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―第六十四話― 控室

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 控室に戻る道中、私はさっきの少女のことを考えていた。
 あの動きは、明らかに人間離れしている。
 ということは、能力で身体能力を強化している可能性が高い。
 つまり、あの少女は能力者の可能性が高いってこと……かな?

「ジャスミン、お疲れ!!」
「アマリリス! 良かった、あなたも残ってたのね!」
「うん! 本当は、あの娘とも戦いたかったんだけどねー。ビビっちゃって、行けなかった」
「私も。動こうとしたけど、動けなかった」
「殺気と魔力が凄まじかったからねー……。長剣の扱いにも慣れてたっぽいし、魔法剣使いかな?」
「でも、あれだけの動きを身体能力で出すなんて……」
「無理でしょうね。……まあ、そんな難しいこと考えてもしょうがないし、次の試合で自分が何をできるか、それを考えましょう!!」
「そう、ね。そうよね!」

 自分で考えたって、分かるはずがないし、そんなのに労力を割くのは無駄だろう。

「ジャスミンちゃんって、どうしてこの大会に出たの?」
「え?」
「いや、少し気になっただけ。私はさ、師匠に腕試ししてこいって言われたから来ただけなの。でも、他の人はどうなんだろうなーって」
「私は……、憧れの人に少しでも近づくため、かな」
「憧れの人って、もしかしてだけど、リアトリスさん?」
「うん。リアってさ、いつもは面倒くさがってあんまり働かないけど、いざってときにはすごく頼りになるの。使い方の難しい能力を自由に使いこなせるし、私に修行つけるときにも、細かいところを丁寧に教えてくれたりさ」
「ジャスミンちゃんってさ」
「ん?」

「リアトリスさんのこと好きなの?」

 私は思いっきり咳き込んだ。

「ちょ、アマリリス、あんた、なんてこと言いだすの!?」
「えー、その反応、絶対そうじゃーん!!」
「いや、そんなんじゃないから! ほんとに!」
「ふーん……」

 リアとは、そういうのじゃないから!
 単純に冒険仲間で、パーティーメンバーで、友達で、師匠みたいな人ってだけ。
 うん、それだけのはず……。

「そうだ! ジャスミン、他の参加者にも、参加理由とか聞いてみない?」
「うーん、あんまり、戦う前に仲良くしちゃうと、本気でぶつかれないというか……」
「私と仲良くしちゃってる時点で一緒でしょ。それに、何かヒントもわかっちゃうかもよ?」
「うーん。……うん。分かった。一緒に行こう!」



「こんちは―! 私、アマリリスっていうんですけど、少しお話しませんか?」
「あ? ああ、別に構わねえけど……」
「えっと、私は、ジャスミンといいます……」
「俺はブルガレ。で、何の用なんだ?」
「いや、みんなの大会の参加理由を知りたいなって思っただけです!」
「参加理由? そんなの、ロマンだ。まだ見ぬ強い相手と戦い、それを自らの手で打ち砕く。これ以上に魂の燃えることはねえ!!」
「おー、なるほど。でしたら、もし戦うことがあれば、あなたの度肝を抜いて見せますよ!」
「おう、楽しみにしてるぞ!」



「いい人だったね」
「うん。顔は少しいかつかったけど、内面が優しいタイプのだと思うよ」
「アマリリスって、人間観察するのが好きなの?」
「うん! 人の意外な一面が知れたりして、結構楽しいよ!」

 私は、あんまり人の目を見て話したりしないから、少し羨ましいな。

「ほら、次いこ!」
「うん!」

 元気だなあ。



「すみませーん」
「なに? なんか用?」
「私、アマリリスっていうんですけど……」
「知ってる。さっきから馬鹿みたいに大きな声で話してたから。……私は、クラッスラ。で、私にも参加理由を聞きに来たの?」
「はい!」

「金」

「「……え?」」
「ギャンブルで借金しちゃったから、その返済のため」
「な、なるほど……。何か困ったことがあったら、私に相談してみてください! 少しくらいなら、お役に立てるかもしれません」
「大丈夫。あと何回かやったらやめるつもりだから」
「「…………」」

 私たちは、軽くお礼を言い、そそくさとその場から立ち去った。

「知り合いにもギャンブル好きがいるんだけど、いっつも同じことばっかり言ってやめようとしないのよね……」
「ま、まあ、人にはそれぞれ趣味があるしね……。つ、次いこう!」



「ジャスミン! 良かった、残ってたんだね!」

「ローズ!?」
「……誰、この人?」
「こんにちは。僕は、ローズ。ジャスミンと同じ街から出場したんだ」
「ジャスミン、この人とリアトリスさんって、どっちの方が強いの?」

