上 下
3 / 206

ー第三話ー 魔王軍襲来

しおりを挟む
 今日も今日とて、惰眠をむさぼる。
 これこそが、至福の時間というものだろう。
 だが、俺は知っている。

 こういう時に限って、邪魔が入るということを。

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 冒険者の方々は、至急城門に集合してください!』

 ……ほらな。



「ジャスミン、何があったんだ?」

 大急ぎで来たものだから、未だに状況をつかめていない。

「魔王軍が攻めてきたのよ」
「は?」
「それも、幹部が」

 うん、この町はもう終わったな。

「そういうことだ。悪いことは言わないから、君は今すぐに帰りなさい」

 ……こいつまでいたのか。
 この嫌味な声、聞き違えるはずがない。

「なんだ、ルーズ」
「ローズだ! いい加減、名前を覚えろ!」

 普段俺を馬鹿にしてくることへの細やかなお返しだ、バーカ!!

「……あなた、リアトリスに喧嘩を売るってことは、パーティーメンバーである私にも喧嘩を売ってるととらえてもいいのね?」
「そ、そんなつもりじゃ……」

 プッ、ざまあみろ。
 天罰が下ったんだよ、バーカ

 ……っと、そんな場合じゃないな。
 何か、強いものが近づいてきている。

「貴様らが、この町の冒険者か」

 その声に、先ほどまで騒がしかった冒険者たちも、一気に静まり返った。
 奴の声からは、並々ならぬ気迫を感じる。
 これは、本格的にまずそうだな。

「我が名はシリウス。魔王軍幹部にして、ノーライフキングの異名を持つものだ!!」

 黒いフード付きのマントを羽織り、手には悪趣味な装飾の施された杖という、いかにもな格好。
 そしてその声には、先ほどとは比較にならないほどの力がこもっている。

 流石はノーライフキングとやら、といったところか。
 これは、俺も能力を使わなくちゃいけないな。

「さあ、者どもよ、かかってこい!! そして、俺を楽しませろ!!」
「残念だが、それは不可能だ」

 まったく、面倒くさい。

「『気絶』」

 その一言で、俺とシリウス以外の奴らは倒れた。

「……貴様、何者だ!?」
「俺はリアトリス。人呼んで、最弱の冒険者だ」
「何を言っている! 貴様ほどの力の持ち主が、最弱だと!?」
「それと、貴様がここに来たという事実は消させてもらうぜ。『帰れ』」

 ……ふぅ、仕事終わり。

 今頃奴は、自分の拠点に突然戻され、さぞかし驚いていることだろう。
 ……しかしまあ、魔王軍幹部ともなれば、相当力を使わなくてはならないな。
 だが、もう少し使わなければいけない。

「『改変』そして『帰れ』」

 これで、そこらへんに倒れていた冒険者たちを家に帰すことができたな。
 この街の住人の記憶もいじり、魔王軍幹部が来た痕跡も完全に消した。

 ……くっ、町一帯はさすがにきついな。
 でもこれで、何事もなく今日が始まる。
 シリウスとやらが来たのが早朝で助かった。
 さてと、今日は眠るか。


◆◆◆


 ――あれ?

 私、何してたんだっけ?
 えっと、魔王軍の幹部が攻めてきて、それで……。

 そうだ、リア!
 彼が何かを話していた。
 あれ、何を言ってたんだっけ?
 そもそも、どうして私は部屋に……。
 事の核心をついた瞬間、あの時のことが思い出された。

 ……そうだ、リア!!
 リアがあの魔王軍幹部に何かを話した直後に、あいつは消えた。
 つまりは、リアが何かをした?
 あれだけ弱い彼が?

 ……何か、秘密があるのだろうか……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:101

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,563pt お気に入り:466

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:118,876pt お気に入り:4,070

処理中です...