか?」
「んー?どうでしょうね?俺のオリジナルでは無いですけど、あまり見かけませんね」
「そうか。周りのものもあまり食べたことないようだったが、野菜嫌いのディートリヒがアレをつけて平らげていたからな。驚いたよ」
「へぇ、ディートリヒさんとお昼食べてたんですねー」
「それにあのクリーム、なんだが懐かしい味がしてな」
「懐かしい…?」
もしかしてヨシュアも前世のことを多少覚えているんだろうか?
「隊長はもしかして黒ビールよりエールやラガーの方が好きだったりします?」
「ん?突然だな。たしかに黒ビールよりラガーが好きだな。黒も好きなんだが、飲んでいると途中で重くなってくるんだ。それにビールは冬でも冷えている方がうまいと思わないか?」
この国では前世の日本のようにビールをキンキンに冷やして飲む文化はない。夏場、暑い時にエールを冷やして飲むくらいだ。
「俺もそう思います」


「ありがとう、楽になったよ。」
「またいつでも言ってください」
「礼と言うわけじゃないが、次の休み、映写に行かないか?」
「本当ですか!?行きます!」
「そう、か。前と同じで昼飯を食べてから観に行くか?」
「はい!お願いします!えっと、じゃあおやすみなさい!」

隊長からデートに誘われた!
いや、落ち着け、デートじゃないし。礼だって言ってたし。でも嬉しい!

俺はウキウキで眠りについた。

---

2人が重なるオフはなかなか訪れず、結局第二隊全員が休みの時までデートはお預けとなった。
例によって隊長はオフの日でも午前中に仕事があるようで、お昼頃に声をかけた。

「アレクか、すまないが少し待っててくれ。あ、入って待ってていいから」
「はい」
仕事に邪魔になるなら時間を置いて尋ねようかと思ったが、部屋に入れてくれるらしい。

「適当にかけててくれ」

俺に目線を飛ばす余裕もなく、書類を仕上げているようだった。
部屋の窓から外を見ると、ミルドとシュートが仲良さげに歩いていた。ミルドさんも休みなのか。
この隊に派遣されて数ヶ月、あの2人はどうやらそう言う関係らしいと風の噂に聞いた。シュートさんはいつもミルドさんを邪険に扱う。いつも甲斐甲斐しいミルドさんだけど、たまにシュートさんのわがままが過ぎると少し怖い笑顔になる。次の日は決まってシュートさんが大人しいから…そう言うことなんだろう。

今日は2人とも機嫌が良さそうだ。

仕事の邪魔をしないよう、静かに窓際に立っていたのだが、俺の影が隊長の手元を暗くしていた。慌てて動くと、隊長がそれに気づいたのか少しだけ首を動かしてまた作業に戻った。そしてしばらくすると少し悩んだ仕草を見せた。

「今度、第四隊と人員のトレードが入る。お前はどの人員を出したらいいと思う?」
「え?」
いきなり仕事の相談か!?
「あ、あーすまない。ディーだと思って。そうだった、いや、なんでもない忘れてくれ」

ちょっと待て。「ディーだと思って」だって?
どう言うことだ?ディーって、ディートリヒさんのことか?
さっき俺の名前を呼んで迎え入れてくれたはずなのに。
隊長とディートリヒさんは、いったいどう言う関係なんだ。

確かに俺なんかより同じ隊の歴は長いだろうけど、なんだろうこのムカムカとする気持ちは。それにディートリヒさんをディー、と愛称で呼んでた。皆の前ではディートリヒと呼んでたはずだ。俺やシュートさんみたいに長い名前で呼びづらい人は良く愛称で呼ばれるが、ディートリヒさんはあまり愛称で呼ばれているところを見たことがない。それに呼ばれたとしてもディルやディリだ。それをディー、とだけ呼ぶのは…まるで恋人みたいじゃないか。

「よし、終わった。待たせたな。メシ食いに行くか」
「はい…」

聞けるわけもなく、俺は隊長と昼飯を食いに出た。今朝はあんなにウキウキだったのに。

いや、せっかくのデートだ。楽しまなくては損だ。
嫌な気持ちを押し込んで、俺は目の前の時間を楽しむことにした。

「なんだ?いきなり元気になったな」
「今日を楽しみたいっすから」
大きく切ったソーセージを口に頬張りながら笑顔で返した。
「…、そうか」


映写はサイレントだ。前世の記憶にある映画と比べたら心浮かれる内容ではないが、隣に隊長がいる、と言うだけでこの時間が愛おしい。本当は手を繋ぎたいが、男同士ではそんな雰囲気にもならない。

映写は、美しい未亡人と亡くなった旦那の親友との恋愛話だった。
愛しているのに最後までなびかない紳士に業を煮やした女性が、紳士をなじってそれに怒るように紳士も女性への愛を打ち明ける、前世では何度も使われたシチュエーションだ。男女でも愛を分かち合うのはこんなに難しいのに、男同士ではどれだけ大変なのだろうか。

