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エピローグ
おまけ_1(エロ描写を含みます)
しおりを挟む「おーい、書類できたから確認してくれ」
「うーぃ、ちょっと待って、後で見る」
「お前、後でって言ったらいつも忘れるだろ」
「そんなこと言われても今手が離せないんだって」
慌てて手を洗ってヨシュアのいる書籍へ向かった。
「なんだお前、その格好」
「アッシュを洗ってる最中だったんだ。文句言うな。それより書類は?」
「これだ。それにしても…ははっその格好、くくっ」
髪はちょんまげ、短パンにエプロン姿で泡だらけ。どうぞ存分に笑ってくださいよ。
「ほい、コレで間違い無いよ。あ、でも来年からこの項目消えるから気をつけて。っておい、いつまで笑ってるんだ」
「いや、確認助かった。とりあえずお前もシャワー浴びてこい。ひどいぞ?」
「だったらこんな時に呼び出すなよもー」
俺は不貞腐れて書斎を後にした。
後ろから「アッシュもちゃんと洗ってやるんだぞー」と声が飛んできた。
邪魔したの誰だよ。
アッシュはヨシュアの三男を騎士訓練学校へ送り出した後、飼い始めた犬だ。
サフィーナの家で飼っている犬に子供が生まれ、1匹引き取ることになったのだ。俺としては猫の方が良いんだが、この国は田舎で猫をペット化する家はあまりない。
ヨシュアのほうが犬好きなのに、世話をするのがほぼ俺なので、アッシュは特に俺に懐いている。俺の言うことは素直に聞くアッシュに、たまに悔しそうな顔をしているが、犬は世話をしてくれる人を良くわかってるんだ。
俺は執事とは名ばかりのヨシュアの使用人兼同居人兼恋人と言ったところだ。恋人なのは通いの使用人達にバレている。
一応執事の仕事もしているが、細かい金の計算…と言うかやりくりはヨシュアの方が得意で、俺達の仕事内容は領主と家令が逆転している。対外的には俺が家令をしている事にはなってるんだが、ほら、人間得手不得手というものがあるだろう?
二人で仕事を始めて、3ヵ月程で互いにやり難さを感じ、ヨシュアの提案で仕事の内容を交換した。それからはストレスなく仕事を進められるようになった。お互いに両方の仕事をしたこともあって、それも良い影響を与えた。
家の掃除は俺が得意ではないので通いの使用人に頼んでいるが、食事は殆ど俺が用意している。
朝の弱い俺のために使用人が朝ごはんの下準備だけしてくれる。
領地の一部に畑も借りているが全ての管理は出来ないので、領民がほとんど世話をしてくれている。俺は収穫が主な仕事だ。良い仕事だろ?
報酬を渡すと税収や土地の収入計算など色々とややこしいのでその分、苗や種などは余分に買って分けたり収穫分をおすそ分けしたりしている。
うちで食べる量は2人分で、たかが知れている。
ヨシュアが受け持った領地では農作と養豚、養羊、そしてビールの製造を中心に発展している。ビールの麦も領地内で作っている。農作は麦やジャガイモなどが多いがテンサイも栽培している。国の中でも気候の涼しいこの地域ではテンサイの糖度が上がりやすく、砂糖の価値がまだ高いこの世界では畑の金と言えた。その内価値が落ち着くことを見越して、今はこの国であまり栽培されてない大豆や小豆を育てようと畑の準備をしているところだ。
ヨシュアが赴任した当初、その日暮らしも精一杯だった領民も、現在は高くない税で働いてもらっているので今のところ不正を働くものは殆ど出ていない。まだ3年ほどしか経ってないが、概ね順調だ。
あと2年で増税する予定なのでその時のトラブルを抑えるために今は利益増優先で働いてもらっている。事前に説明はしているが、ある程度の抵抗は避けられないだろうと予想している。だが、増税するのも領民のためだ。まだこの街はインフラがあまり整っていない。
