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ー第九話ー 修行(前編)
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全身の毛が逆立ち、冷や汗が垂れる。
……なんとか避けることができた。
頬を滴る血を拭い、改めて戦慄する。
決して、油断していたわけでもない。
にもかかわらず、俺に傷をつけた。
驚嘆と恐怖とが混ざった視線で、攻撃が撃ち出されたほうへと向き直る。
そこには、力を出し切って眠っているジャスミンがいた。
◆◆◆
リアに突然連れてこられたダンジョン。
そこは、これといった特徴もなく、いかにも洞窟系ダンジョンの最奥の部屋にありそうなものだな、という感想を心の中で漏らした。
「今から俺と、軽い手合わせをしよう」
「手合わせ?」
突然の提案に、私は思わず首をかしげた。
これが、リアの修行ということだろうか。
……確かに、実戦形式は有用だと思うけど……。
「そうだ。本気でかかってこい。じゃないと、修行にならないからな」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「大丈夫、多少の手加減はするさ。ということで……」
リアの口が少し動いたのが見えた瞬間、リアの姿が消えた。
背後からの殺気に、体が反応する。
咄嗟に引き抜いた剣で、リアの拳を受け止めた。
「うん、いい反応だ。その調子で、頑張って反撃してみな!」
右からも左からも拳が飛んでくる。
それらすべてを、ギリギリでいなす。
その作業が二十秒程度続いた。
しかし。
「……準備運動はこれくらいかな」
鳩尾のすぐそばで拳が寸止めされる。
……今の威力、本来ならば気絶させられていただろう。
ゾッとするような風圧を感じながら、私はそう考え、冷や汗を流した。
「さて、次からは本気でやるからな。絶対に気を抜くなよ」
さっき以上の速度で拳が飛んでくる。
いなすことなんて、できなかった。
受け止めた剣から強い衝撃が伝わる。
「くっ……!」
腕がしびれて動かせない。
「ほらほら、“サンビル最強”はこんなものか?」
再び飛んできた拳を寸前で避ける。
頬に感じる風圧から、どれだけ速度が出ているのかがわかる。
だが、ゆっくりと考える時間はない。
一瞬の間もなく、拳が撃ち出される。
む、無理だ……。
これはさすがに避けられ──!!
◆
「『起きろ』」
「うーん……。あ、リア……」
「よかった、これは効くようだな」
「あ! 手合わせは!?」
「お前が気絶したからやめたよ。傷は大丈夫か?」
「フフッ、私を誰だと思ってるの? 『ヒール』」
ジャスミンの体が、淡い光に包まれる。
そういえば、一応聖職者だったな。
「よし、もう一度やりましょう!」
「正気か、お前?」
「当り前じゃない。何言ってんの?」
うん、正気じゃねえや。
「もっと強くなれるまで、私はやめないわよ」
「ハァ。ま、乗りかかった船だ。気が済むまで付き合うよ」
「ありがと、リア」
◆◆◆
「なあ、そろそろやめないか? もうすぐ日が暮れるぞ」
「そ、そうね。今日はもう帰りましょうか」
あれからも幾度となく挑んで来たジャスミンだが、少しづつ回避がうまくなってきていた。
そのたびに速度を上げてきていたのだが、それに順応するまでの時間も短くなっていた。
あれ、ちょっと待てよ?
「お前、今日は、って言ったか?」
「あら、言ってなかったかしら。明日も、明後日も、私が納得するまで付き合ってもらうわよ」
ま、マジか。
「ほら、早く帰りましょう。今日は、私が奢ってあげるわよ」
「『移動』。ほら、ここからなら五分で居酒屋だぜ」
「……あ、あんたねえ……」
しまった、奢りに反応してしまった!
……なんとか避けることができた。
頬を滴る血を拭い、改めて戦慄する。
決して、油断していたわけでもない。
にもかかわらず、俺に傷をつけた。
驚嘆と恐怖とが混ざった視線で、攻撃が撃ち出されたほうへと向き直る。
そこには、力を出し切って眠っているジャスミンがいた。
◆◆◆
リアに突然連れてこられたダンジョン。
そこは、これといった特徴もなく、いかにも洞窟系ダンジョンの最奥の部屋にありそうなものだな、という感想を心の中で漏らした。
「今から俺と、軽い手合わせをしよう」
「手合わせ?」
突然の提案に、私は思わず首をかしげた。
これが、リアの修行ということだろうか。
……確かに、実戦形式は有用だと思うけど……。
「そうだ。本気でかかってこい。じゃないと、修行にならないからな」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「大丈夫、多少の手加減はするさ。ということで……」
リアの口が少し動いたのが見えた瞬間、リアの姿が消えた。
背後からの殺気に、体が反応する。
咄嗟に引き抜いた剣で、リアの拳を受け止めた。
「うん、いい反応だ。その調子で、頑張って反撃してみな!」
右からも左からも拳が飛んでくる。
それらすべてを、ギリギリでいなす。
その作業が二十秒程度続いた。
しかし。
「……準備運動はこれくらいかな」
鳩尾のすぐそばで拳が寸止めされる。
……今の威力、本来ならば気絶させられていただろう。
ゾッとするような風圧を感じながら、私はそう考え、冷や汗を流した。
「さて、次からは本気でやるからな。絶対に気を抜くなよ」
さっき以上の速度で拳が飛んでくる。
いなすことなんて、できなかった。
受け止めた剣から強い衝撃が伝わる。
「くっ……!」
腕がしびれて動かせない。
「ほらほら、“サンビル最強”はこんなものか?」
再び飛んできた拳を寸前で避ける。
頬に感じる風圧から、どれだけ速度が出ているのかがわかる。
だが、ゆっくりと考える時間はない。
一瞬の間もなく、拳が撃ち出される。
む、無理だ……。
これはさすがに避けられ──!!
◆
「『起きろ』」
「うーん……。あ、リア……」
「よかった、これは効くようだな」
「あ! 手合わせは!?」
「お前が気絶したからやめたよ。傷は大丈夫か?」
「フフッ、私を誰だと思ってるの? 『ヒール』」
ジャスミンの体が、淡い光に包まれる。
そういえば、一応聖職者だったな。
「よし、もう一度やりましょう!」
「正気か、お前?」
「当り前じゃない。何言ってんの?」
うん、正気じゃねえや。
「もっと強くなれるまで、私はやめないわよ」
「ハァ。ま、乗りかかった船だ。気が済むまで付き合うよ」
「ありがと、リア」
◆◆◆
「なあ、そろそろやめないか? もうすぐ日が暮れるぞ」
「そ、そうね。今日はもう帰りましょうか」
あれからも幾度となく挑んで来たジャスミンだが、少しづつ回避がうまくなってきていた。
そのたびに速度を上げてきていたのだが、それに順応するまでの時間も短くなっていた。
あれ、ちょっと待てよ?
「お前、今日は、って言ったか?」
「あら、言ってなかったかしら。明日も、明後日も、私が納得するまで付き合ってもらうわよ」
ま、マジか。
「ほら、早く帰りましょう。今日は、私が奢ってあげるわよ」
「『移動』。ほら、ここからなら五分で居酒屋だぜ」
「……あ、あんたねえ……」
しまった、奢りに反応してしまった!
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