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―第三十一話― 弱音

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「それじゃ、いってきまーす」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」

 さて、今日もついて・・・いきますかね。

 夢に閉じ込められてから特にやることもなくなった俺は、例の少年の背後霊のような形でずっとついてまわっている。
 にしても、この町は平和だなあ。
 サンビルに比べたらかなり田舎だが、この街では目立った犯罪なんかは起きていない。
 それに、町中の人たちが互いを家族のように扱っている。
 うんうん、平和というのはやはり素晴らしいな。

「皆様、少しでよろしいでしょうか!!」

 街道に響く耳障りな大声。
 ……こういうのって、どこの街にでもあるんだな。
 見た感じ、何かしらの宗教の宣教師の様だが、わざわざこんな田舎町にまで来る必要あるのか?
 ま、考え方は人それぞれってところか。
 てか、もう少し静かに語り掛ければ、まだだれか立ち止まってくれそうなものだがな。



 お、ここが目的地か。
 なるほど、この街の長の家ってところかな。
 俺が住んでいた家の何倍もありそうなほどに大きい。

「こんにちは、ツツジちゃんいますか?」

 ツツジ!?
 なんでその名前が……。

「あ、お兄ちゃん! 今日も遊んでくれるの?」

 扉からひょこっと顔をのぞかせたのは、少年よりも少し小さいくらいの女児だった。
 うーん、なんとなくだが、ツツジに似てなくもないような……。

 というか、お兄ちゃん!?
 こいつの妹なのか?

「ツツジちゃん、お兄ちゃんはやめてよ。一歳しか変わらないんだし、血もつながってないじゃん」

 ……なるほど、この子がこいつを慕っているだけか。

「それでも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」
「……それで、今日は何をするの?」
「えっと、今日はね……」



 それから二人は、日が暮れるまで遊んでいた。
 鬼ごっこやかくれんぼ、カードゲームにボードゲームと、気の向くままに遊んでいた。
 その二人の姿は、さながら仲良し兄妹といった感じだ。
 ……俺にも、こんな時期があったのかなあ。

「ただいまー」

 おっと、いつの間にやら、家の前にまで来ていたな。

「おお、お帰り。――――――」

 相変わらず、こいつの名前だけはノイズで聞こえないか。

「あ、おじいちゃん。こんにちは」

 この人がおじいちゃんなのか。
 にしても、この人いったいいくつなんだ?
 サンビルに居た冒険者にも引けを取らないレベルの強さを感じるんだが。

「ほら、今日は裏の山でとれたトクダイグマのピザだぞ」
「やったー!!」

 マジかよ、このじいさん。
 トクダイグマって、中堅冒険者でやっとの難易度のレベルの魔獣だぞ……。



「――さてと、お母さんの様子でも見に行こうかね」
「うん、わかった。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「あ、お薬とお水取ってくるね」



「ビオラ、調子はどうだ?」
「あ、父上。まあ、まずまずといった感じですかね」
「もうすぐ、――――――が薬を持ってくるからな」
「……分かりました」
「……それじゃあ、そろそろ家に帰るからな」
「はい。ありがとうございました」

 少し寂しげな表情を浮かべながら、じいさんは部屋からそっと出ていった。



「父上までは騙せないようですね」

 少年が薬を持ってきて数分が経過した現在、少し震えた声でビオラさんがポツリと言葉をこぼした。

『……どういう事ですか?』
「自分の体は、自分が一番わかるっていうじゃないですか? だから、わかってしまうんです。自分の死期なんかも」
『っ!?』
「多分、もってあと一年といったところでしょう。もう少ししたら死神様にでも会えるでしょうし、その時に正確な日付を聞きますが」
『……怖くはないのですか?』
「怖さというよりかは、あの子のそばにいてやれないことの辛さが一番ですね」
『そう、ですか……』

 こんな時、俺の能力が使えればいいのだがな。
 全力でやれば、多少長生きさせることだってできるかもしれない。

「フフッ、少し湿っぽい話になってしまいましたね。すみません」
『……いえ、こちらこそ申し訳ありません。少しでもビオラさんの力になれればよかったのですが……』
「私としては、こうして話し相手になってくださる方がいるだけでも十分救いになっているんですがね。それに、あの子には話せないような弱音だって、なぜだか吐けてしまいますし」
『…………』

 月明かりに照らされ、彼女の頬が僅かに光る。
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