「おもしろかったな」
「そうですね。あ、中枢の方ではトーキーも始まってるそうですよ。遠征終わったら、あっちでも観ません?」
「そうだな、そうしようか」

部隊の遠征は予定通りならあと数週間で終了する。この遠征が終われば、中枢へ戻って訓練と日常警備の仕事に戻る。

「少し早いがエールでも飲みに行くか。話したいことがあるんだ」
「えっ、はい。」

いきなりそう言われて、緊張を携えて店について行った。
話したいこと?何だろうか。仕事のお小言かな。


「そう、緊張するな」
「え、あ。はい」
「話と言っても、相談のようなものだ」
「俺に相談、ですか?」
「俺にはあまり縁のない話だったからな。お前に聞いてみようと思って」
「何でしょう」
「アレクは縁談を持ちかけられたことは?」
「え?縁談ですか?」
「ああ」
「んーーーーありますけど、親が大体断っちゃってますね。三男の俺に女を差し出す家なんて大概は爵位の低い家が利権を求めてですから。なんだが美人な人に懐かれたなーと思ってたら、大体そう言うことでした。」

「そうか、爵位が高いとそう言うことがあるんだな。でも、美人に懐かれた、か。その気があるとは思わなかったのか?」

「うーん、どうでしょう。女の子が好きな人に夢中になる時と、俺と仲良くなろうと「努力」する姿は少し違う気がして。」
これは多分俺が前世女だったからだろう。裏のある女のあざとさはどうしても目についてしまう。逆に本当に好きなんだろうな、というのもわかってしまう。そういう子は少々ウザかったりおかしな行動をとっていても、皆一様に一生懸命なので、どうしても邪険に出来なかった。好きにはなってあげられなかったが。

「モテる男は言うことが違うな」
「モテたのは家柄ですけど。で?隊長に縁談でも来たんですか?」
「…ああ、実は。そう、なんだが」
「乗り気じゃ無いんですか?」
「条件が良過ぎるんだ」
「どんな条件なんです?」
「お前からすれば大したことじゃ無いかもしれないが」
「そういうのは良いですから」
嫌味のように聞こえるが、これは隊長なりのジョークだ。

「話をもらった相手の家には男の後継がいない。だが俺は婿に入る必要がない。爵位は俺の子供が引き継ぐことにはなるが、引き継ぐまでは義父か俺がその代理となるので、義父が引退すれば実質俺が利権をもらうことになる。そして息子が爵位を継いだ後は俺が一代限りの爵位を貰うことになっている。状態としてはややこしいが婿に入らず爵位を貰えるようなものだ。それも土地付きの伯爵だ」
「一気に伯爵ですか」
「だが俺をそんなに優遇したところでどんな利点があるのか分からなくてな。それに、何を理由に伯爵を徐爵されるのか。それで困っている」
「何か利点がなければあり得ないと?」
「それはそうだろう。男爵家次男の冴えない男だぞ?それに縁談を断られるような男だ」
「断られたことがあるんですね?」
「笑うなよ。親同士が決めた相手だったんだがな、何故か突然向こうから断ってきた。っそんなことは今はいいんだ。それよりだ」
「相手はどんな人なんですか?会ったことは?」
「モーダート伯爵家の一人娘でロアーヌと言う」
「クレメンスさんとこのお嬢ですか」
「会ったことがあるのか?」
「ええ、学生時代。綺麗な女性ですね。それに聡明だ。確かに隊長にはお似合いかもしれませんね」
「俺は頭のいい女は苦手なんだが」
「そうなんですか?意外ですね」
前世もそうだったから、知ってるけど。
「バカが良いとまでは言わないが、頭のいい女はどうにもな。性欲が湧かん」
「はははっなるほど。確かに。いくら美人でも理詰めで来られたら萎えそうですもんね」
「女はちょっと抜けてるくらいが可愛げがあっていい」
「でもそれだけいい条件で相手も美人となると、断るのは難しそうですね」
「そうなんだ。相手が俺を嫌いになってくれればそれに越したことは無いんだが」
「全然乗り気じゃ無いんすね?」
「なんだか裏があるようで、な」
「少し聞いてみましょうか?」
「聞いてみるとは?」
「その縁談が来た経緯です」
「そんなことがわかるのか?」
「いや、聞いてみないとわかりませんが、気になるんですよね?」
「気にはなるが…さすがにそれをお前に頼むわけにもいかんだろ」
「なんだ、俺の人脈をアテに相談したんじゃ無かったんですか?」
「そんなことは頼まんさ。それにそんなことを頼んだらお前からどう思われるか怖くて聞けたもんじゃない」
「うちの爵位をつかって出来ることが有れば相談してくださいって、前言ったじゃないですか。」
「それは、言葉のアヤだろう」
「じゃあ俺が勝手に調べる分には良いんですよね?」
「それは俺が言える範囲じゃない」
「結果を伝えないかもしれませんよ?」
「かまわん」
「素直じゃないなぁ」


その後は縁談の話もうやむやに、映写の話や、俺が作った食事の話などをした。
縁談の話も気になりはしたが、それ以上にディートリヒさんと隊長の関係が気になっていた。
しかしそれは、聞こうにも聞く勇気を持てないまま時間は経っていた。

---

宿に戻ると俺は早速兄貴に手紙を書いた。
長男は自分の地位にしか興味がないが真ん中の兄貴はゴシップ好きで情報通だ。その割に口が硬い。内緒だと言えば絶対に漏らさない信頼があるので、情報も集まりやすい。


手紙を送って1週間ほどして、宿舎に客が訪れた。


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