王都では自動車が走り始めたと聞く。今後の発展のためにも必要だった。
アッシュを綺麗にした俺は、畑に向かって仕事という名の収穫をした。おいしそうな野菜が今日もたくさん出来ている。
ヨシュアが好きなほうれん草をたくさん収穫して帰ろう。
---
「ヨシー、今日何食べたい?」
「豚丼」
「豚丼?牛丼みたいなやつか?」
「じゃなくて、ほうれん草と揚げた豚の入ってるやつ」
俺が抱えているほうれん草を見て思いついたのか。
「?」
それは、前世で旦那が好きだった丼だ。
ほうれん草か青梗菜を使った揚げ豚の中華餡丼。
この世界で作ったことは無いはずだが。
そもそもこの国では少々作り辛いのだ。
この国で米は手に入りやすいとは言わないが、手に入らないこともない。頼めば買えるくらいには流通している。水の豊富な隣国での栽培が盛んだ。
日本米とは違って細長くパエリア向きな米だ。
たまに食べるのでこの屋敷にも常備している。
しかしあの丼にいつも使っているオイスターソースは無い。ハマグリの出汁ならある。それで代用するか。
伯爵様が食べるにはB級グルメな気がするが、今更だし、ヨシュアが食べたいと言うなら仕方ない。
醤油は馴染みがある日の国のものではなく漢の国から輸入出来る。コレもあまり安くはないがこの国でもお金を出せば手に入るようになっていた。
ほうれん草を軽く下茹でして、一口大に切っておく。
豚肉に下味をつけてジャガイモ澱粉を振って唐揚げにする。
鶏ガラスープを煮立ててそこにハマグリの出汁も入れて煮詰める。八角茴香の実をひとかけ入れて更に煮詰める。水分が1/3まで減り香りが行き渡ったところで八角を取り出す。油を引いたフライパンにスライスした玉ねぎを入れて軽く炒め、濃縮させたスープを加えて一煮立ちさせる。醤油と塩で味を整え、隠し味程度にあんずジャムを加える。ジャムが溶けたところでほうれん草を入れる。ひと回しして温度が落ち着いたら水で溶いたジャガイモ澱粉を入れる。ゆっくり混ぜて澱粉に火を通し、とろみがついたら最後に揚げておいた豚を入れて絡め、ご飯の上に乗せて完成だ。
付け合わせは畑で取れた那須のオランダ煮、トマトとベーコンのスープ。和洋折衷とはこのことだ。
何?和でも洋でもない?…!言われてみれば。
「おーい、飯出来たぞー」
声をかけてからダイニングルームへ持って行くと既にテーブルに座って待っていた。
「なんだ、もう来てたのか」
「腹減った」
「はい、どうぞ」
「いただきます」
美味しそうに頬張るヨシュアを見て、嬉しくなった。
「どうだ?」
「ふまいっ(美味い)」
「ふふ、そうか」
いつものように、おいしそうに料理を平らげる。その顔を見つめるのは楽しい。
自由を手に入れた俺達は、毎日年甲斐もなく子供のようにはしゃいでいた。騎士・軍人時代も懐かしく遠い思い出のようだ。
どちらも何も言わないが、おそらくお互い前世の記憶がある。ヨシュアにどれほど記憶が戻っているのかは不明だが、俺は既に忘れていることのほうが多い。ヨシュアも最近は隠すことなく先のように言葉にするようになった。
---
俺達はいつも同じベッドで寝る。
身体を重ねることもあるが、年齢もあって今はそこまで激しい衝動は無い…はずだ。
一緒に過ごし始めた頃は三男のエックハルトがいた事と、とにかく仕事が忙し過ぎて同じ家にいるのに顔を合わせる時間さえなかった。それでも寝る間だけでも傍にいたい気持ちが強くあって、同じベッドで寝ることが習慣づいた。
仕事の目処が立った頃にはそう言った衝動は落ち着いた後だった。
とはいえ、無いわけではない。
話は戻るが、ヨシュアはエックハルトに俺との関係を事実通り説明していた。どう説明したのかは聞いていないが、俺の顔を見て
「アレクおじさん、父さんの彼氏になるとか、趣味悪くね?」
