上 下
2 / 206

ー第二話ー デメリット

しおりを挟む
「おい、ジャスミン。『起きろ』」
「……ん。あ、おはよう……。……あれ? なんでこんなところで寝てたんだっけ?」

 あ、やばい、言い訳考えてなかった。

「『改変』」
「……確か、洞窟に入ろうとしたときに転んで、そのまま頭を……。……あんたが運んでくれたの?」
「ま、まあ、そうだな」
「ありがとう」

 ……罪悪感がすごい。

「なあ、大事を取って、今日は帰らないか?」
「えー……。……うーん、それもそうね。それじゃあ、帰りに居酒屋にでもよりましょう」

 よっしゃっ!!

「了解。いつものところだな」
「ええ。それじゃあ、またあとでね」

 そう言って、ジャスミンは走って帰っていった。

「はぁー、疲れた」

 俺も早く帰って、ひと眠りするか。
 今日は、能力を使いまくったしな。



 俺の能力は、非常に便利なものではある
 しかし、一つだけデメリットがあるのだ。
 それは……。

「おい、リアトリス。私との約束を破るとはどういうことだ。しかもその理由が、寝坊だと?」
「はい、申し訳ありません」

 そう、デメリットというのは、燃費が悪いせいか、睡眠時間が非常に多くなってしまうことだ。
 そのデメリットの影響で、昨日は一日中眠ってしまい、居酒屋に行くことができなかった。

「いや、最初はさ、少し昼寝をしようと思っただけだったんだよ。それがいつの間にか、がっつり寝てしまったんだよ」
「……私、二時間ぐらい待ってたんだけど」
「申し訳ありません」

 深く、深く土下座した。
 そこで俺は、あることに気がついてしまった。

「……なあ、少しいいか?」
「何?」

「お前、パンツ見えてるぞ」

 赤面したジャスミンからの本気の蹴りにより、俺は失神した。
 ……いや、別に俺悪くなくね?



「なあ、ジャスミン。俺が悪かったからさ。無視はしないでくれよ」
「……」

 なんだかんだで仲の良いこいつから無視されるというのは、なかなかに応える。

「ほら、この通りだ。何でもするからさ、許してくれよ」

 するとジャスミンは、くるりとこちらを向き、

「今、何でもするって言ったわよね?」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。



「なあ、こんなことして、何が楽しいんだ?」
「いいから、早く座りなさい」

 俺は今、とある場所まで連れてこられていた。

「それでは、ステータス診断を始めます」

 ステータス診断所。
 体力、知力、筋力など、様々な要素の測定を行え、冒険者カードというものを作成することのできる場所だ。
 そして、能力を所有しているものは、ここでどのような能力なのかを調べることもできる。

 そう、そこが問題なのだ。

 俺は面倒ごとが本当に嫌いなので、今まで能力を隠し、最弱冒険者として生きてきたのだ。
 しかし、ここで調べられてしまえば、今までの努力も水の泡となってしまう。
 それを避けるためにも、今までここには来ていなかったんだよな。

「あんた、いつまでたっても冒険者カードを作ろうとしないじゃない。それにほら、もしも能力があれば、あんたも最弱の座から脱却できるのよ!」

 別に望んでいないからいいんだが。

「それでは、この水晶玉に手をかざしてください」

 まあ、ジャスミンに何でもするといったのだ。
 それを守らなくてどうする?
 覚悟を決めた俺は、思い切って水晶まで手を伸ばし……。

「『破壊』」

 伸ばしたと同時に、水晶玉が砕け散った。
 まあ、能力を使っただけだが。
 でも、これでステータスを見られることはない。
 そして、ついでに……!!

「『改変』」

 これで水晶玉は、“不慮の事故”によって割れたことになった。

「ああ! 申し訳ございません」
「いえ、また今度計りに来ますので。ほら、ジャスミン。早く出るぞ」

 なぜか不満の表情を浮かべているジャスミンを連れ、俺たちは診断所を出た。

「あーあ、なんでこういう時に限って、水晶が壊れるのかしら」
「それだけ、俺の運勢が強いということだ」
「なんでそんな頑なに、ステータスを計ろうとしないの?」
「だってよー、俺がステータスなんて計ったりしたら、とんでもなく低い数値が出て、また他の冒険者にからかわれるだろ」

「それは、あんたが鍛えようとしないからでしょ」
「そんな面倒なことは嫌いなんだよ」

「あ、あんたってやつは……」
「俺は眠いから帰るわ。それじゃ、またな」
「寝坊するくらいまで寝てたくせに、まだ寝れるの!?」

 ま、能力を使ったからな。
 さてと。今日は一日中寝ていようかな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,059pt お気に入り:101

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,790pt お気に入り:466

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:119,046pt お気に入り:4,075

処理中です...