「「圧倒的にリア(リアトリス)」」

「声が揃った……。そんなに強いの!?」
「僕もそこそこ強い方なんだけど、流石にアレに敵うと思うほど天狗にはなっていないよ」
「これに関しては、比較対象が悪いわよ」
「…………。そ、そうだ! ローズさんは、どうしてこの大会に参加したんですか?」
「うーん、ギルドマスターから頼まれたからなんとなく出ただけで、そこまでちゃんとした理由はないよ」
「へー、そうなんですか」
「あ、あれ? あんまり興味ない感じ?」
「なんか、今までのが濃ゆすぎて、すっごく薄っぺらく感じちゃったんですよ」
「ご、ごめんね、ローズ」

 確かに、私も薄っぺらく感じてしまった。



「すみませーん」

 隅の方に座っていた華奢な男の子に、アマリリスが話しかける。

「ひっ! え、えと、どうかされましたか?」
「あ、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんだけど……。私、アマリリスっていうんだけど、あなたのお名前は?」
「えっと、あの、ドラセナです……」
「ドラセナは、どうしてこの大会に参加したの?」
「あ、えと、すみません。僕みたいなのが参加しちゃって……」
「あ、いや、そういうわけじゃないの! ただ、少し参加理由が気になっただけだから……」
「すみません。直感で出ただけなんです」
「直感?」
「す、すみません。そういう能力なので……」

 能力者!?
 なんか、あんまり強そうなタイプには見えなかったから、正直驚いた。

「そうなんだ! お互い、頑張りましょう!!」
「は、はい。ありがとうございます……」

 直感が関係する能力か……。
 どんなのか気になるわね……!




「えーっと、あの、今大丈夫ですか?」

 武器磨いてるっぽいし、あまり邪魔しないほうが良いんじゃ……。

「ああ、もちろんさ! 僕には聞いてくれないんじゃないかって、ひやひやしてたよ」

「そ、そうですか」
「僕は、グロリオサ。アマリリスさんと、ジャスミンさんでよろしかったかな?」
「は、はい。あの、それで、大会の参加理由を聞いてまわってるんですけど……」
「理由なんて、至極簡単さ! さらなる栄光を得るため。僕は各国で行われている様々な大会に出てるんだ。そして、そのすべてで優勝してきた」
「あ、そうなんですか。凄いですね」

「今回も僕が勝つつもりだから、君たちも頑張ってくれ」
「「は?」」

 なんか、この人むかつく。
 挑発なのかもしれないけど、私と試合があった時には、徹底的に叩き潰す!

「じゃあ、また試合の時にでも」
「はい。それじゃ、失礼します……」

 アマリリス、よく堪えた。
 途中から握りこぶし作ってたけど、よく頑張った。

「あの、すみません」
「…………」
「あのー」
「……何か用?」
「えっと、私、アマリリスていうんですけど、みんなにこの大会に出た理由を聞いてて……」
「理由なんて、別にない。出たかったから、出た」
「そ、そうですか……。あの、お名前はなんていうんですか?」
「…………ガーデニア」
「ありがとうございます。それじゃ、また後で試合で会おうね」

 なんか、威圧感がすごかった。
 もしかして、うるさくしすぎちゃったから怒ってるのかな。
 もしそうだったら、あとで謝っておかないと……。

「参加者の皆さま。サントリナ様より、差し入れでございます」

 差し入れ?

「サントリナ様の出身地であります、サンビルから取り寄せた、特注の弁当だそうです。『王都の弁当を差し入れする予定だったけど、うますぎて俺一人で全部食っちゃった。すまない。代わりの品だ。試合に響かない程度に食べとけ』だそうです」

 ……サントリナさんらしい。

「それでは、参加者の皆さまのご活躍のほどを心よりお祈り申し上げます」

 そう言って、執事らしき人物は去っていった。
 ちょうどおなかも減ってたし、今から食べようかな。

「ジャスミン、弁当取ってきたわよ!」
「早!?」
「私、食べることが何よりも好きなの! ほら、一緒に食べよ!」
「ありがと!」

 試合前だけど、こうやって少しでも落ち着ける雰囲気なのはいいな。
 弁当の味も、なんだか懐かしいような感じがするし……。
 …………。

 これ、いつも居酒屋で出てる料理じゃん!!

 だが、弁当になったことで、多少味が落ちてしまっている……。
 これは……、これは本来のサンビルの味ではない……。

「うん、これおいしー!!」
「アマリリス、今度、必ずサンビルに来なさい。本場の味を教えてあげるから」
「ちょ、ジャスミン? なんか、顔が怖いよ?」
「いい? 必ずよ!?」
「ちょ、誰か! 誰か助けてー!!」
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