と言われた時は、とても反応に困った。
気になる年頃だったこともあるのだろう、ヨシュアがいない時は良くその話を聞いてきていた。
エックハルトは女の子の尻を追いかけるのが日常で、誘うにはどうすればいいかなど、恋の話を俺に聞くことが多かった。この手のことは親であるヨシュアには聞きづらいだろう。それにエックハルトは母の温もりを知らない。それもあってか幼少期から年上の女性が好きでメイド達に大人顔負けの誘い文句を言っていたそうだ。
ここへ来た頃は街へ行って年上の女の子を見つけてはデートに誘っていたが、成人する年に王都で開かれたパーティーに参加してから、貴族の女性と結婚したいと言い出して、騎士の道を選んだ。
動機は不純だが、ヨシュアに似て物事に動じないメンタルと地頭の良さがあるので良いところまで上がれると思う。少々ナンパなところがたまにキズだが、ヨシュアよりも世渡り上手になれるかもしれない。
だが、俺が元大佐だった事を知らなかったのか理解していなかったのか、ずっとヨシュアの部下だと思っていたらしい。まだ子供ではあったが大佐就任祝いのパーティーにも参加してたはずなんだがな。
ヨシュアと話をする時、互いに敬語を使わなかった為に俺の階級を勘違いしていたのかもしれない。
組み手の訓練や剣の使い方をヨシュアの代わりに教えていたら、
「なんで父さんより強いんだよ!」
と、何度もキレていた。
その言葉をたまたま訓練を見に来たヨシュアが耳にした時に
「アレクは元大佐だ。史上最年少で上り詰めた男だぞ。それに剣の腕は俺より強い。俺の脚がこうなる前から勝てた事はないよ」
と言ったのを聞いて、顎が外れそうな顔で驚いていた。
この少年の中で、いったい俺はどんなイメージだったのだろうか。
体術は苦手だったが、器用さが勝ったのか剣はなかなかの物だと自負している。逆に組み手ではヨシュアに勝てたことがない。俺より小さくて不利な筈なのにいつもヨシュアに転がされる。ハンデを負っている今なら勝てるが(多分)、本部にいた時の訓練では何度も転がされた。
このことがあってからエックハルトは恋の相談よりも軍での仕事や退役した理由や何故少佐だったヨシュアの部下になっているのかを根掘り葉掘り聞かれるようになった事は言うまでもない。
---
エックハルトも巣立った今、屋敷の住人は俺達二人と一匹だけになった。
寝支度を済ませ、寝室へ行くと既に寝入り端でうつ伏せになっているヨシュアがいた。
起こさないよう後ろから優しく抱きしめたが、目を覚まして唇を重ねてきた。
いつもならそのまま離して「おやすみ」と言って灯りを消すところだが。
どちらからともなく、口づけは深くなった。
舌を絡めて、ヨシュアの甘い唾液を味わう。
何度重ねても飽きない口づけだった。
今はもうヨシュアの味を唾液以外も全て知っている。
互いに腰を擦り付け、硬くなったそれらを確かめるように撫でた。
唇が離れると、ヨシュアが目を合わせずに告げてくる。
「たまには、最後までするか?」
「いいのか?」
俺が見つめても視線は返さずにうなづく。
どうやら知らぬ間に準備をしてくれたらしい。
最後までしたのはこの一年でも数えるほどだ。
受け入れる側に負担が大きいのと、前世の記憶のせいで抵抗があるのかもしれない。
俺はそんなヨシュアからの誘いに乗り、優しく傷つけないように、時間をかけて抱いた。俺の下で可愛く啼くヨシュアはなによりも愛おしく、情欲を誘った。
エックハルトにはそんなおっさんのどこに可愛さ要素があるんだと、いつもの軽い口調で言われそうだが俺にとってはとても可愛い存在なのだ。
愛しいヨシュアを手に入れて、俺は生まれ変わって良かったと改めて思った。
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